愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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 あまりの提案にミレーはひっくり返りそうなほど驚いた。
「い、一緒に?! え、だ、だってお風呂って服を脱いで、その……裸に、なるし」
「さっきオレだけミレーの裸見ちまったし、お詫びにオレのも見せるべきかなーって」
「き、気にしないで良いんですよ? 私の裸なんて見たってなんにも得することはないけど、グランさんの裸はダメだと思います!」
「……ミレー。先に三つ言っておきたいことがある」
「はい、なんでしょう?」
「自分を卑下するな」
「……え?」
「ミレーの裸には価値がないとか、なんで自分の価値を自分で下げるようなコト言ってんだよ。ミレーの裸に価値がない? んなわけねえだろ。思っていないことは口にするんじゃねえ」
「お、思っていない? そんなこと、ないです。本当に私の裸を見たって何も……」
「じゃあ、あの暴漢どもに襲われて辱めを受けても許せたのか?」
 そう言われて、それは嫌だなと思った。
「本当に価値がないのなら、あんなゴミクズどもに何をされても当然ってなっちまうだろうが。そんなわけないんだよ。誰であれ、そんな価値しかないなんてことは絶対にない。ミレーは自分の価値を低く見積もりすぎだ。次ふざけたこと抜かしたら、本気で怒るからな!」
 もうすでに十分すぎるほど怒っている気もするが、ミレーは黙っておくことにした。
 なぜグランはこんなにもミレーのコトを評価してくれるのか、なんとなく理解した。
 この青年は、優しい心の持ち主なのだと分かった。
 だからきっと、自分を卑下した相手がミレーでなくても、同じように怒っていただろうと感じたのだ。
(私だけが特別じゃない)
 それは弁えていた。
「……ごめんなさい。もう自分のことを悪く言うことはしません」
 グランの優しい気持ちを無碍にしないために、ミレーは頑張って笑顔を作り、そう伝えた。
「言っておきたいこと二つ目。謝るな!」
「…………え?」
 謝るなと言われ、先ほどより理解不能な状態に陥った。
「悪いことしたら、謝るのではないですか?」
「悪いことをしたら、な。それなら悪いことなんてしなければいいが、まぁ自分が良かれと思ってやらかしちまうこともあるだろう。そういう時は謝れば良いが、今日ミレーと遭遇してから今に至るまで、お前ずっと謝りっぱなしだったぞ?」
「そうなの?」
「ほら、自覚していない。謝罪っていうのはミレーの中で挨拶より価値のないものになっているんじゃないのか?」
「そ、そんなことは……」
 さすがにないと思いたい、とミレーは心の中で付け足した。
「謝る気もなく咄嗟に出た謝罪を繰り返されたところで、逆に不快になるだけだ。……あと、謝ったところで絶対に許されるわけでもないんだ。何回も繰り返したところで意味なんてないだろう」
「………………え?」
 ミレーの頭は、タライでも落ちてきてぶつかったような衝撃を受けた。
「どうした?」
 突然固まったミレーを不審に思ったのか、グランが訝しそうに尋ねてくる。
「……許されないの?」
「まぁ、許されることもあるとは思うが、謝罪っていうのはそれが約束されている魔法じゃないってことだよ。だから使うとしても、それは限定して、使う頻度は減らして……って、ミレー?」
 目の前が暗黒に包まれたようだった。
 謝っても意味がない。
 それなら、自分が今まで家族に謝っていたのは、なんのためだったのだろう。
 許されたい。自分が何をしたのかはわからないが、許され、家族の一員として受け入れてもらいたかった。
 それはそもそも、叶わないことだったのだろうかと思ったら……自分のしたことが無意味だったのだとしたら……。
 身体がガクガクと震える。
 絶望感でいっぱいになっていると、頭がわしゃわしゃとかき乱され、グランが気まずそうな表情をする。
「ミレーを困らせたいわけじゃないんだ。これまでのミレーを否定したかったわけでもない。でも、出来るだけ謝らなくて良い行動をして、自分が悪くないと思ったら謝らないでほしい。もっと、自分でも自分を大切にしてほしいんだ」
「……自分を、大切にする?」
 グランは、よくわからないことばかり言う。
 でも不思議なことに、グランの言葉を忠実に守りたいと思う自分がいたことに気づく。
 だから素直にうなずけば、グランは満足そうな笑みを浮かべた。
 それが朗らかで、安心しきったものだったから、ミレーの心も満たされていく。
(不思議。この人といると、私、幸せになりたいって思ってしまう)
 幸せに生きる。それは、いつの間にかミレーが失くした気持ちであった。
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