14 / 37
13
しおりを挟む
目を覚ますも、布団が気持ち良くて起きあがる気持ちが削がれる。
外の冷たい大気が、一層布団の魅力を深めている。
ぼんやりとした意識の中、そんな風に全責任を布団に押し付けていると、鈴の音のようなかわいらしい声と、愛おしい声が聞こえた。
愛おしいグランの声はより一層ミレーの眠気を深めていき、夢とうつつの境界線が曖昧になっていく。
その声を聞きながら少しずつ、昨日の出来事を思い出していく。
幸せな気持ちで満たされている時も、愛おしい声は鈴の音と会話しているようだ。
(……誰と、話しているんだろう?)
グランと話している相手の声は涼やかで、まるで子守唄のように、ミレーの眠気を強く誘った。
「……以上だ。もし、ミレーの家からなにか……っても、…………以上だ。父上にもそう伝えてくれ」
(私の名前が聞こえたような気が……)
「了解いたしました。……それでは、早朝に失礼いたしました」
「いや、むしろ次も早朝で頼む。…………からな」
「ふふ。では次もそうします」
「あぁ、よろしく頼む」
グランの話し方にしては品を感じるので、これは夢だろうかと思っていた。
しかし会話を聞いているうちに、ミレーの目が覚めてきた。
「……んん」
しっかり起きなければと、ベッドの中で唸り声を上げながら、全身で伸びをした。
「……グラン?」
グランの声を聞いていたら、無性にグランが恋しくなって、手をバタバタ広げながら手探りで彼を探した。
布団が気持ちよすぎて、起きあがるのを渋った結果の怠惰な手法である。
「ミレー、起きたのか?」
「んー、起きました。……おやすみなさい」
「起きろよ、朝だぞ」
彼が呆れたように起床を促すが、その声は優しく笑っていた。
その声に励まされながら、ミレーはゆっくりとベッドから自分の身体を引きはがし、グランの姿を見つけるなり、彼を布団代わりにして抱きついた。
「寝ぼけるな」
笑うグランに、髪の毛を撫でまわされる。
「寝ぼけてないもん~~……」
「そうか? じゃあ、オレはそろそろ仕事に出かけるから、ちゃんと起きろよ」
そう告げられて、ミレーは慌てて起き上がる。
「もう行っちゃうの?!」
がばっとベッドの魅力から脱出し、グランの前に立つ。
「と思ったが、ミレーも起きたようだし、朝飯食ってから行くかな」
にっこりと意地悪な笑みを浮かべているグランに、騙されたことを悟ったミレーは拗ねたように朝の挨拶をした。
「……おはよう」
そんなミレーを、グランは笑いをかみ殺しながら見つめていた。
「ほら、飯食うぞ。と、その前に軽く口の中すすいで、冷水で顔を洗って来い。目がぱっちりと覚めるぞ」
「えぇ……冷たいの? 外寒そうなのに……」
窓に霜が貼っているのを見て、げんなりとする。
「外は寒いが浴室はあたたかいから、中で洗え。顔拭くタオルも浴室に置いてあるのを使え」
「……あ、ありがとう」
クローバー家の生活と記憶が混合したまま無意識にぼやいた自分らしからぬ言葉で、ようやく思考がハッキリしてきた。
(わ、私ったら……なにを! なにを!)
