愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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 目を覚ますと、そこは見知った自分の部屋の天井ではない、小綺麗にされた低い天井が目に入った。
 だが、それを理解することが出来なかった。
頭にモヤがかかったようにぼんやりとし、とてつもない寒気と頭痛と喉の痛みや倦怠感で、ベッドから出ることが出来なかったのだ。
「ミレー。起きたのか?」
 ごほごほと咳き込んだ声に、綺麗な黒髪の男性が視界に飛び込んできた。
(あ……)
 そしてようやく、昨日の状況を思い出した。
「グラン……」
 さっきまで見ていたのは夢で、今見ている光景が現実だ、と理解することが出来て、安心した。
「無理に起きるな」
「え、でも……」
 朝ならば起きなければ、と言うコトも叶わない。声を出そうとすると咳が先に出てしまう。
「ミレーは熱があるんだ。ゆっくり休め」
 グランはミレーより早く起きていた。
 起きて部屋の空気を入れ替えて、軽く掃き掃除をしていたらしい。
 だが眠っているミレーに配慮し、この日は簡潔に終わらせたという。
 空気を入れ替えた後は窓とドアを閉め、暖炉に薪をくべて部屋を暖め直したというが、ミレーは眠っておりまったく気がつかなかった。
 グランはミレーがなかなか起きて来ないことを不審に思い、そこで熱があることに気づいたという。
「ミレー、おかゆ作ったぜ、起き上がれるか?」
「ごほっ……食欲、ない……」
「食欲がなくても、ゆっくりで良いから食え。ベッドで食うか?」
 グランの気遣いはありがたいが、ミレーは頭を振る。こんな素敵なベッドは、眠る専門にしておきたいのだ。
 頑張って寝床から這い出て、テーブルまでグランの手を借りて歩いた。
 暖炉のおかげか、部屋全体が暖かいのはありがたかった。
 今日のグランはテーブルの向かい側に座らず、ミレーの隣へ椅子を持ってきてそこへ座った。
 そして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。
 昨日のように、掬ったおかゆをミレーの口にせっせと運んでくれた。ミレーの遅い咀嚼に合わせて、急かせないように柔和な顔で見守ってくれていた。
「悪いな。昨日ちゃんと髪の毛拭いたんだが……」
「ぐら……のせい、じゃない。私こそ、めいわく……かけて、ごめ……なさ……」
「……今日町医者を呼ぶから、ゆっくり寝ていろ」
「で、でも、お父さまたちに……」
「あ?」
 帰るつもりでいたと言うミレーのセリフを察したように、グランはじろりと目を細めて睨んできた。
「こんな体調でこの寒さの中、ふらふら出歩いてみろ? 死ぬぞ!」
 怒られ、ミレーは萎縮してしまった。
 すぐに我に返ったグランが、きまりが悪そうに自身の後頭部を掻きながら謝った。
「悪い。怖がらせて」
 ミレーは身体を震わせながら、ただ頭を振るしか出来ない。
 正直、怖かったのだ。
 だが、グランが申し訳なさそうにミレーの頭を優しく撫でながら顔を寄せ、「はやく治せよ」と優しい声をかけてくれたことで、先ほどの恐怖はどこかへ消え去ってしまった。
 そして身体がぽかぽかと温まっている気がした。熱が上がったのかもしれないが、何故かこのあたたかさは心地が良かった。
「オレの服じゃ少し大きいから、通気性が良すぎたのかもな。今日ミレーの寝巻も買ってこないと」
「そ、そんな……大丈夫、だから。こんなにお世話に、なっているのに……これ以上めいわくは……」
「無理に喋るな。あと、全然迷惑じゃないから。むしろ嬉しいんだ。ミレーの力になれたようでさ」
「……え?」
「ずっと、こうしてミレーと一緒に過ごせるのを、小さい頃から夢見ていたから。オレにとって今の時間は夢のようなんだ」
 信じられないような言葉をかけてもらった。
 夢のような時間を過ごさせてもらっているのはミレーのほうだからだ。
 それに、小さい頃からとはどういう意味だろう。
 何故グランは自分にこんなに親切にしてくれるのだろうと、ミレーは少し気になった。
 だが今は熱に浮かされているからか、そんな疑問すら放棄した。
「じゃ、じゃあ、お願い、します。お、お金は、私のカバンに少しだけど、入って……」
「オレが出すから。ミレーの金は、持っているなら大切に残しておけ。実家に帰るのなら、またいつ必要になるかわからないだろう?」
「……ありがとう」
「さ、おしゃべりはこのあたりにして、飯をもう少し食え。たくさん食ってたくさん眠らないと、早く治せないぞ?」
「うん……」
 グランの優しさに感じ入りながら、ミレーはゆっくりとおかゆを噛みしめた。
 じんわりと、身体中にグランの優しさが染みわたっていくようだった。

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