【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹

文字の大きさ
2 / 11

2 彼の子ども

しおりを挟む
「アメリア様、フィン様と別れてくださいませ」
「あなたはどなたです?」
「私は……私は……以前、彼とお付き合いしていた者です」

 粗末なワンピースではあるが、目がくりっとした可愛らしい女性が街でいきなり声をかけてきた。

 フィン様と婚約する前、彼の浮いた話を聞いたことはなかった。むしろ、女性と親しく話しているところを見たことがない。

 だから『お付き合いをしていた女性』がいるということが自体信じられなかった。

「お嬢様、相手にする必要はありませんわ。お下がりくださいませ」

 侍女のハンナが、私を守るように前に出て女性を睨みつけた。

「あの……あの……お願いですから、話を聞いてくださいませ」

 ガタガタと震えながら、そう告げる女性は儚くて今にも消えてしまいそうな雰囲気だった。

「ハンナ、ありがとう。でも下がって。彼女の話を聞くわ」
「お嬢様、いけません」
「だってこのままでは、気になるもの」

 何故私を呼び止めたのか、どうして別れて欲しいのかその理由を聞いてみたかったのだ。

「さあ、話してちょうだい。どうして私が彼と別れねばならないのかしら? 別れているのであれば、もう関係はないはずよ」

 この時の私は、彼女が何を言ってきても彼と婚約破棄をするつもりなどなかった。もし本当に付き合っていたとしても、それは過去の話だからだ。

「関係は……あるのです」
「あら、まだ関係が続いているとでも言うの?」

 もし本当にそうだったら、私は彼を許せるだろうか。平気な顔を取り繕ってそう質問をしたが、胸がズキリと痛んだ。

「ずっと連絡を取っていませんでした。でも……もう彼の支援がなければ私もこの子も生きていけないのです。だからこの前久しぶりに連絡をしたのですが、あなた様と結婚が決まっていると言われました」
「……この子?」
「はい」

 彼女は後ろに隠れていた、幼い男の子を私の前に出した。

「この子は……」

 紫色の三白眼に、真っ黒な髪。まるでフィン様の生き写しだった。

「はい、もうおわかりいただけたと思いますが……あの人の子です」
「フィン様の……子」
「三年前に産みました。お腹にこの子ができたことに気が付いた時には……すでに彼とは会っていませんでした。お互い愛し合っていましたが……彼は騎士として忙しくなったので、自然消滅したのです。身分が合わないこともわかっていましたから。だから、彼はこのことは知らずにあなたと婚約したのです」

 真っ青な顔で涙を浮かべながら、女性は真実を話してくれた。

「お母ちゃん、どうしたの?」
「ごめんね。なんでもないのよ」

 不安そうな表情の男の子は、その女性の足にべったりとくっついていた。

「あなた様には申し訳ないです。でも、あの人とやり直したい。この子と三人で……生きていきたい」

 汚れた服や荒れた手から、彼女や男の子が苦労をしていることはひと目でわかった。

「これを」

 私は首からネックレスを外し、彼女に渡した。これはダイヤモンドが付いているので、高く売れるはずだ。

「あ、あの……」
「そこの質屋は信用ができます。売ればしばらく暮らせるでしょう」
「こ、こんな高価なものいただけません!」
「いいの。彼はしばらく戻ってこない。帰ってきたら、話をするけれど……それまでの間、これで生活をしのいでくださいませ」

 女性は何度も何度も頭を下げ「すみません、すみません」と謝った。

 すいませんというのは、この場合どちらなのだろうか。だって、私が彼に会う前の話だ。彼女が悪いことなど何もないだろう。

「彼にはその子を育てる義務があります。責任はとってもらわねば」
「は、はい……いや、でも……」
「彼が渋っても私からお別れをするから、あなたは安心して子育てをして」

 そう告げて、私はその場を離れた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】旦那に愛人がいると知ってから

よどら文鳥
恋愛
 私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。  だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。  それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。  だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。 「……あの女、誰……!?」  この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。  だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。 ※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。

あなたと別れて、この子を生みました

キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。 クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。 自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。 この子は私一人で生んだ私一人の子だと。 ジュリアとクリスの過去に何があったのか。 子は鎹となり得るのか。 完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。 ⚠️ご注意⚠️ 作者は元サヤハピエン主義です。 え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。 誤字脱字、最初に謝っておきます。 申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ 小説家になろうさんにも時差投稿します。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件

よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます 「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」 旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。 彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。 しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。 フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。 だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。 私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。 さて……誰に相談したら良いだろうか。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

「君の回復魔法は痛い」と追放されたので、国を浄化するのをやめました

希羽
恋愛
「君の回復魔法は痛いから」と婚約破棄され、国外追放された聖女エレナ。しかし彼女の魔法は、呪いを根こそぎ消滅させる最強の聖なる焼却だった。国を見限って辺境で薬草カフェを開くと、その技術に惚れ込んだ伝説の竜王やフェンリルが常連になり、悠々自適なスローライフが始まる。 一方、エレナを追放した王国はパニックに陥っていた。新しく迎えた聖女の魔法は、ただ痛みを麻痺させるだけの「痛み止め」に過ぎず、国中に蔓延する呪いを防ぐことができなかったのだ。 原因不明の奇病、腐り落ちる騎士の腕、そして復活する魔王の封印。 「頼む、戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう遅い。 私の店は世界最強の竜王様が警備しているので、王家の使いだろうと門前払いです。 ※本作は「小説家になろう」でも投稿しています。

元カノが復縁したそうにこちらを見ているので、彼の幸せのために身を引こうとしたら意外と溺愛されていました

おりの まるる
恋愛
カーネリアは、大好きな魔法師団の副師団長であるリオンへ告白すること2回、元カノが忘れられないと振られること2回、玉砕覚悟で3回目の告白をした。 3回目の告白の返事は「友達としてなら付き合ってもいい」と言われ3年の月日を過ごした。 もう付き合うとかできないかもと諦めかけた時、ついに付き合うことがてきるように。 喜んだのもつかの間、初めてのデートで、彼を以前捨てた恋人アイオラが再びリオンの前に訪れて……。 大好きな彼の幸せを願って、身を引こうとするのだが。

処理中です...