「だいぶ今の生活に慣れて、オレに気を許してくれたってことかな。気にするな。それより顔を洗ってこい」
ミレーの思考を何もかも見通したグランの言葉のせいで、ますます顔が赤くなっていく。これ以上失態を見せる前にと急いで浴室で顔を洗った。
浴室にあった水は、顔を洗うためにグランが朝早く起きて、家の外の井戸から汲んできたのだという。
彼の優しさをありがたく思うと同時に、そこまでさせてしまったことへの申し訳なさが募っていった。
「気にするな。ミレーのためなら、井戸から水を汲み出すくらい面倒でも大変でもないさ」
さらりと告げるグランの男気に、ミレーは今日最初の強い感情の揺さぶりに駆られた。
「今日の朝食は、昨日の夕食と同じ丸いパンと温かいコーンスープ、それとハムエッグに果物のリンゴだ」
それに、透明なグラスの水が傍に添えられている。
「美味しそう……」
「最近ミレーはたくさん飯を食ってくれるから、作り甲斐があるってもんだ」
「グランの作るご飯、とっても美味しいから」
「褒め言葉も上手になってきたな」
そう笑い合ってから、二人で手を合わせて食べ出した。
こんなに食事を美味しいと思えたことはなかった。
いつも、何を食べても砂を噛むようで美味しくなくて、いつからか調理人にも愛想をつかされ、ミレーは余った野菜や肉の切れ端を使って自分で雑に調理し食べ物で飢えをしのいでいた。
美味しいと思ったことなど無かったから、食事の時間も苦痛だった。
でも生き物の身体は、本能で食べることを訴えた。だから食べていた。
それが、グランは自分のために作ってくれて、一緒に食べることの幸せを知ってからは、食事が楽しい、美味しいと思うようになってきたのだ。
「そういえばグラン。私が起きる前に、誰かと話をしていなかった?」
「……誰かって?」
「なんか鈴の音のような綺麗な声の人と、話しているような……?」
「……あぁ、近所の人が心配して来てくれたんだ」
「心配?」
「……最近仕事を休んでいたから、どうしたんだって」
「あ、私の看病でお世話をかけていたから……!」
「ち、違うって! ミレーが元気になっただけで嬉しいからさ」
「グラン……」
彼の心遣いに胸がじいんと震えた。
とはいえ、このまま彼の好意に甘えて何もしないわけにはいかなかった。
これからグランと一緒に暮らすのなら、自分もお荷物ではなく役に立つ存在になりたいと思ったのだ。
外の冷たい大気が、一層布団の魅力を深めている。
ぼんやりとした意識の中、そんな風に全責任を布団に押し付けていると、鈴の音のようなかわいらしい声と、愛おしい声が聞こえた。
愛おしいグランの声はより一層ミレーの眠気を深めていき、夢とうつつの境界線が曖昧になっていく。
その声を聞きながら少しずつ、昨日の出来事を思い出していく。
幸せな気持ちで満たされている時も、愛おしい声は鈴の音と会話しているようだ。
(……誰と、話しているんだろう?)
グランと話している相手の声は涼やかで、まるで子守唄のように、ミレーの眠気を強く誘った。
「……以上だ。もし、ミレーの家からなにか……っても、…………以上だ。父上にもそう伝えてくれ」
(私の名前が聞こえたような気が……)
「了解いたしました。……それでは、早朝に失礼いたしました」
「いや、むしろ次も早朝で頼む。…………からな」
「ふふ。では次もそうします」
「あぁ、よろしく頼む」
グランの話し方にしては品を感じるので、これは夢だろうかと思っていた。
しかし会話を聞いているうちに、ミレーの目が覚めてきた。
「……んん」
しっかり起きなければと、ベッドの中で唸り声を上げながら、全身で伸びをした。
「……グラン?」
グランの声を聞いていたら、無性にグランが恋しくなって、手をバタバタ広げながら手探りで彼を探した。
布団が気持ちよすぎて、起きあがるのを渋った結果の怠惰な手法である。
「ミレー、起きたのか?」
「んー、起きました。……おやすみなさい」
「起きろよ、朝だぞ」
彼が呆れたように起床を促すが、その声は優しく笑っていた。
その声に励まされながら、ミレーはゆっくりとベッドから自分の身体を引きはがし、グランの姿を見つけるなり、彼を布団代わりにして抱きついた。
「寝ぼけるな」
笑うグランに、髪の毛を撫でまわされる。
「寝ぼけてないもん~~……」
「そうか? じゃあ、オレはそろそろ仕事に出かけるから、ちゃんと起きろよ」
そう告げられて、ミレーは慌てて起き上がる。
「もう行っちゃうの?!」
がばっとベッドの魅力から脱出し、グランの前に立つ。
「と思ったが、ミレーも起きたようだし、朝飯食ってから行くかな」
にっこりと意地悪な笑みを浮かべているグランに、騙されたことを悟ったミレーは拗ねたように朝の挨拶をした。
「……おはよう」
そんなミレーを、グランは笑いをかみ殺しながら見つめていた。
「ほら、飯食うぞ。と、その前に軽く口の中すすいで、冷水で顔を洗って来い。目がぱっちりと覚めるぞ」
「えぇ……冷たいの? 外寒そうなのに……」
窓に霜が貼っているのを見て、げんなりとする。
「外は寒いが浴室はあたたかいから、中で洗え。顔拭くタオルも浴室に置いてあるのを使え」
「……あ、ありがとう」
クローバー家の生活と記憶が混合したまま無意識にぼやいた自分らしからぬ言葉で、ようやく思考がハッキリしてきた。
(わ、私ったら……なにを! なにを!)
