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5 婚約破棄
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そして予想通りフィン様は、私の元にやってきた。髪の毛を乱し、額には汗をかいていたので慌ててやってきたのだろう。
「アメ……リア……様、はぁ……これは、この手紙はどういう意味ですか」
息を切らしながら私の前に現れた彼は、いつもの無表情ではなくかなり焦った顔をしていた。
「そのままの意味ですわ」
「チューリップの意味も、人に聞いて知りました。どうして私があなたを忘れないといけないのか」
「……それはご自身の胸に手を当てて考えてくださいませ」
「ここに来るまでに考えました。でも、わかりません! わからないから、直接あなたに聞いているのです」
フィン様は私に近付いて、肩を両手で掴んだ。
「私はあなたを愛しています」
彼からの初めての愛の言葉。本来ならものすごく嬉しいはずなのに、今はとても辛い。
――今まで一度も言われたことないのに。
フィン様が私との結婚にこだわる理由は一つしかない。爵位が得られるからだ。
この男は子どもを産ませた女を見捨てて、好きでもない私に愛していると嘘をついてでも結婚をしたほうがメリットがあると思ったのだろう。
――最低だわ。
自分が愛した男はなかなか強かだったらしい。一見この権力や金に無頓着そうなフィン様は、なかなか食えない男だったようだ。
「彼女を大切にしてあげて」
「……彼女って誰のことですか」
フィン様は眉を顰めて、意味がわからないという表情をした。しらばっくれているのなら、なかなかの演技派だ。
「もう嘘はつかなくていいわ。全て知ってるから」
「全て知ってるとは? すみませんが、私には全然あなたの話が理解できない」
あくまで知らないふりを続ける彼に、私は腹が立ってきた。
「婚約破棄の書類はお送りします。慰謝料はいりませんし、世間的にはお互い円満に別れたことにしましょう」
「ちょっと待ってください。理由もわからぬまま、婚約破棄なんてしたくありません!」
「……さようなら。ハンナ、フィン様がお帰りよ」
ハンナはフィン様が家に入ってきてから、ずっと彼を睨み付けている。事情を知っている他の使用人たちもみんな、怒っているようだ。
「フィン……様、どうぞお引き取りを」
「ちょっと待ってください。アメリア様とお話を」
「お嬢様はもうあなたと話すことはございません」
執事たちも来て、フィン様は半ば強引に家の外に連れ出された。
「アメリア、本当にこれで良かったのか?」
「……はい、お父様。申し訳ありません」
「いや、私の見込み違いだった。アメリアには辛い思いをさせたな」
お父様は私の髪を撫で、慰めてくれた。フィン様に子どもがいた話を聞いた時には、許せないと怒り狂っていたが……お父様は最後は私の意思を尊重してくれた。
あまり褒められたことではないが、お父様は私が婚約をする前にフィン様の身辺を調べたらしい。結果はそれはそれは綺麗なものだったらしく、女性関係の不安は一切なかったらしい。だから、お父様は私の婿に相応しいと思ったのだと話してくれた。
だから、私が事実を話した時の第一声は『私の勘違い』ではないかと言われた。しかし、私やハンナがフィン様そっくりな子どもに会ったことを伝えると、お父様も私の話を信じてくれたのだ。
きっと平民女性との恋愛まで、詳しく調べきれていなかったのだろうと結論付けた。
「後は任せなさい。全て私が処理するから」
「はい」
「アメリアにはもっと素敵な男性が現れる」
そう慰められたが、私は当分そんな気持ちになれそうになかった。
あれから一週間、毎日のように家に来たり手紙を送ってくるフィン様。いつも冷静で淡々としている彼が、こんなことをするのはとても意外だった。
「彼女と話をさせてください」
「迷惑です。お引き取りを」
「お願いします」
大声なので、嫌でも聞こえてくる。まだ彼のことが好きなので、声を聞くだけでも辛い。
「……それだけ公爵家の肩書きが惜しいのかしら」
手紙は受け取ってはいるが、一度も読んではいない。家に来たところで、使用人たちが問答無用で追い返している。
