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3 黄色い薔薇
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「お嬢様……!」
「驚いたわね。あの子フィン様にそっくりだったわ」
「あの男、最低ではありませんか! 女性なんて全く興味のないような顔をしておいて、平民に手を出して子を作っているなんて」
「……ええ、人は見かけによらないものね」
フィン様は現在十九歳。三年前というと、十六歳の時にできた子どもだ。つまり、その年齢の時には男女の関係を持っていたということだ。
私への純朴な態度から、女性が苦手そうだと思っていたのは勝手な勘違いだったようだ。
つまり、女性が苦手ではないのに私には触れてこなかったということだ。
「そもそも、彼にとっては爵位目当ての結婚だもの。本当の好みはあの彼女のような女性なのよ」
「私は許せません」
「ハンナ、私のために怒ってくれてありがとう」
「そもそも、どうしてお嬢様が引かねばならぬのですか! あの男が自分で身辺整理をして、お嬢様と結婚すべきでしょう」
それはそうかもしれない。しかし、あの二人を見て見ぬ振りをすることなんてできなかった。
「いいの、別れるわ」
「……そんな。だってお嬢様はフィン様のことをお好きだったではありませんか」
「そうね。でも、彼は私を好きじゃないわ」
私が無理矢理笑顔を作ると、ハンナはうっうっと泣き出した。ハンナは私が赤ちゃんの頃からそばにいてくれている大事な侍女だ。
「帰ってきたら話をするわね」
「何があっても、私はお嬢様の味方です」
「ありがとう」
その日の夜は、なかなか眠ることができなかった。
♢♢♢
「お嬢様、あの男から花が届きました」
怒った顔のハンナが私に花束を手渡した。あの男呼びに格下げされているのは、もちろんフィン様だ。
「……黄色い薔薇」
「やっぱり許せません! 離れている時に、こんなものを贈ってくるなんて卑怯です」
「花言葉なんて知っている人だったのね」
黄色い薔薇の花言葉は『別れてください』だ。きっとあの彼女から連絡を受け、子どものことを知り……私と婚約破棄をしたいと思ったのだろう。
そういえば帰ってきたら話したいことがあると言っていたのは、このことだったのか。
「直接言ってくれたらいいのに」
「言う勇気がないんですよ! だからこんなまわりくどいことをしてるんです」
怒り心頭のハンナは私から花束を奪い取った。
「これは捨てておきます!」
「……だめよ。花に罪はないわ」
「ですが」
「綺麗なのに可哀想だわ。飾っておいて」
「お嬢様は優しすぎます」
ハンナは怒っていたが、もしかするとフィン様は私に事前に別れる心づもりをさせてくれたのかもしれないと思っていた。
「私だけが好きだったんだもの。仕方がないわ」
別れたいという意味の花さえも、彼からの贈り物なら捨てられない。案外私は、乙女思考らしい。
それから一週間ほど経過した頃、私を訪ねて来た人がいた。
「失礼します。テオドール様が来られています。お嬢様に、どうしても話したいことがあると言われておりまして。お約束されていませんが、会われますか?」
「テオドールが? 何かわからないけど、会うわ。ちょっと待ってもらって」
テオドールは学生時代の同級生で友人だ。男前で明るくよく喋る彼は、男女問わずクラスの人気者だった。現在の彼は騎士団に勤めており、偶然にもフィン様の先輩でもある。
「テオドール、急にどうしたの?」
「ああ、アメリア。すまない急に……少し気になることがあって心配になってな」
「心配?」
テオドールは深刻そうな表情で、人払いをしてくれないかと頼んできた。密室に二人でいるわけにはいかないので、使用人たちは部屋から出して扉を開けたまま話すことにした。
「どうしたの? 人払いまでさせるなんて」
「アメリアに言うか迷ったんだが……やはり黙ってはいられない。この前、フィンが女と一緒にいるのを街で見たんだ。服装的に平民だと思う。しかも……あいつにそっくりな子どももいたんだ。信じたくはないが、フィンは君を裏切っているのかもしれない」
