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「大恩人……?」
「へえ。そんなふうに思ってくれていたんだ?」
突然、グランでもイリーでもない声が割って入ったことに、ミレーはとても驚いた。
振り向くと、背後にいつから居たのか、見知らぬ男性が立っていた。
「どわあぁ!」
だが、ミレーより驚いた様子を見せたのがグランだった。
「ま、まま、マルク! おま、なんで、なんでここにいんだよ!」
「どうせ君のことだから、ミレーになんの事情も説明せずダラダラしているだけだろうと思って、イリーさんの助っ人に来たんだよ」
グランに指をさされ、マルクと呼ばれた背の高い金髪の男性が、呆れたような表情をして肩をすくめた。
グランのほうを向くと、彼は熟れたトマトのように顔を真っ赤に染めあげて狼狽していた。
「ご名答」
イリーはマルクの言葉を称賛するように、真顔で手を叩いていた。
ますます混乱するミレーに、マルクが頭を下げた。
「ご無沙汰しています、ミレー嬢」
そして、丁寧な礼をしてみせる動作に、ミレーはつい見惚れてしまった。
見惚れていると、その視界を遮るようにグランが割って入った。
威嚇するようにマルクを睨み、その目をミレーにも向けた。
「ご、ごめんなさい……」
何か怒らせることをしてしまったのかと怯え、つい謝罪の口を漏らしてしまった。それを、グランにすぐたしなめられた。
「あやまんな」
「オリヴァー。自分で怖がらせておいて、レディにその言い方はないだろう」
そんなグランも、マルクにたしなめられていた。
「怯えなくていいよ、ミレー。今の威嚇は、こいつのただの嫉妬だから」
「嫉妬……?」
マルクのフォローの意味がわからずにいると、マルクが丁寧に挨拶をしてくれた。
「話を途切らせて悪かったね。ボクはマルク・ディザクライン。ディザクライン侯爵家の一人息子にして、このオリヴァーの大恩人らしいよ」
「てめ、その話題蒸し返すな!」
「いやいや、一生忘れないようにしておくよ。大恩人だものね」
「もう大恩人とは思わねえから、忘れろ!」
ムキになって話すグランと、それを楽しそうに対応するマルクを見て、ミレーの口からつい疑問の言葉が出た。
「……二人と、どこかで会った気がする」
「え」
その言葉にすぐ反応したのは、グランだった。
「……覚えていない、けど、なんか、懐かしいって思って」
グランの熱い視線に答えるようにそう告げれば、マルクが安堵したように表情を緩めた。
「そっか。少しでも覚えてくれているようで、よかった」
「……? 昔会ったことがあるっていう話と、関係があるの?」
「うん。それはおいおい説明していくよ。話を戻すと、……どこまで話したんだい?」
話を戻そうとして、しかし横道にそれまくっていた話をどう戻そうか悩んでいたマルクに、イリーが助け船を出した。
「オリヴァー様が、公爵家で生きていくと決意されたキッカケについてです」
「あぁ、そうそう。公爵家から、隙を見ては逃げ出していたオリヴァーに、ボクがアドバイスしたんだ。……ミレーと結婚すればいい、って」
「どうしてそうなったの?」
突然の話の流れに思考が追いつかずにいると、マルクが「ふふっ」と品の良い笑い方をした。
「小さい頃、下町に来ていたミレーをグランが好いていたからだよ。当時、自分を平民だと思って結婚を諦めていたグランに、『オリヴァーとして生きれば貴族だから、貴族のミレーと結婚できるよ』ってアドバイスして背中を押してあげたんだよ。オリヴァーは、いつかミレーと結婚できるっていうのを心の支えに、公爵家の後継ぎとして頑張って生きてきたんだ」
その話を聞き、ミレーは自分の顔が熱くなっているのに気づいた。
「……え、っと、グランが、私のことを、好き……?」
真実を問うようにグランを見れば、彼は先ほどより真っ赤に染めた顔で、真面目な表情を作った。
「あぁ。……ずっと、ミレーと一緒になることだけを考えていた」
その真剣な眼差しに戸惑いながら、ミレーは視線を外して言った。
「……じゃあ、ガッカリしたんじゃないの? 幼い頃の私がグランの目にどう映っていたかはわからないけど、再会した私は、とてもみすぼらしくて……」
「どこがみすぼらしいんだよ。外見の話なら、今はすっかり肉づいて健康的で、みすぼらしくないから卑下する必要もないじゃねえか」
「で、でも……」
「言っておくが、ミレーは今だってとっても魅力的だ。あの時ミレーを諦めなくて良かったって思えるほど、とっても魅力的だ。性格も仕草も愛らしいのに、見た目もすっかり健康的になって、卑下する必要なんてなんもねえだろう?」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って……! も、ゆるして……」
これまでの人生でこんなに褒められたことがなかったミレーは、ずっと心臓が高鳴り、締め付けられるように痛くて、息を吸うのも苦しかった。
そんなミレーの様子に気づき、グランが不安そうな表情を浮かべる。
「え、オレ、なんかミレーを傷つけること言ったか……?」
