【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹

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【番外編】堅物騎士は愛妻家らしい

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「アメリア様、ご結婚後の生活はいかがですか?」
「ええ、幸せに暮らしているわ。旦那様はとても優しい方なので」
「優しい……のですか?」

 私は結婚してから、この質問を何度受けたかわからない。フィンが『優しい』と何度伝えても、みんなから『あの堅物騎士が?』という疑いの眼差しを向けられるので私は苦笑いをしてしまう。

 私の旦那様であるフィンは、世間では堅物だと有名だ。剣術は強くて真面目だが、基本的に無口で仕事以外の余計なことは一切話さない。お酒も飲まないので、騎士団の宴会も最低限しか顔も出さない。

「アメリア様、今日もお綺麗ですね。つい見惚れてしまいました」
「まあ、相変わらず口がお上手ですわね。人妻を揶揄ってはいけないわ」

 結婚してからも、軟派で自分の容姿に自信のある殿方は私に声をかけてくることがある。人妻が好きなのか、公爵家に近付きたいのか知らないが迷惑だわ。
 しかし、それなりに名のある貴族なので適当にかわすしかない。

「全部本音ですよ。今夜はどうしてお一人で?」
「旦那様は仕事でどうしても都合が合わなかったのです」
「酷い男だ。僕なら、あなたのような美しい妻を一人で舞踏会に行かせたりしないのにな」
「そんなこと取るに足りないことですわ。私は、国のために懸命に働いている旦那様を誇りに思っていますから」
「……強がらないでください」

 その男はいきなり距離を詰め、私の髪を掬いキスをした。気持ち悪くて、顔が歪んでしまう。

「やめてください。私に触れていいのは旦那様だけです!」

 私は抗議するように、扇子で男の手を払いのけた。

「はは、気の強いところも素敵です。でも愛のない結婚など辛いだけでしょう? 僕ならあなたを可愛がってあげられますよ」

 そんな勝手なことを言う男に、だんだん腹が立ってきた。何が愛のない結婚よ!

「今度二人きりで会いましょう」

 いやらしい顔で私に迫ってくる男から、どうやって逃げようかと考えていると、後ろから低く恐ろしい声が聞こえてきた。

「私の妻に何か用でしょうか?」

 そこにいたのは、騎士の制服を着たフィンだった。舞踏会には間に合わないと聞いていたのに、仕事を終えてそのまま来てくれたのだろうか?

