2 / 58
1
それなりに背の高さがあると自覚しているミレーを軽々と抱えたまま走るグランに、思わず感嘆してしまう。
しかし下町までそれなりに距離があり、結局途中、強い雨に降られてしまった。
グランは少し身を前かがみにし、少しでもミレーに雨風が当たらないようにしてくれていたらしい。
雨も風も正面から向かってくるから、あまり意味はなかったが、その気遣いが嬉しかった。
グランの首に手をまわし抱きつく体勢で運ばれていたから見えなかったが、どうやら下町に着いたらしい。
そのわりに、あまり人の気配がない。雨だからだろうか。
グランの家は下町の外れのほうにあるらしく、家に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
雨は降りやまないどころか勢いを増して降り続けたため、二人で濡れネズミのようになってしまった。
グランの腕から下ろしてもらい、彼の住むという家を見上げて驚いた。
家というより『小屋』という感じだからだ。
それは正しいらしく、元は小屋だったものを譲り受け、家として使用しているらしい。
(グランさんの家は、あまり裕福じゃないのね)
下町の人間が皆こういう家ではないことは、ここに来る途中、雨の中からでも見て分かった。
そう思ったが、あえて口には出さない。
彼自身がそれを気にしている様子はないからだ。
家の中は外ほど狭く感じられない。簡単に見渡すと、生活に必要なものが、いたるところに置かれているにも拘わらず、生活スペースに余裕があった。
しかし埃も溜まっておらず、天井を見上げても蜘蛛の巣も張っていない。平民の家のほうが、貴族の自分の部屋より綺麗だった。
(私の部屋は、何もないし、天井に蜘蛛の巣が張っているもの)
メイドが、ミレーの部屋を掃除してくれないからだ。自分でやるにも方法がわからないし、それでもなんとか自分で掃除しようとすれば、「貴族が自ら自分の部屋を掃除するなんて!」と父から怒鳴られるため、いつもくすんだ部屋の中で生活をしていた。
今思い返してみても、あれは貴族がどうとかではなく、単に家族はミレーを汚らしい部屋に住まわせることを嘲笑いたいだけだったのだ。
ここは元小屋なのに、部屋はミレーの部屋より狭いのに、清潔感があって居心地が良かった。なにより、あたたかい。
グランは家に入ってすぐ、暖炉という暖房器具に薪をくべていて、それで部屋をあたたかくしているらしい。
初めて見る画期的な物たちに、ミレーはすっかり目を奪われてしまった。
「平民は基本、自分の家のことは自分でやると聞いたけれど、グランさんもなんですか?」
そう尋ねると、グランは呆れたような顔でミレーを見やった。
どうしてそんな表情をするのだろうと首を傾げて、すぐに自分の失言に気づいた。
「あ、その……! わた、私も自分で掃除するけれど、ここまで綺麗にはできないという、意味で!」
自分が貴族であるなど信じてもらえないかもと黙っていたが、今となっては黙っていたことが『嘘を吐いていた』とグランに嫌われる原因にならないかと不安になったのだ。
しかし、言わなくてもそれはまたそれで嘘になってしまう。
どうしたらいいか分からず困っていると、グランはミレーの頭に大きな手のひらを置いて、ポンポンと何度か叩いた。
「とりあえず風呂入ろうぜ。風邪引いちまう」
グランはそう言った後、盛大にくしゃみをした。
「あ、ごめんなさい! どうぞ先に入って……」
「一緒に入ろうぜ」
グランはニッと意地悪く笑んだ。
しかし下町までそれなりに距離があり、結局途中、強い雨に降られてしまった。
グランは少し身を前かがみにし、少しでもミレーに雨風が当たらないようにしてくれていたらしい。
雨も風も正面から向かってくるから、あまり意味はなかったが、その気遣いが嬉しかった。
グランの首に手をまわし抱きつく体勢で運ばれていたから見えなかったが、どうやら下町に着いたらしい。
そのわりに、あまり人の気配がない。雨だからだろうか。
グランの家は下町の外れのほうにあるらしく、家に着く頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
雨は降りやまないどころか勢いを増して降り続けたため、二人で濡れネズミのようになってしまった。
グランの腕から下ろしてもらい、彼の住むという家を見上げて驚いた。
家というより『小屋』という感じだからだ。
それは正しいらしく、元は小屋だったものを譲り受け、家として使用しているらしい。
(グランさんの家は、あまり裕福じゃないのね)
下町の人間が皆こういう家ではないことは、ここに来る途中、雨の中からでも見て分かった。
そう思ったが、あえて口には出さない。
彼自身がそれを気にしている様子はないからだ。
家の中は外ほど狭く感じられない。簡単に見渡すと、生活に必要なものが、いたるところに置かれているにも拘わらず、生活スペースに余裕があった。
しかし埃も溜まっておらず、天井を見上げても蜘蛛の巣も張っていない。平民の家のほうが、貴族の自分の部屋より綺麗だった。
(私の部屋は、何もないし、天井に蜘蛛の巣が張っているもの)
メイドが、ミレーの部屋を掃除してくれないからだ。自分でやるにも方法がわからないし、それでもなんとか自分で掃除しようとすれば、「貴族が自ら自分の部屋を掃除するなんて!」と父から怒鳴られるため、いつもくすんだ部屋の中で生活をしていた。
今思い返してみても、あれは貴族がどうとかではなく、単に家族はミレーを汚らしい部屋に住まわせることを嘲笑いたいだけだったのだ。
