愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

文字の大きさ
16 / 37

15

しおりを挟む
 習いはじめの頃は「ミレーちゃんの作るご飯は独特だねぇ」と酒場の奥さんに言葉を選ばせてしまう出来であった。
 ミレーとしては普通のご飯のつもりだが、あまり一般受けは良くないようだ。
 グランは何も言わずに食べてくれるが、「美味しい」とはお世辞にも言ってくれなかった。
(そんなにひどいものかな?)
 目の前の、自分の作った野菜くずと肉の水煮込みを見つめながら首をひねる。
 はじめは不評だった料理だが、酒場で一般的なメニューの作り方を教わってからは、グランにも「すごく上達したじゃねえか」と褒められるほどになった。
 やっぱり教わる前の料理は美味しくなかったのだな、という感想は笑顔の裏にある焼却炉で溶かして消した。
 ただ一つ気になったのが、グランの家は不思議なものが多いのだ。
「お風呂を沸かす方法が、酒場の奥さんの教えてくれた方法で巧く行かないんだけど……」
「あぁ、それ特注だから。オレがやる」
「洗濯板は……」
「それも自動でやってくれるのがある」
「なにそれ?」
「それも特注」
 なんだかよくわからない。特注というものもわからないが、分からない言葉を使えばはぐらかせると思っているようだ。
 実際はぐらかされている。
 酒場の奥さんは「グランのとこは、うちとはちょっと違うみたいだね」と困ったように教えてくれた。
 だが基本的に掃除や調理の方法は変わらないので、奥さんの教えが無駄になることはなかった。むしろ充分活かされている。

 ミレーも下町に馴染んできたと感じる頃には、肉付きも良くなって、来たばかりの頃によく風邪を引いていたのが嘘みたいに、今は健康そのものだ。
 グランは「ミレーは今まで蔑ろな生活で自分を粗末にしていたことに慣れていたから、人として最低限の暮らしが出来ているようで喜ばしい」と言う。
「ようやく、本来受けられるべき人権と栄養を得ることに慣れてきたってことだな」
 最初は聞き慣れない単語だったが、今のミレーならその意味が少しはわかった。
 これからも、この生活がずっと続くと信じていた。

 それが終わりを告げたのは、下町に来てひと月が過ぎたある早朝だ。
 目を覚ますと、窓の外に見える色はまだ暗かった。
(でも藍色。そろそろ明るくなってくるのかな。こんな早くに目が覚めるのは初めて……)
 ぼーっと空の色を眺めていたが、ふと隣のベッドを見て、グランがまだ眠っていることに気づく。
 ミレーより遅く起きるグランというのも珍しかった。
(長くて綺麗な黒いまつげ……キレイ)
 珍しい寝顔に見惚れていたが、まだ眠り続ける彼を起こさないよう静かにベッドから抜け出して、彼が目を覚ます前に部屋を暖かくしておこうと暖炉に近づいた。
 その時、コンコンと控えめに家の扉がノックされる。
(こんな陽も登らない早朝に……?)
 不審に思いつつ、ゆっくりとドアを開く。
「早朝に申し訳ありません、オリ……あ」
 鈴の音のような声と共に現れたのは、王国の紋章が刻まれた鎧を纏った見知らぬ人間だった。
(騎士……?)
 突然王国の紋章が刻まれた鎧をまとった見知らぬ人間が訪れたことに驚くが、相手も驚いた様子を見せていた。
 お互いが固まっていると、相手の騎士が先に声を発した。
「そ、早朝に失礼しました! オリヴァー様はもう起きられておりますか?」
「オリヴァーサマ?」
「はい、この家の……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

離婚したい女と離婚したくない男の結婚

Na20
恋愛
カレン・アイラスは犬猿の仲である男と結婚した。 レイノ・ウィズバーテンは長らく片想いしていた女と結婚した。 そんな二人の話。

好きだと先に言ったのはあなたなのに?

みみぢあん
恋愛
スタッドリー男爵令嬢ニーナは、友人にレブデール子爵令息のケインを紹介される。 出会ったばかりのケインに『好きだ』と告白された。それ以来、ニーナは毎日のように求愛され続けた。 明るくてさわやかなケインが好きになってゆき、ニーナは“秘密の恋人”となった。  ――だが、しだいにケインから避けられるようになり、ニーナは自分の他にも“秘密の恋人”がケインにはいると知る。

僕の婚約者は今日も麗しい

蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。 婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。 そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。 変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。 たぶん。きっと。幸せにしたい、です。 ※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。 心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。 ありがとうございました。

【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】

はくら(仮名)
恋愛
更新はマイペースです。 本作は別名義で『小説家になろう』にも掲載しています。

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

愛する人は、貴方だけ

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。 天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。 公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。 平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。 やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。

処理中です...