愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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 グランの話によると、3歳の頃、彼の記憶にはない双子の兄との些細な喧嘩がキッカケで、当時オリヴァーであった少年は公爵邸を出ることになったという。そして、ともに追い出された母と共に下町で暮らすことになったのだ。
 下町に馴染むのが早かったグランは、自分が貴族だとは思いもしないまま8歳まで『グラン』として暮らしていたという。
 だが8歳の時、下町の半数以上が延焼し、多くの負傷者と死者を出す大規模な火災が発生し、グランの母もその際に焼死したという。
 その火災は、幼いミレーの記憶にも薄っすらとある。大規模だったのに、近場の男爵街への被害が無かったのは奇跡的だったと、父と義母が話していたのを耳にしたのだ。
 その火災が男爵街に及ばなかったのは、下町から一番離れている公爵街からグランディア公爵家がいち早く駆けつけ尽力したため、被害が下町だけで抑えられたのだという。
 男爵街は下町に一番近くあるため、下町の人間に何かあったら住処を提供するなどの支援をしなければならない決まりなのだが、ミレーの実家であるクローバー家に誰か知らない人が来た記憶はない。そのことを、今のミレーが密かに恥じていた。
「そして、家と母さんを失ったオレは、グランディア公爵家に戻ることとなったんだ。……物心がつく前から8歳まで、下町で『グラン』として生きてきたオレは、当然のように公爵家に馴染むことが出来なくて、たびたび家を脱走しては連れ戻された。そうやっているうちに、公爵家の人間との関係に溝が出来て、オレの居場所はどこにもなくなろうとしていたんだ。そんなオレが公爵家の人間として生きていこうと思えたのは、ミレーのおかげなんだ」
「……ミレーさん?」
「おまえのことだよ」
「??? どういうこと?」
「……やっぱ覚えていないか。まぁ、この数週間一緒に暮らしていて『あぁ、忘れちまったのかな』とは思っていたけど」
「え……? えっと……」
「……ミレーは小さい頃に一度、この下町に来たことがあるんだよ。ミレーのおふくろさんに連れられて」
「……おかあさま?」
「そう、ルイーザさんだ」
「ルイーザ? カレン・クローバーじゃなくて?」
「……それは、義母の名前だろう」
「……そ、それって、じゃあ、ルイーザ……っていうのは、私の、本当のおかあさま?」
「そう。ミレーの実母だ。……覚えていないのか?」
 問われると、言葉の代わりに涙があふれ出てきた。
「ミレー……?」
「ご、ごめ……なさ……。……わた、わたしのおかあさまは、私が物心つく前に亡くなったらしくて、あまり記憶がないの。名前も教えてもらったことがない。……ただ、ぼんやりと、誰かに優しくされた記憶があって、昔ただ一人優しくしてくれたメイドが、『それは私の実母だ』って教えてくれたの。それまで、私は義母を実の母だと思っていたから、実の母には愛されていたんだって思うことが心の支えだったの……」
「……その優しくしてくれたメイドは?」
 その問いに、ミレーはゆるく頭を振る。
「……辞めたって、お父様は言っていたわ。でも多分、私にそのことを教えてくれたのがバレて、辞めさせられたんだと思う……。わだ、わだしのせいで……」
 またあふれ出す涙を止めようと袖で乱暴に目元を拭っていると、グランの指が割り込んで、ミレーの目元の雫を拭ってくれた。
「ミレーは悪くないだろう。なんでもかんでも自分のせいにしようとするな」
「だっで……だっで……」
「……そうだな。ミレーはルイーザさんにとっても愛されていた。……オレたちも良くしてもらったから、亡くなったと知ったときは、とても悲しかった」
「…………」
 自分は本当に実母に愛されていたのだと知ることが出来て、嬉しすぎて、もう嗚咽以外出ないほど泣いた。
「……ルイーザさんとミレーは、一か月ほど下町に滞在してて、ルイーザさんはオレの母さんにも良くしてくれてな、優しい人だった。ミレーは人見知りしていたのか、下町の子どもの輪に入れないでいたが、オレとマルクにだけは懐いてくれて、よく後ろを追いかけてきていたよ」
 懐かしむように表情を緩めるグランに、ミレーはしばし目を奪われていた。
「マルク?」
「あぁ。オレの親友。そして……オレが公爵家で生きていくための背中を押してくれた、大恩人、かな」
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