ここは元小屋なのに、部屋はミレーの部屋より狭いのに、清潔感があって居心地が良かった。なにより、あたたかい。
グランは家に入ってすぐ、暖炉という暖房器具に薪をくべていて、それで部屋をあたたかくしているらしい。
初めて見る画期的な物たちに、ミレーはすっかり目を奪われてしまった。
「平民は基本、自分の家のことは自分でやると聞いたけれど、グランさんもなんですか?」
そう尋ねると、グランは呆れたような顔でミレーを見やった。
どうしてそんな表情をするのだろうと首を傾げて、すぐに自分の失言に気づいた。
「あ、その……! わた、私も自分で掃除するけれど、ここまで綺麗にはできないという、意味で!」
自分が貴族であるなど信じてもらえないかもと黙っていたが、今となっては黙っていたことが『嘘を吐いていた』とグランに嫌われる原因にならないかと不安になったのだ。
しかし、言わなくてもそれはまたそれで嘘になってしまう。
どうしたらいいか分からず困っていると、グランはミレーの頭に大きな手のひらを置いて、ポンポンと何度か叩いた。
「とりあえず風呂入ろうぜ。風邪引いちまう」
グランはそう言った後、盛大にくしゃみをした。
「あ、ごめんなさい! どうぞ先に入って……」
「一緒に入ろうぜ」
グランはニッと意地悪く笑んだ。
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
愛を知った私は、もう二度と跪きません
阿里
恋愛
泥だらけのドレス、冷え切った食事、終わりのない書類仕事。
家族のために尽くしてきたエカテリーナに返されたのは、あまりにも残酷な追放宣告だった。
「呪われた男にでも喰われてこい」
そう笑って送り出した彼らは知らなかった。辺境伯ゼノスが、誰よりも強く、美しく、そして執着心が強い男だということを。
彼の手によって「価値ある女」へと生まれ変わったエカテリーナ。
その輝きに目が眩み、後悔して這いつくばる元家族たち。
「エカテリーナ様、どうかお助けを!」
かつて私を虐げた人たちの悲鳴を聞きながら、私は最愛の夫の腕の中で、静かに微笑む。
無能だとクビになったメイドですが、今は王宮で筆頭メイドをしています
如月ぐるぐる
恋愛
「お前の様な役立たずは首だ! さっさと出て行け!」
何年も仕えていた男爵家を追い出され、途方に暮れるシルヴィア。
しかし街の人々はシルビアを優しく受け入れ、宿屋で住み込みで働く事になる。
様々な理由により職を転々とするが、ある日、男爵家は爵位剥奪となり、近隣の子爵家の代理人が統治する事になる。
この地域に詳しく、元男爵家に仕えていた事もあり、代理人がシルヴィアに協力を求めて来たのだが……
男爵メイドから王宮筆頭メイドになるシルビアの物語が、今始まった。
【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました
さこの
恋愛
婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。
そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。
それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。
あくまで架空のゆる設定です。
ホットランキング入りしました。ありがとうございます!!
2021/08/29
*全三十話です。執筆済みです
【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~
Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。
だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと──
公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、
幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。
二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。
しかし、リリーベル十歳の誕生日。
嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、
リリーベルを取り巻く環境は一変する。
リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。
そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。
唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。
そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう……
そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は───
※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』
こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。
めちゃくちゃチートを発揮しています……