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「ありがとうございます、グランさん」
先ほどまでより素直に感謝の言葉が出てきたことに、自分でも驚いた。グランもそんなミレーを満足そうに見やりながらうなずいた。
「最後に。オレの名前は呼び捨てで頼む」
「え?」
「なんかこう……『さん』付けされると、むずがゆくなるっつーか……」
「むずがゆく……?」
「慣れないのもあるが……ミレーには特に、親しく話しかけてもらいたい」
真剣に見つめられ、ミレーの心臓がまた跳ね上がる。
月明りが灯さない夜の空のような瞳に見つめられ、その色に意識が吸い込まれそうだった。
(綺麗……)
澄んだ夜空というのは、このようなものだろうかというほど、魅力的な黒だ。
返事も返さずにぼんやりその瞳を見つめ続けていたからか、グランが不安そうなにその瞳を瞬かせた。
「……ダメか?」
こてりと首を傾げる仕草が、どこか艶めいて色気を放っている。こんな仕草が色っぽい成人男性は、おそらくグラン以外いないのではないかとミレーは思った。
あまりの破壊力に慌てて視線を逸らせると、グランは飼い主に怒られた子犬のようにしゅんと落ち込んだ。犬耳が生えていても違和感がないとさえ思った。
(かわっ……かわいい……!!)
悶絶したい気持ちをぐっと堪え、にやけそうになる顔を必死に抑えながらグランと向き合う。
「だ、ダメじゃ、ないです。グラン……」
『さん』付けをしないで名前を呼べば、彼は分かりやすく顔を輝かせた。
「サンキュー! 敬語も、無理のない範囲で良いから減らしていってくれな」
今度はグランの背後で振れる尻尾が見えそうだ。しかし目を凝らしてもやはり見えない。
やや残念な気持ちでいると、グランは笑顔のままじっとミレーを見ていた。
「な、なに……?」
「……オレは犬耳も尻尾もついてないし、『待て』もしないから、油断していたら噛みつくぜ」
そう言って笑いながらクローゼットを開けるグランに、ミレーは激しく狼狽した。
「ぐ、グランって、人の心とか読めるの?」
「読めるわけねえだろ」
呆れたように肩をすくめられたが、それでは自分の考えを読みぬいた原因の解明にはならない。
そんなミレーを、楽しそうにグランがなだめている。
その時は気づかなかったが、グランに「敬語じゃなくていい」と言われてから、自然と敬語を使わず話すことが出来ていた。
ミレーにとって、この時間は間違いなく幸せであった。
「とりあえず、風呂に入ってこい。もう湯は沸いているから」
「湯が沸く?」
ひとしきり笑い合ってから、ミレーはグランに、綺麗なタオルで髪の毛を拭いてもらっていた。
彼のミレーの髪の扱い方が、優しく労わりに満ちたものであったから、少し胸の奥がくすぐったい気持ちになった。
自分で髪の毛を拭くことなど、今までなかった。そもそもタオルという概念がない。濡れた身体も顔も髪も、全部自然乾燥だ。
「風呂の湯もさっき沸かしておいた。今ちょうどいい温度だから、ぬるくなる前に入ってこい」
「?? いい温度?」
何を言っているのか分かりかねているが、グランはそれに気づいた様子もなく、クローゼットから綺麗な白いタオルを一枚と、しわのないチュニックとズボンを持ってきた。
「今ミレーが着ている服は、明日にでも洗濯するから、浴室にある籠に入れておいてくれ」
「浴室?」
「風呂がある部屋のことだ」
この小屋は、今ミレー達がいる部屋以外にも、トイレと風呂の部屋が別にあるらしい。
「家の中でお風呂に入れるのね。すごい」
この部屋は、ミレーの暮らした部屋と違ってとてもあたたかい。ここと同じあたたかい部屋でなら、お風呂の水も冷たくないだろう。
そう伝えると、グランは驚いたようにミレーを見た。
「……ミレーはいままで風呂はどうしていたんだ?」
「え、ちゃんと毎日入っていたわ!」
「風呂に入っているかどうかじゃなくて……」
グランと話がかみ合わない気がするが、そんな疑問は浴室に入ると解決した。