「だいぶ今の生活に慣れて、オレに気を許してくれたってことかな。気にするな。それより顔を洗ってこい」
ミレーの思考を何もかも見通したグランの言葉のせいで、ますます顔が赤くなっていく。これ以上失態を見せる前にと急いで浴室で顔を洗った。
浴室にあった水は、顔を洗うためにグランが朝早く起きて、家の外の井戸から汲んできたのだという。
彼の優しさをありがたく思うと同時に、そこまでさせてしまったことへの申し訳なさが募っていった。
「気にするな。ミレーのためなら、井戸から水を汲み出すくらい面倒でも大変でもないさ」
さらりと告げるグランの男気に、ミレーは今日最初の強い感情の揺さぶりに駆られた。
「今日の朝食は、昨日の夕食と同じ丸いパンと温かいコーンスープ、それとハムエッグに果物のリンゴだ」
それに、透明なグラスの水が傍に添えられている。
「美味しそう……」
「最近ミレーはたくさん飯を食ってくれるから、作り甲斐があるってもんだ」
「グランの作るご飯、とっても美味しいから」
「褒め言葉も上手になってきたな」
そう笑い合ってから、二人で手を合わせて食べ出した。
こんなに食事を美味しいと思えたことはなかった。
いつも、何を食べても砂を噛むようで美味しくなくて、いつからか調理人にも愛想をつかされ、ミレーは余った野菜や肉の切れ端を使って自分で雑に調理し食べ物で飢えをしのいでいた。
美味しいと思ったことなど無かったから、食事の時間も苦痛だった。
でも生き物の身体は、本能で食べることを訴えた。だから食べていた。
それが、グランは自分のために作ってくれて、一緒に食べることの幸せを知ってからは、食事が楽しい、美味しいと思うようになってきたのだ。
「そういえばグラン。私が起きる前に、誰かと話をしていなかった?」
「……誰かって?」
「なんか鈴の音のような綺麗な声の人と、話しているような……?」
「……あぁ、近所の人が心配して来てくれたんだ」
「心配?」
「……最近仕事を休んでいたから、どうしたんだって」
「あ、私の看病でお世話をかけていたから……!」
「ち、違うって! ミレーが元気になっただけで嬉しいからさ」
「グラン……」
彼の心遣いに胸がじいんと震えた。
とはいえ、このまま彼の好意に甘えて何もしないわけにはいかなかった。
これからグランと一緒に暮らすのなら、自分もお荷物ではなく役に立つ存在になりたいと思ったのだ。
3
あなたにおすすめの小説
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
好きだと先に言ったのはあなたなのに?
みみぢあん
恋愛
スタッドリー男爵令嬢ニーナは、友人にレブデール子爵令息のケインを紹介される。
出会ったばかりのケインに『好きだ』と告白された。それ以来、ニーナは毎日のように求愛され続けた。
明るくてさわやかなケインが好きになってゆき、ニーナは“秘密の恋人”となった。
――だが、しだいにケインから避けられるようになり、ニーナは自分の他にも“秘密の恋人”がケインにはいると知る。
僕の婚約者は今日も麗しい
蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。
婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。
そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。
変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。
たぶん。きっと。幸せにしたい、です。
※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。
心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。
ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。
ありがとうございました。
【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】
はくら(仮名)
恋愛
更新はマイペースです。
本作は別名義で『小説家になろう』にも掲載しています。
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる