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発展編
心寄せる人 5
「もう……本当にやめてくださいっ!人を呼びます」
こんな風に、いいようにされたくない。
最後の力を振り絞り、気丈に訴えたつもりだった。
「おいおい強気だね。静かに言うことを聞かないと、君の仕事がなくなることになるよ。私の方が君みたいな一介の社員なんかよりずっと力があるからね」
「……そんなのは卑怯だ!この手を離してください」
僕より背も躰もずっと大柄な先生の力は異常だった。力づくとはこのことを言うのか……
「うーん、やっぱりここじゃ落ち着かないね。場所を変えようか。実はホテルの部屋を取ったんだ」
いつの間に。
「嫌ですっ、僕はそんなつもりありません」
「つべこべ言うなよ。君だって誘っただろう?」
「僕がいつ?」
「さっきからずっと寂しそうで、物欲しそうな顔でさ」
「酷い……言いがかりです!」
侮辱された。でもその隙を与えたのは僕だ。抵抗すると、更に先生に股間をぎゅっと力任せに掴まれてしまった。
嫌でも苦悶の声が出てしまう。
「ううっ」
「ここさぁ~潰したくないよね。行くね?俺と部屋に」
「うっ……」
激痛で目がチカチカする。
頭の中では嫌で嫌でたまらないのに、男として一番大事な急所を……弱みを握られているのでは、もうどうしたらいいのか分からない。
( 滝沢さんっ滝沢さん!)
心の中で何度も何度も彼の名を呼んだ。
****
「瑞樹、今日の夜は空いている?」
「えっ……何でですか」
「今日は夕方からTホテルでミーティングが入っていてね、その後軽くディナーでもどう?」
「あ……実は今日は仕事が夕方から入っていて」
「そうなの?夕方からなんて珍しいね」
「明日のウェディングの活け込みをデザイナーの先生がするので、アシスタントで入ることに……だからいつ終わるか時間がはっきりしなくて……すいません」
「そんな仕事もあるんだね?どこのホテル?」
「あの……それが滝沢さんと同じTホテルなんです」
「へぇ奇遇だね。じゃあ瑞樹の仕事している所でも見に行こうかな」
「だっダメですって。恥ずかしい」
「なんで?」
「だって……僕はただ花を持つ係みたいなものだから……アシスタントと言っても何をする訳でも」
「ふぅん……でも瑞樹ならいつかフラワーデザイナーになれるんじゃないかな」
「え?そんなこと言われたの、初めてです」
「そう?瑞樹は花を優しく扱うよね。シロツメグサの指輪だって、ポイっと捨てたりせずに大事にハンカチに包んで持って帰ってくれた」
「あれは……芽生くんが作ってくれた物だから」
「いや、なんというか。君といると草花も喜んでいるように感じるよ」
ふぅ……瑞樹をデートに誘うのは至難の業だな。だが俺と話すのが心の底から楽しいようで、優しい笑顔を向けてくれるようになった。
今は瑞樹が微笑む姿を見ているだけでいい。
俺は……もう焦らない。
力づくでなんて絶対に奪わない。
瑞樹に対する恋する気持ちは、大切にゆっくり優しく、歩むものだと決めているから。
****
ふぅ……ミーティングが長引きクライアントをホテル正面玄関で見送ってからようやく時計を見ると、もう20時を過ぎていた。
やれやれ瑞樹を夕食に誘わなくて正解か。俺の方が時間オーバーだ。でも、もしかしたら瑞樹はまだ仕事をしているかもしれない。
チラッと遠目からなら働く様子を見ても怒られないか。
ワクワクした気持ちでエスカレーターを降りて地下の宴会場へと歩き出すと、花のいい匂いが漂って来た。
この香りは瑞樹を彷彿するな。
全く俺はいつから……こんなにも匂いに敏感になったのか。
明日は大きな披露宴があるらしく、宴会場の前にも大掛かりなフラワーアートが飾られていた。でもなんか派手で仰々し過ぎで、好みじゃなかった。
だが瑞樹の姿は何処にもなかった。もう作業は終わったらしいな。行き違いか、残念だ。それでも諦め切れずに従業員に尋ねてみた。
「すいません。ここで花の活け込みをしていた先生とアシスタントは何処にいますか」
「あぁお二人で片付けをされた後、エレベーターに乗られて上がられましたよ。もう作業は終わったようですね」
「そうですか、ありがとうございます」
クソっ行き違いか。
上の階はロビーがあり出入り口だ。じゃあもう帰ってしまったのか。せっかく同じ場所で仕事をしていたのだから、せめて一目でも会いたかった。
ポケットに手を突っ込み外に出ようとした時、スマートフォンがブルっと震えた。
表示は見知らぬ番号だった。
でも瑞樹からだと思った!
こんな風に、いいようにされたくない。
最後の力を振り絞り、気丈に訴えたつもりだった。
「おいおい強気だね。静かに言うことを聞かないと、君の仕事がなくなることになるよ。私の方が君みたいな一介の社員なんかよりずっと力があるからね」
「……そんなのは卑怯だ!この手を離してください」
僕より背も躰もずっと大柄な先生の力は異常だった。力づくとはこのことを言うのか……
「うーん、やっぱりここじゃ落ち着かないね。場所を変えようか。実はホテルの部屋を取ったんだ」
いつの間に。
「嫌ですっ、僕はそんなつもりありません」
「つべこべ言うなよ。君だって誘っただろう?」
「僕がいつ?」
「さっきからずっと寂しそうで、物欲しそうな顔でさ」
「酷い……言いがかりです!」
侮辱された。でもその隙を与えたのは僕だ。抵抗すると、更に先生に股間をぎゅっと力任せに掴まれてしまった。
嫌でも苦悶の声が出てしまう。
「ううっ」
「ここさぁ~潰したくないよね。行くね?俺と部屋に」
「うっ……」
激痛で目がチカチカする。
頭の中では嫌で嫌でたまらないのに、男として一番大事な急所を……弱みを握られているのでは、もうどうしたらいいのか分からない。
( 滝沢さんっ滝沢さん!)
心の中で何度も何度も彼の名を呼んだ。
****
「瑞樹、今日の夜は空いている?」
「えっ……何でですか」
「今日は夕方からTホテルでミーティングが入っていてね、その後軽くディナーでもどう?」
「あ……実は今日は仕事が夕方から入っていて」
「そうなの?夕方からなんて珍しいね」
「明日のウェディングの活け込みをデザイナーの先生がするので、アシスタントで入ることに……だからいつ終わるか時間がはっきりしなくて……すいません」
「そんな仕事もあるんだね?どこのホテル?」
「あの……それが滝沢さんと同じTホテルなんです」
「へぇ奇遇だね。じゃあ瑞樹の仕事している所でも見に行こうかな」
「だっダメですって。恥ずかしい」
「なんで?」
「だって……僕はただ花を持つ係みたいなものだから……アシスタントと言っても何をする訳でも」
「ふぅん……でも瑞樹ならいつかフラワーデザイナーになれるんじゃないかな」
「え?そんなこと言われたの、初めてです」
「そう?瑞樹は花を優しく扱うよね。シロツメグサの指輪だって、ポイっと捨てたりせずに大事にハンカチに包んで持って帰ってくれた」
「あれは……芽生くんが作ってくれた物だから」
「いや、なんというか。君といると草花も喜んでいるように感じるよ」
ふぅ……瑞樹をデートに誘うのは至難の業だな。だが俺と話すのが心の底から楽しいようで、優しい笑顔を向けてくれるようになった。
今は瑞樹が微笑む姿を見ているだけでいい。
俺は……もう焦らない。
力づくでなんて絶対に奪わない。
瑞樹に対する恋する気持ちは、大切にゆっくり優しく、歩むものだと決めているから。
****
ふぅ……ミーティングが長引きクライアントをホテル正面玄関で見送ってからようやく時計を見ると、もう20時を過ぎていた。
やれやれ瑞樹を夕食に誘わなくて正解か。俺の方が時間オーバーだ。でも、もしかしたら瑞樹はまだ仕事をしているかもしれない。
チラッと遠目からなら働く様子を見ても怒られないか。
ワクワクした気持ちでエスカレーターを降りて地下の宴会場へと歩き出すと、花のいい匂いが漂って来た。
この香りは瑞樹を彷彿するな。
全く俺はいつから……こんなにも匂いに敏感になったのか。
明日は大きな披露宴があるらしく、宴会場の前にも大掛かりなフラワーアートが飾られていた。でもなんか派手で仰々し過ぎで、好みじゃなかった。
だが瑞樹の姿は何処にもなかった。もう作業は終わったらしいな。行き違いか、残念だ。それでも諦め切れずに従業員に尋ねてみた。
「すいません。ここで花の活け込みをしていた先生とアシスタントは何処にいますか」
「あぁお二人で片付けをされた後、エレベーターに乗られて上がられましたよ。もう作業は終わったようですね」
「そうですか、ありがとうございます」
クソっ行き違いか。
上の階はロビーがあり出入り口だ。じゃあもう帰ってしまったのか。せっかく同じ場所で仕事をしていたのだから、せめて一目でも会いたかった。
ポケットに手を突っ込み外に出ようとした時、スマートフォンがブルっと震えた。
表示は見知らぬ番号だった。
でも瑞樹からだと思った!
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