幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
10 / 1,865
発展編

心寄せる人 4

しおりを挟む
 四宮先生から……個人的に夕食の誘い?

 その真意が分からなくて、戸惑ってしまった。

 仕事先の大事な先生ではあるが……何でわざわざ……

 僕が勘繰り過ぎているのか。

 いや……これは単なる飲みの誘いだ。

 割り切って少しの時間付き合えばいいのか。

「いいよね?もう少しこのデザインのことも話したいし、ちょっと付き合ってよ」
「あっ……はい」

 口では了承したが気乗りしなかった。

「丁度このホテルにいいBARがあるんだ。そこで酒でも飲みながら何か食べよう」
「……はい」

 先生は強引で有無言わさぬ勢いだった。
 
 でも先生とはこれからも仕事上で付き合いがあるので、機嫌を損ねるわけにはいかない。

 だから後ろをついて行くしかなかった。

  エレベーターが高層階に着くと、眼下には都心の煌めく夜景が広がっていて、男二人で入るには躊躇するような洒落た店だった。

 せめて人目に付くカウンター席がいいと思ったが、先生は慣れた足取りで奥まったソファ席を希望した。

「やっと誘いに乗ってくれたね」
「え?」

「君とは何度か仕事をしたが……いつも最後の方は時計を気にしていて、終わったらすっ飛ぶように帰ってしまうからね。今日みたいに誘う暇がなかったよ」

「……すいません」

 先生の仕事はウエディング関係なので、僕と仕事で絡むのは金曜日が多かった。

 週末の金曜日は、いつも一馬とデートの約束があったから。

 ナイターで映画を観たり、展望台から夜景を楽しむデートもしたっけ。一馬はマメで、いろんな所に連れて行ってくれた。

 夜の水族館にイルカショーも幻想的だった。

 でもどんなにお洒落なデートをしても、帰りには結局二人でコンビニで缶ビールを買って帰宅したよな。

 風呂上がりのビールはいつも半分まで。

 乾ききらない髪を一馬の指で梳かれ、顎を摘まれて口づけされた。

 深まる口づけは官能への誘い。

 そのままベッドにもつれるように移動して、抱かれた。

 翌日が休みだということもあり、お互いに少し貪欲に少し情熱的に……愛を分け合うのが金曜日の夜だった。

「瑞樹くん、花の命を奪い、俺の手で作り変えるのがね、俺には快感なんだよ」

「……はぁ」

 四宮先生とが話すことは大してないので、適当に相槌を打ちながら何杯目かのカクテルを口にした。

 甘いはずのカクテルは苦く、空腹をピリピリと刺激した。何か食べないと……でも食欲が湧かない……これでは悪酔いしてしまう。
 
 そのまま小一時間に渡り仕事の話というか……先生のフラワーデザインへの持論を延々と聞かされた。
 
 その人なりの芸術を尊重したいが、本音を言うと僕はあまり先生のデザインが好きではなかった。自然の花を人工的に作り変えてしまう冷たさを持っていたから。

 僕は野に咲くシロツメクサやクローバーなどが好きだ。踏まれても踏まれてもそれでも必死に生きて、咲く花がいい。

「いやぁ実にいい気分だ。さぁもう一杯飲もう」
「……」

 深い青色のカクテルは涙色。

 寂しく一馬への思い出を重ねていると、突然四宮先生の手が、グラスを持つ僕の手に重ねられたので驚いた。

 ビクッと肩を震わせて……見上げると、先生の眼が……ギラっと光っているようで、ぞっとした。
 
「瑞樹くん……寂しそうな眼をしているね。失恋でもしたの?」
「えっ……そんなことないです」
「俺でよかったら慰めてあげるよ。俺に抱かれてみないか。男もいいもんだよ。あぁ驚かないで、この業界じゃ珍しいことではないだろう」
「なっ……」
「君の顔が前から好みだったんだ。なぁ……どうだい?俺なら君の寂しい躰を温めてあげられるよ」
「すっすいません……」

