愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

文字の大きさ
3 / 37

しおりを挟む
 あまりの提案にミレーはひっくり返りそうなほど驚いた。
「い、一緒に?! え、だ、だってお風呂って服を脱いで、その……裸に、なるし」
「さっきオレだけミレーの裸見ちまったし、お詫びにオレのも見せるべきかなーって」
「き、気にしないで良いんですよ? 私の裸なんて見たってなんにも得することはないけど、グランさんの裸はダメだと思います!」
「……ミレー。先に三つ言っておきたいことがある」
「はい、なんでしょう?」
「自分を卑下するな」
「……え?」
「ミレーの裸には価値がないとか、なんで自分の価値を自分で下げるようなコト言ってんだよ。ミレーの裸に価値がない? んなわけねえだろ。思っていないことは口にするんじゃねえ」
「お、思っていない? そんなこと、ないです。本当に私の裸を見たって何も……」
「じゃあ、あの暴漢どもに襲われて辱めを受けても許せたのか?」
 そう言われて、それは嫌だなと思った。
「本当に価値がないのなら、あんなゴミクズどもに何をされても当然ってなっちまうだろうが。そんなわけないんだよ。誰であれ、そんな価値しかないなんてことは絶対にない。ミレーは自分の価値を低く見積もりすぎだ。次ふざけたこと抜かしたら、本気で怒るからな!」
 もうすでに十分すぎるほど怒っている気もするが、ミレーは黙っておくことにした。
 なぜグランはこんなにもミレーのコトを評価してくれるのか、なんとなく理解した。
 この青年は、優しい心の持ち主なのだと分かった。
 だからきっと、自分を卑下した相手がミレーでなくても、同じように怒っていただろうと感じたのだ。
(私だけが特別じゃない)
 それは弁えていた。
「……ごめんなさい。もう自分のことを悪く言うことはしません」
 グランの優しい気持ちを無碍にしないために、ミレーは頑張って笑顔を作り、そう伝えた。
「言っておきたいこと二つ目。謝るな!」
「…………え?」
 謝るなと言われ、先ほどより理解不能な状態に陥った。
「悪いことしたら、謝るのではないですか?」
「悪いことをしたら、な。それなら悪いことなんてしなければいいが、まぁ自分が良かれと思ってやらかしちまうこともあるだろう。そういう時は謝れば良いが、今日ミレーと遭遇してから今に至るまで、お前ずっと謝りっぱなしだったぞ?」
「そうなの?」
「ほら、自覚していない。謝罪っていうのはミレーの中で挨拶より価値のないものになっているんじゃないのか?」
「そ、そんなことは……」
 さすがにないと思いたい、とミレーは心の中で付け足した。
「謝る気もなく咄嗟に出た謝罪を繰り返されたところで、逆に不快になるだけだ。……あと、謝ったところで絶対に許されるわけでもないんだ。何回も繰り返したところで意味なんてないだろう」
「………………え?」
 ミレーの頭は、タライでも落ちてきてぶつかったような衝撃を受けた。
「どうした?」
 突然固まったミレーを不審に思ったのか、グランが訝しそうに尋ねてくる。
「……許されないの?」
「まぁ、許されることもあるとは思うが、謝罪っていうのはそれが約束されている魔法じゃないってことだよ。だから使うとしても、それは限定して、使う頻度は減らして……って、ミレー?」
 目の前が暗黒に包まれたようだった。
 謝っても意味がない。
 それなら、自分が今まで家族に謝っていたのは、なんのためだったのだろう。
 許されたい。自分が何をしたのかはわからないが、許され、家族の一員として受け入れてもらいたかった。
 それはそもそも、叶わないことだったのだろうかと思ったら……自分のしたことが無意味だったのだとしたら……。
 身体がガクガクと震える。
 絶望感でいっぱいになっていると、頭がわしゃわしゃとかき乱され、グランが気まずそうな表情をする。
「ミレーを困らせたいわけじゃないんだ。これまでのミレーを否定したかったわけでもない。でも、出来るだけ謝らなくて良い行動をして、自分が悪くないと思ったら謝らないでほしい。もっと、自分でも自分を大切にしてほしいんだ」
「……自分を、大切にする?」
 グランは、よくわからないことばかり言う。
 でも不思議なことに、グランの言葉を忠実に守りたいと思う自分がいたことに気づく。
 だから素直にうなずけば、グランは満足そうな笑みを浮かべた。
 それが朗らかで、安心しきったものだったから、ミレーの心も満たされていく。
(不思議。この人といると、私、幸せになりたいって思ってしまう)
 幸せに生きる。それは、いつの間にかミレーが失くした気持ちであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

離婚したい女と離婚したくない男の結婚

Na20
恋愛
カレン・アイラスは犬猿の仲である男と結婚した。 レイノ・ウィズバーテンは長らく片想いしていた女と結婚した。 そんな二人の話。

好きだと先に言ったのはあなたなのに?

みみぢあん
恋愛
スタッドリー男爵令嬢ニーナは、友人にレブデール子爵令息のケインを紹介される。 出会ったばかりのケインに『好きだ』と告白された。それ以来、ニーナは毎日のように求愛され続けた。 明るくてさわやかなケインが好きになってゆき、ニーナは“秘密の恋人”となった。  ――だが、しだいにケインから避けられるようになり、ニーナは自分の他にも“秘密の恋人”がケインにはいると知る。

僕の婚約者は今日も麗しい

蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。 婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。 そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。 変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。 たぶん。きっと。幸せにしたい、です。 ※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。 心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。 ありがとうございました。

【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】

はくら(仮名)
恋愛
更新はマイペースです。 本作は別名義で『小説家になろう』にも掲載しています。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

処理中です...