戸惑う様子を見せるグランは可愛いが、そんな姿がさらに追い打ちになり、ミレーは胸を押さえたままその場でうずくまった。
「へえ。そんなふうに思ってくれていたんだ?」
突然、グランでもイリーでもない声が割って入ったことに、ミレーはとても驚いた。
振り向くと、背後にいつから居たのか、見知らぬ男性が立っていた。
「どわあぁ!」
だが、ミレーより驚いた様子を見せたのがグランだった。
「ま、まま、マルク! おま、なんで、なんでここにいんだよ!」
「どうせ君のことだから、ミレーになんの事情も説明せずダラダラしているだけだろうと思って、イリーさんの助っ人に来たんだよ」
グランに指をさされ、マルクと呼ばれた背の高い金髪の男性が、呆れたような表情をして肩をすくめた。
グランのほうを向くと、彼は熟れたトマトのように顔を真っ赤に染めあげて狼狽していた。
「ご名答」
イリーはマルクの言葉を称賛するように、真顔で手を叩いていた。
ますます混乱するミレーに、マルクが頭を下げた。
「ご無沙汰しています、ミレー嬢」
そして、丁寧な礼をしてみせる動作に、ミレーはつい見惚れてしまった。
見惚れていると、その視界を遮るようにグランが割って入った。
威嚇するようにマルクを睨み、その目をミレーにも向けた。
「ご、ごめんなさい……」
何か怒らせることをしてしまったのかと怯え、つい謝罪の口を漏らしてしまった。それを、グランにすぐたしなめられた。
「あやまんな」
「オリヴァー。自分で怖がらせておいて、レディにその言い方はないだろう」
そんなグランも、マルクにたしなめられていた。
「怯えなくていいよ、ミレー。今の威嚇は、こいつのただの嫉妬だから」
「嫉妬……?」
マルクのフォローの意味がわからずにいると、マルクが丁寧に挨拶をしてくれた。
「話を途切らせて悪かったね。ボクはマルク・ディザクライン。ディザクライン侯爵家の一人息子にして、このオリヴァーの大恩人らしいよ」
「てめ、その話題蒸し返すな!」
「いやいや、一生忘れないようにしておくよ。大恩人だものね」
「もう大恩人とは思わねえから、忘れろ!」
ムキになって話すグランと、それを楽しそうに対応するマルクを見て、ミレーの口からつい疑問の言葉が出た。
「……二人と、どこかで会った気がする」
「え」
その言葉にすぐ反応したのは、グランだった。
「……覚えていない、けど、なんか、懐かしいって思って」
グランの熱い視線に答えるようにそう告げれば、マルクが安堵したように表情を緩めた。
「そっか。少しでも覚えてくれているようで、よかった」
「……? 昔会ったことがあるっていう話と、関係があるの?」
「うん。それはおいおい説明していくよ。話を戻すと、……どこまで話したんだい?」
話を戻そうとして、しかし横道にそれまくっていた話をどう戻そうか悩んでいたマルクに、イリーが助け船を出した。
「オリヴァー様が、公爵家で生きていくと決意されたキッカケについてです」
「あぁ、そうそう。公爵家から、隙を見ては逃げ出していたオリヴァーに、ボクがアドバイスしたんだ。……ミレーと結婚すればいい、って」
「どうしてそうなったの?」
突然の話の流れに思考が追いつかずにいると、マルクが「ふふっ」と品の良い笑い方をした。
「小さい頃、下町に来ていたミレーをグランが好いていたからだよ。当時、自分を平民だと思って結婚を諦めていたグランに、『オリヴァーとして生きれば貴族だから、貴族のミレーと結婚できるよ』ってアドバイスして背中を押してあげたんだよ。オリヴァーは、いつかミレーと結婚できるっていうのを心の支えに、公爵家の後継ぎとして頑張って生きてきたんだ」
その話を聞き、ミレーは自分の顔が熱くなっているのに気づいた。
「……え、っと、グランが、私のことを、好き……?」
真実を問うようにグランを見れば、彼は先ほどより真っ赤に染めた顔で、真面目な表情を作った。
「あぁ。……ずっと、ミレーと一緒になることだけを考えていた」
その真剣な眼差しに戸惑いながら、ミレーは視線を外して言った。
「……じゃあ、ガッカリしたんじゃないの? 幼い頃の私がグランの目にどう映っていたかはわからないけど、再会した私は、とてもみすぼらしくて……」
「どこがみすぼらしいんだよ。外見の話なら、今はすっかり肉づいて健康的で、みすぼらしくないから卑下する必要もないじゃねえか」
「で、でも……」
「言っておくが、ミレーは今だってとっても魅力的だ。あの時ミレーを諦めなくて良かったって思えるほど、とっても魅力的だ。性格も仕草も愛らしいのに、見た目もすっかり健康的になって、卑下する必要なんてなんもねえだろう?」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って……! も、ゆるして……」
これまでの人生でこんなに褒められたことがなかったミレーは、ずっと心臓が高鳴り、締め付けられるように痛くて、息を吸うのも苦しかった。
そんなミレーの様子に気づき、グランが不安そうな表情を浮かべる。
「え、オレ、なんかミレーを傷つけること言ったか……?」
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