テオドールは眉を下げ、心配そうに私にそう告げてきた。
「驚いたわね。あの子フィン様にそっくりだったわ」
「あの男、最低ではありませんか! 女性なんて全く興味のないような顔をしておいて、平民に手を出して子を作っているなんて」
「……ええ、人は見かけによらないものね」
フィン様は現在十九歳。三年前というと、十六歳の時にできた子どもだ。つまり、その年齢の時には男女の関係を持っていたということだ。
私への純朴な態度から、女性が苦手そうだと思っていたのは勝手な勘違いだったようだ。
つまり、女性が苦手ではないのに私には触れてこなかったということだ。
「そもそも、彼にとっては爵位目当ての結婚だもの。本当の好みはあの彼女のような女性なのよ」
「私は許せません」
「ハンナ、私のために怒ってくれてありがとう」
「そもそも、どうしてお嬢様が引かねばならぬのですか! あの男が自分で身辺整理をして、お嬢様と結婚すべきでしょう」
それはそうかもしれない。しかし、あの二人を見て見ぬ振りをすることなんてできなかった。
「いいの、別れるわ」
「……そんな。だってお嬢様はフィン様のことをお好きだったではありませんか」
「そうね。でも、彼は私を好きじゃないわ」
私が無理矢理笑顔を作ると、ハンナはうっうっと泣き出した。ハンナは私が赤ちゃんの頃からそばにいてくれている大事な侍女だ。
「帰ってきたら話をするわね」
「何があっても、私はお嬢様の味方です」
「ありがとう」
その日の夜は、なかなか眠ることができなかった。
♢♢♢
「お嬢様、あの男から花が届きました」
怒った顔のハンナが私に花束を手渡した。あの男呼びに格下げされているのは、もちろんフィン様だ。
「……黄色い薔薇」
「やっぱり許せません! 離れている時に、こんなものを贈ってくるなんて卑怯です」
「花言葉なんて知っている人だったのね」
黄色い薔薇の花言葉は『別れてください』だ。きっとあの彼女から連絡を受け、子どものことを知り……私と婚約破棄をしたいと思ったのだろう。
そういえば帰ってきたら話したいことがあると言っていたのは、このことだったのか。
「直接言ってくれたらいいのに」
「言う勇気がないんですよ! だからこんなまわりくどいことをしてるんです」
怒り心頭のハンナは私から花束を奪い取った。
「これは捨てておきます!」
「……だめよ。花に罪はないわ」
「ですが」
「綺麗なのに可哀想だわ。飾っておいて」
「お嬢様は優しすぎます」
ハンナは怒っていたが、もしかするとフィン様は私に事前に別れる心づもりをさせてくれたのかもしれないと思っていた。
「私だけが好きだったんだもの。仕方がないわ」
別れたいという意味の花さえも、彼からの贈り物なら捨てられない。案外私は、乙女思考らしい。
それから一週間ほど経過した頃、私を訪ねて来た人がいた。
「失礼します。テオドール様が来られています。お嬢様に、どうしても話したいことがあると言われておりまして。お約束されていませんが、会われますか?」
「テオドールが? 何かわからないけど、会うわ。ちょっと待ってもらって」
テオドールは学生時代の同級生で友人だ。男前で明るくよく喋る彼は、男女問わずクラスの人気者だった。現在の彼は騎士団に勤めており、偶然にもフィン様の先輩でもある。
「テオドール、急にどうしたの?」
「ああ、アメリア。すまない急に……少し気になることがあって心配になってな」
「心配?」
テオドールは深刻そうな表情で、人払いをしてくれないかと頼んできた。密室に二人でいるわけにはいかないので、使用人たちは部屋から出して扉を開けたまま話すことにした。
「どうしたの? 人払いまでさせるなんて」
「アメリアに言うか迷ったんだが……やはり黙ってはいられない。この前、フィンが女と一緒にいるのを街で見たんだ。服装的に平民だと思う。しかも……あいつにそっくりな子どももいたんだ。信じたくはないが、フィンは君を裏切っているのかもしれない」
テオドールは眉を下げ、心配そうに私にそう告げてきた。
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