愛を忘れた令嬢が平民に扮した公爵子息様に娶られる話

rifa

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「先に言うと……ごめんなさい、計画は失敗しました! というか、私、やらかしちゃいました!」
 タオルで髪をだいたい拭い、ドレスの裾を絞って、あとは自然乾燥するだけ、というところでミレーがグランに頭を下げた。
 今ミレーは、並木通りで襲われた時のドレスを着ている。
 それはグランが提案したことだった。
「暴漢に襲われて監禁されていたというには、今のミレーの身体は健康的に肉づいて、髪や肌にもハリが出ている。家を出る前より状態が良いっていうのは、説得力に欠けるだろう」
 ということだ。
 そこで少しでも誤魔化せるように、髪をぐしゃぐしゃとかき乱して、屋敷で着ていたドレスを着てみせてはどうだろうと提案したのだ。
 暴漢に襲われた際切り裂かれたドレスは、グランが器用に縫いつないでくれたから、切り裂かれたなどとは思えないし、ついでに綺麗に洗濯もしてあったので、上手く誤魔化せるかは賭けであった。
 だがうまく大雨に見舞われて視界が悪くなり、うまく誤魔化せたようだ。
 しかし、うまくいったのはそこまでだった。
 本当は、ミレーを襲った暴漢たちは実は連続婦女暴行の実行グループで、婦女子が幽閉されているという噂を耳にしたある貴族が、騎士団に依頼して探させていた、という話で行こうとしていた。
 そこで助け出されたミレーにその貴族が惚れこみ結婚を申し込んだが、まずは父に無事を知らせたいミレーがイリーに連れられ報告に……という流れになる予定だった。
「でも、私がパニックになってしまって、つい、父を挑発するようなことを言ってしまって……」
 謝るミレーの言葉を、イリーが遮った。
「ミレー様が謝ることはありません。ミレー様は一ミリも悪くありません。全面的にあの家族が悪いです」
 何故かイリーは機嫌が悪そうだ。馬車に帰って来てからずっと、顔を曇らせ黙っていた。
「そうか。さて、イリー。その時の状況を全部話してくれ」
 グランの許可を得ると、イリーは堰を切ったように話しまくった。
 父と義妹が発した言葉を、一語一句間違えず伝えきったイリーに、ミレーは目を丸くして驚いた。
 隣でグランが、ものすごく怖い顔をしていることすらどうでもよく思えるほどに。
 向かいにいたマルクはとても冷静な様子で、静かにイリーの報告を聞いている。グランもそれを見習うべきだと、ミレーは感心していた。
 だが。
「ミレー。全裸で10日間はりつけ台に晒し上げるのと、昆虫やネズミが好む餌を混ぜた生ごみの穴に投げ入れて一晩放置させるの、君はどっちを選びたい?」
 全然怒りを感じさせない態度で神妙に言うから、はじめは何を言われたのか分からずにいたが、ようやくマルクが言わんとするコトの意味が分かって焦った。
「グランの提案した一万倍の仕返しする気なの?!」
「お、マルク。ようやくその気になったか!」
 語尾を弾ませるグランに、マルクと、さらにはイリーも加わって力強く頷いた。
「今なら、悪くない案だと思う」
「悪いよ! やめてってば! 思いなおしてよ~!!」
 馬車から物騒でにぎやかな声を聴きながら、馬と従者は軽やかに馬車を走らせ公爵家へと向かっていく。


 グランでありオリヴァーの実家、グランディア公爵邸が見えてきたころ、オリヴァーがミレーとイリーを気遣った。
「大丈夫か? 数時間着替えをさせてやれなかったから、気持ちが悪かっただろう。公爵邸に着いたら、すぐに湯支度と着替えを用意させるから」
「恐れ入ります」
 イリーはオリヴァーの提案を平然と受け入れていたが、ミレーはなんと返すべきか分からず、何も言えずにいた。
「それに、休憩もせずに走らせたが、もう陽も暮れるな。腹は減っているか?」
「私は大丈夫です」
 イリーが無理をした様子もなく普通に断っていたので、ミレーもそれに従うように「私も減ってない……」と返した。
 本当はとても空腹だ。お腹と背中がくっつきそうだ。実家でのやりとりと、馬車の中でマルクたちの暴走を止めるため、とてつもないエネルギーを使っていたらしいと今気づいた。
 しかし、自分より疲れていそうなイリーが平然としているのに、守られていたばかりの自分がお腹を空かせているなど恥ずかしくて言い出せなかったのだ。
 そんなミレーの心境を察しているのか否か、オリヴァーが笑いながら言った。
「まあそう言うなって。イリーもカミラに会っていけよ。しばらく会っていなかっただろう? イリーにも都合があるだろうから、ゆっくりして行けとまでは言わないが、夕食くらい一緒に食って行けよ」
「……ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
 イリーはあっさりと意見を変え、オリヴァーに頭を下げた。
「マルクも食っていくだろう?」
「ありがたくいただくことにするよ」
 マルクも、オリヴァーの誘いにあっさりと乗った。
 こんな流れになるとは思わず、今さら自分だけ断ってしまった形になって、それが先ほどよりも恥ずかしく感じられた。
 だがオリヴァーは、ミレーにも話を振った。
「ほら、マルクもイリーも食っていくってさ。だから、ミレーも一緒に食おうぜ。同じ釜の飯を食ったほうが、交友関係もより深まるだろう? 親父もミレーに会えるのを楽しみにしているって言っていたから、夕食もきっと旨いもの用意して待っているぜ。な? な?」
 また尻尾が振れている幻覚が見えた。
 ご主人様に遊んでもらうのを心待ちにしていたわんこのような笑顔を見せるオリヴァーに、ミレーは頷く以外の選択肢が削られていたことに気づく。
「……あ、ありがたくいただきます」
 その答えに満面の笑みを見せるオリヴァー。
 ミレーが素直に「食べたい」と言い出せる雰囲気を作ってくれたのだと察し、彼は誘導の天才だと感じた。

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