フィン様は、婚約破棄の書類にまだサインをしてくださっていないらしい。
「アメ……リア……様、はぁ……これは、この手紙はどういう意味ですか」
息を切らしながら私の前に現れた彼は、いつもの無表情ではなくかなり焦った顔をしていた。
「そのままの意味ですわ」
「チューリップの意味も、人に聞いて知りました。どうして私があなたを忘れないといけないのか」
「……それはご自身の胸に手を当てて考えてくださいませ」
「ここに来るまでに考えました。でも、わかりません! わからないから、直接あなたに聞いているのです」
フィン様は私に近付いて、肩を両手で掴んだ。
「私はあなたを愛しています」
彼からの初めての愛の言葉。本来ならものすごく嬉しいはずなのに、今はとても辛い。
――今まで一度も言われたことないのに。
フィン様が私との結婚にこだわる理由は一つしかない。爵位が得られるからだ。
この男は子どもを産ませた女を見捨てて、好きでもない私に愛していると嘘をついてでも結婚をしたほうがメリットがあると思ったのだろう。
――最低だわ。
自分が愛した男はなかなか強かだったらしい。一見この権力や金に無頓着そうなフィン様は、なかなか食えない男だったようだ。
「彼女を大切にしてあげて」
「……彼女って誰のことですか」
フィン様は眉を顰めて、意味がわからないという表情をした。しらばっくれているのなら、なかなかの演技派だ。
「もう嘘はつかなくていいわ。全て知ってるから」
「全て知ってるとは? すみませんが、私には全然あなたの話が理解できない」
あくまで知らないふりを続ける彼に、私は腹が立ってきた。
「婚約破棄の書類はお送りします。慰謝料はいりませんし、世間的にはお互い円満に別れたことにしましょう」
「ちょっと待ってください。理由もわからぬまま、婚約破棄なんてしたくありません!」
「……さようなら。ハンナ、フィン様がお帰りよ」
ハンナはフィン様が家に入ってきてから、ずっと彼を睨み付けている。事情を知っている他の使用人たちもみんな、怒っているようだ。
「フィン……様、どうぞお引き取りを」
「ちょっと待ってください。アメリア様とお話を」
「お嬢様はもうあなたと話すことはございません」
執事たちも来て、フィン様は半ば強引に家の外に連れ出された。
「アメリア、本当にこれで良かったのか?」
「……はい、お父様。申し訳ありません」
「いや、私の見込み違いだった。アメリアには辛い思いをさせたな」
お父様は私の髪を撫で、慰めてくれた。フィン様に子どもがいた話を聞いた時には、許せないと怒り狂っていたが……お父様は最後は私の意思を尊重してくれた。
あまり褒められたことではないが、お父様は私が婚約をする前にフィン様の身辺を調べたらしい。結果はそれはそれは綺麗なものだったらしく、女性関係の不安は一切なかったらしい。だから、お父様は私の婿に相応しいと思ったのだと話してくれた。
だから、私が事実を話した時の第一声は『私の勘違い』ではないかと言われた。しかし、私やハンナがフィン様そっくりな子どもに会ったことを伝えると、お父様も私の話を信じてくれたのだ。
きっと平民女性との恋愛まで、詳しく調べきれていなかったのだろうと結論付けた。
「後は任せなさい。全て私が処理するから」
「はい」
「アメリアにはもっと素敵な男性が現れる」
そう慰められたが、私は当分そんな気持ちになれそうになかった。
あれから一週間、毎日のように家に来たり手紙を送ってくるフィン様。いつも冷静で淡々としている彼が、こんなことをするのはとても意外だった。
「彼女と話をさせてください」
「迷惑です。お引き取りを」
「お願いします」
大声なので、嫌でも聞こえてくる。まだ彼のことが好きなので、声を聞くだけでも辛い。
「……それだけ公爵家の肩書きが惜しいのかしら」
手紙は受け取ってはいるが、一度も読んではいない。家に来たところで、使用人たちが問答無用で追い返している。
フィン様は、婚約破棄の書類にまだサインをしてくださっていないらしい。
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