 突然驚くことを言われ、頬をざらりと撫でられ反射的に化粧室に駆け込んでしまった。

「何だったんだ……今のは」

 もうこのまま帰りたいと思ったが、大事な書類の入った鞄をまだ椅子に置いたままなことに気づきがっくしと肩を落とした。

 先生があんな目で僕を見ていたなんて……気持ち悪い。

 背筋が凍るって、このことを言うのか。

 僕は……いつの間にそんな隙を見せたのか。

 自分の浅はかな行いが悔やまれ、化粧室で顔を洗った。

 冷静になれ!堂々としろ!
 別に悪いことなんてしていない。
 あんな同情はいらない。

 舐めまわすような視線を浴びたことへの嫌悪感と羞恥心で、洗面台に置いた手が震えた。

 滝沢さんに見つめられた時は、胸がときめいてドキドキしたのに、今は違う。恐怖でドキドキしている。

 隙を見せたのは僕だ。

 でも……僕はそんな風に自分を安売りしたいなんて、これっぽっちも思っていない。

 猛烈に滝沢さんのことが恋しくなった。

 あなたは僕が失恋したことを知っても……あんな侮辱したような言い方や行動を一切しなかった。むしろ僕の方から好感を持てる程の、穏やかな愛を注いでくれていた。

 助けて欲しい。

 戻るに戻れない状況に追い込まれていることを実感していた。

 このホテルは、僕の会社を贔屓にしてくれている大切な所で……こんな所で一介の社員の僕が騒ぎを起こすべきでないことは重々分かっていた。

 滝沢さんの名刺……あそこには電話番号が書かれていた。

 間に合うかどうか、分からないが電話を……

 震える手でスマホを取り出した。

 突然化粧室のドアが開き、はっと振り向くと酒に酔った目をした四宮先生が突然押し入ってきた。

 そのまま勢いでガバっと抱きしめられて、声を失うほど驚いた。

「やっ……」

「瑞樹くん遅いから心配したよ。あぁ君を抱きしめてみたかったよ。やっぱり花の匂いがするね。もう我慢出来ない。君の躰を早く裸に剥いてみたいよ」

 信じられないことを耳元で囁かれ、嫌悪に震えた。

 そのまま腰を強く抱かれ、下半身をこすり付けられた。硬いものが股にあたり、吐くほど気持ち悪いと思った。
 
「やめてくださいっ」

 逃げを打つと、逆に個室に力任せに押し込まれた。

「おいおい、大声を出すと人が来ちゃうよ~こんな姿見られたら、君も困るだろう」

 先生の手が僕の股間の縮こまったモノを辿り、ぎゅっと握ったので悲鳴をあげそうになった。

「ヒッ……」

 あまりに思いがけない行為に驚きすぎて声が出なかった。そのまま口づけされそうになり、必死に顔を背けると逆に首筋をべろりと舐められた。

「やっ……」

 酒臭い息が漂って吐きたくなる…一方では力任せに股間を握られ、痛みで生理的な涙が滲み出る。

「やっぱり泣き顔もいいね。ソソラレルよ。早く啼かせてみたいな」

 こんなホテルの化粧室で……なんという蛮行を!

 滝沢さんっ……

 こんなことならもっと早く連絡を取っておけばよかった。

 僕は馬鹿だ。

 こんなんじゃ……幸せは掴めない。

 助けて!

 助けて……

 
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

この冬を超えたら恋でいい

天気
BL
夜の街で、凪は人生の底にいた。 古いアパートに帰る途中、父の残した借金の取り立てに絡まれ、逃げ場を失う。 そこに現れたのは、大手企業の社長・鷹宮だった。 偶然の救い。年齢も立場も違う二人は、その夜を境に交わることになる。 事情を多く語らない凪は、不幸が当たり前のように身にまとい、誰かに頼ることを知らない。 一方の鷹宮は、完璧な成功者として生きてきた男だった。 危険から守るため、鷹宮は凪を一時的に自宅へ迎え入れる。 冬の同居生活の中で、凪は少しずつ日常を取り戻していく。 大学へ通い、温かい食事をし、夜を一人で怯えずに眠る。 しかし、守られることに慣れない凪は、距離が近づくほどに自分から一歩引いてしまう。 それは、失うことを恐れる、健気で不器用な選択だった。 一方、鷹宮は気づいてしまう。 凪が笑うだけで、胸が満たされることに。 そんな自分の感情から凪を守るつもりで引いた距離が、 凪を遠ざけてしまう。 近づきたい。 けれど、踏み込めば壊してしまうかもしれない。 互いを思うほど、すれ違いは深くなる。 2人はこの冬を越えることができるのかーー

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

君の想い

すずかけあおい
BL
インターホンを押すと、幼馴染が複雑そうな表情で出てくる。 俺の「泊めて?」の言葉はもうわかっているんだろう。 今夜、俺が恋人と同棲中の部屋には、恋人の彼女が来ている。 〔攻め〕芳貴(よしき)24歳、燈路の幼馴染。 〔受け〕燈路(ひろ)24歳、苗字は小嶋(こじま)

処理中です...