「あ……あなたは……」
「アメリアの夫のフィンだ。で、何か用があるのですか?」

 フィンは目の前の男を、射殺すような鋭い目で睨みつけた。

「あ……いえ……その……」

 さっきの勢いは何だったのかと思うほど、口説いてきた男は青ざめていた。

「用がないなら失礼します。アメリア、行きましょう」
「あ、はい」

 フィンに肩を抱かれ、その場を離れようとした。しかし、何を思ったのか急にフィンは立ち止まり振り返った。

「……勝負ならいつでも受けて立ちますよ」
「え?」
「アメリアを口説くなら、私を倒してからにしてください。まあ、あなたが私に勝つのは一生無理でしょうけれど」

 冷たくそう吐き捨てて、私の肩を抱いたままズンズンと足早に歩いて行く。

 ――か、格好いい。

 私はフィンが助けに来てくれたことに、胸がきゅんとしていた。

「フィン……あの……ちょっと早いです」

 でもさっきのときめきを忘れるくらい、彼の歩くスピードが早すぎてついていくのに必死だった。

「……」
「フィンっ! ま、待ってくださいませ」

 するとフィンは無表情で私を横抱きにし、そのまま歩いて馬車に無理矢理乗せられた。

「ひゃあっ」

 フィンも馬車に乗り込み、私をぎゅうっと強く抱き締めた。

「すみません。遅くなりました」
「いえ、仕事ですから仕方ありませんよ」
「それでも……あなたを一人で行かせたくありませんでした」

 私の肩に顔を埋めたまま、苦しそうな声を出すフィンの背中をポンポンと優しく撫でた。

「……口説かれてましたね。あいつ、許せません」
「私が好きなのはフィンだけですよ」
「ありがとうございます。でも、結婚してもあなたを狙う男がいるのが嫌なのです」

 ぐりぐりと頭を動かして、甘えているフィンが何だか可愛らしい。こんな彼の姿……みんなは知らないんだものね。

「もしかして、どこか触られましたか?」
「えっと……いや、別に」

 私はその質問に、つい狼狽えてしまった。できればフィンには知られたくない。

「嘘をついていますね。どこを触られたのですか? ちゃんと教えてください」
「……」
「どこ? 早く言ってくれ」

 フィンは私から身体を離し、少し乱暴な口調で不機嫌さを滲ませた。

「か、髪です。髪にキスをされました」
「髪に……キス?」
「ええ、でもそれだけです。ちゃんと扇子で払い除けましたから」

 そう伝えると、フィンは「チッ」と舌打ちをした。

「あいつ……懲らしめておけばよかった」

 フィンは私の髪を取り、上書きするようにちゅっとキスをした。私は恥ずかしくて頬が染まった。しかし、彼はその後も髪のいろんな場所にキスを落とし続けた。

「そ、そんなにされていません。一箇所だけです」
「当たり前ですよ。こんな風にされていたら、私はあいつに何をするかわかりません」
「じゃあ、もう……やめてください。馬車の中でこんなことは恥ずかしいですから」
「……いやです」

 フィンはそのまま、私の唇に噛み付くようにキスをした。

「んんっ……ふっ……」
「可愛い。アメリア、愛してる」
「私も……んっ……愛して……ます」

 唇が腫れているのではないかと思うほど、たくさんのキスをされた。私は気持ちよさと恥ずかしさでとろんとしてしまっていた。

「私はこのままの自分でいいと思っていましたが、考えが変わりました。これからは、周りにもアメリアは私のものだと理解してもらいます。またこんなことがあっては困りますから」
「それは具体的にはどのような……?」
「秘密です。しかし、後々わかりますよ」

 フィンはにこりと微笑み、私を抱き上げて馬車をおりた。そして一直線に寝室に向かって、私をゆっくりと寝かせた。

「フィン?」
「すみません、先に謝っておきますね。今晩は優しくしてあげられないかもしれません」

 とんでもない宣言に驚いている暇もなく、彼にひたすら甘く愛された。フィンはなかなかのやきもち焼きで、私があの男に髪を触られたことをまだ許せなかったらしい。

 その日を境に彼は少しずつ態度が変わっていった。

「アメリア、迎えに来ました」
「フィン、ありがとうございます」

 私がお友達とお茶会をしていると、帰り際にフィンが迎えに来てくれた。

「私がアメリアに少しでも早く逢いたかったんですよ」

 フィンは目を細めて笑い、私の頬に軽いキスをした。外でそんなことをされたことがないので、私は身体中が熱くなった。

「あ、あ、あの堅物騎士フィン様が!」
「アメリア様の頬にキスをされていますわ」
「きゃー! しかも、早く逢いたかったですって」

 それを見たお茶会にいたご夫人方の興奮は凄かった。普段堅物な男が、妻の前だけで甘くなる……というのはときめく要素らしい。

 それからもフィンは基本的には無表情で無口なのに、私にだけは優しく甘く接し続けた。そのおかげで今や、彼は『愛妻家』として有名である。

 わたしたち夫婦仲が良いことを知って、声を掛けてくる不届者もいなくなった。

「アメリアは私のものだと周知されてよかったです」

 フィンは満足そうに頷きながら、私を見つめた。どうやら彼の作戦は成功したようだ。

 最近はフィンが愛妻家なんて『人は見かけによらないものですね』とよく言われるようになった。

 ――家の彼はもっと甘えているけれど。

 外での彼は私を『甘やかす』が、家での彼は私に『甘える』ことが多い。

 私の膝の上でうたた寝をしているフィンの髪を撫でながら、まさかフィンが家で彼がこんな様子だとは誰も思わないだろうなと考えていた。

 しかし、私はそのことは二人だけの秘密にしておくことにした。こんな可愛い彼を他の人に知られるのは勿体無いからだ。

「愛しています」

 私がフィンの頬にキスをすると、耳まで真っ赤に染まったので……どうやらこれは狸寝入りみたいだ。

 堅物で無口な旦那様の可愛い姿を見られるのは、妻だけの特権だなと幸せに思った。


番外編END



………

これで全て完結です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

こいぬ
2024.10.21 こいぬ

ひとの助言を聞かないアメリア。なんだか共感できません。

2024.10.21 大森 樹

たくさんある小説の中からお読みいただきありがとうございました。
助言を聞いてしまうとその時点で物語が終わってしまうかな…と。
でも、もっと他の書き方があったかもしれませんね。
今後の作品は、もっと魅力的な人物を書けるように頑張っていきます。

解除

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