先ほどまでより素直に感謝の言葉が出てきたことに、自分でも驚いた。グランもそんなミレーを満足そうに見やりながらうなずいた。
「最後に。オレの名前は呼び捨てで頼む」
「え?」
「なんかこう……『さん』付けされると、むずがゆくなるっつーか……」
「むずがゆく……?」
「慣れないのもあるが……ミレーには特に、親しく話しかけてもらいたい」
真剣に見つめられ、ミレーの心臓がまた跳ね上がる。
月明りが灯さない夜の空のような瞳に見つめられ、その色に意識が吸い込まれそうだった。
(綺麗……)
澄んだ夜空というのは、このようなものだろうかというほど、魅力的な黒だ。
返事も返さずにぼんやりその瞳を見つめ続けていたからか、グランが不安そうなにその瞳を瞬かせた。
「……ダメか?」
こてりと首を傾げる仕草が、どこか艶めいて色気を放っている。こんな仕草が色っぽい成人男性は、おそらくグラン以外いないのではないかとミレーは思った。
あまりの破壊力に慌てて視線を逸らせると、グランは飼い主に怒られた子犬のようにしゅんと落ち込んだ。犬耳が生えていても違和感がないとさえ思った。
(かわっ……かわいい……!!)
悶絶したい気持ちをぐっと堪え、にやけそうになる顔を必死に抑えながらグランと向き合う。
「だ、ダメじゃ、ないです。グラン……」
『さん』付けをしないで名前を呼べば、彼は分かりやすく顔を輝かせた。
「サンキュー! 敬語も、無理のない範囲で良いから減らしていってくれな」
今度はグランの背後で振れる尻尾が見えそうだ。しかし目を凝らしてもやはり見えない。
やや残念な気持ちでいると、グランは笑顔のままじっとミレーを見ていた。
「な、なに……?」
「……オレは犬耳も尻尾もついてないし、『待て』もしないから、油断していたら噛みつくぜ」
そう言って笑いながらクローゼットを開けるグランに、ミレーは激しく狼狽した。
「ぐ、グランって、人の心とか読めるの?」
「読めるわけねえだろ」
呆れたように肩をすくめられたが、それでは自分の考えを読みぬいた原因の解明にはならない。
そんなミレーを、楽しそうにグランがなだめている。
その時は気づかなかったが、グランに「敬語じゃなくていい」と言われてから、自然と敬語を使わず話すことが出来ていた。
ミレーにとって、この時間は間違いなく幸せであった。
「とりあえず、風呂に入ってこい。もう湯は沸いているから」
「湯が沸く?」
ひとしきり笑い合ってから、ミレーはグランに、綺麗なタオルで髪の毛を拭いてもらっていた。
彼のミレーの髪の扱い方が、優しく労わりに満ちたものであったから、少し胸の奥がくすぐったい気持ちになった。
自分で髪の毛を拭くことなど、今までなかった。そもそもタオルという概念がない。濡れた身体も顔も髪も、全部自然乾燥だ。
「風呂の湯もさっき沸かしておいた。今ちょうどいい温度だから、ぬるくなる前に入ってこい」
「?? いい温度?」
何を言っているのか分かりかねているが、グランはそれに気づいた様子もなく、クローゼットから綺麗な白いタオルを一枚と、しわのないチュニックとズボンを持ってきた。
「今ミレーが着ている服は、明日にでも洗濯するから、浴室にある籠に入れておいてくれ」
「浴室?」
「風呂がある部屋のことだ」
この小屋は、今ミレー達がいる部屋以外にも、トイレと風呂の部屋が別にあるらしい。
「家の中でお風呂に入れるのね。すごい」
この部屋は、ミレーの暮らした部屋と違ってとてもあたたかい。ここと同じあたたかい部屋でなら、お風呂の水も冷たくないだろう。
そう伝えると、グランは驚いたようにミレーを見た。
「……ミレーはいままで風呂はどうしていたんだ?」
「え、ちゃんと毎日入っていたわ!」
「風呂に入っているかどうかじゃなくて……」
グランと話がかみ合わない気がするが、そんな疑問は浴室に入ると解決した。
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