幸せな存在 ~歩み寄る恋をしよう~

志生帆 海

文字の大きさ
11 / 1,871
発展編

心寄せる人 5

「もう……本当にやめてくださいっ!人を呼びます」

 こんな風に、いいようにされたくない。
 最後の力を振り絞り、気丈に訴えたつもりだった。

「おいおい強気だね。静かに言うことを聞かないと、君の仕事がなくなることになるよ。私の方が君みたいな一介の社員なんかよりずっと力があるからね」

「……そんなのは卑怯だ!この手を離してください」

 僕より背も躰もずっと大柄な先生の力は異常だった。力づくとはこのことを言うのか……

「うーん、やっぱりここじゃ落ち着かないね。場所を変えようか。実はホテルの部屋を取ったんだ」

 いつの間に。

「嫌ですっ、僕はそんなつもりありません」

「つべこべ言うなよ。君だって誘っただろう?」

「僕がいつ?」

「さっきからずっと寂しそうで、物欲しそうな顔でさ」

「酷い……言いがかりです!」

 侮辱された。でもその隙を与えたのは僕だ。抵抗すると、更に先生に股間をぎゅっと力任せに掴まれてしまった。

 嫌でも苦悶の声が出てしまう。

「ううっ」

「ここさぁ~潰したくないよね。行くね?俺と部屋に」

「うっ……」

 激痛で目がチカチカする。
 
 頭の中では嫌で嫌でたまらないのに、男として一番大事な急所を……弱みを握られているのでは、もうどうしたらいいのか分からない。

 ( 滝沢さんっ滝沢さん!)

 心の中で何度も何度も彼の名を呼んだ。

 
****

「瑞樹、今日の夜は空いている?」

「えっ……何でですか」

「今日は夕方からTホテルでミーティングが入っていてね、その後軽くディナーでもどう?」

「あ……実は今日は仕事が夕方から入っていて」

「そうなの?夕方からなんて珍しいね」

「明日のウェディングの活け込みをデザイナーの先生がするので、アシスタントで入ることに……だからいつ終わるか時間がはっきりしなくて……すいません」

「そんな仕事もあるんだね?どこのホテル?」

「あの……それが滝沢さんと同じTホテルなんです」

「へぇ奇遇だね。じゃあ瑞樹の仕事している所でも見に行こうかな」

「だっダメですって。恥ずかしい」

「なんで?」

「だって……僕はただ花を持つ係みたいなものだから……アシスタントと言っても何をする訳でも」

「ふぅん……でも瑞樹ならいつかフラワーデザイナーになれるんじゃないかな」

「え?そんなこと言われたの、初めてです」

「そう?瑞樹は花を優しく扱うよね。シロツメグサの指輪だって、ポイっと捨てたりせずに大事にハンカチに包んで持って帰ってくれた」

「あれは……芽生くんが作ってくれた物だから」

「いや、なんというか。君といると草花も喜んでいるように感じるよ」

 ふぅ……瑞樹をデートに誘うのは至難の業だな。だが俺と話すのが心の底から楽しいようで、優しい笑顔を向けてくれるようになった。

 今は瑞樹が微笑む姿を見ているだけでいい。

 俺は……もう焦らない。

 力づくでなんて絶対に奪わない。

 瑞樹に対する恋する気持ちは、大切にゆっくり優しく、歩むものだと決めているから。

****

 ふぅ……ミーティングが長引きクライアントをホテル正面玄関で見送ってからようやく時計を見ると、もう20時を過ぎていた。

 やれやれ瑞樹を夕食に誘わなくて正解か。俺の方が時間オーバーだ。でも、もしかしたら瑞樹はまだ仕事をしているかもしれない。

 チラッと遠目からなら働く様子を見ても怒られないか。

 ワクワクした気持ちでエスカレーターを降りて地下の宴会場へと歩き出すと、花のいい匂いが漂って来た。

 この香りは瑞樹を彷彿するな。

 全く俺はいつから……こんなにも匂いに敏感になったのか。

 明日は大きな披露宴があるらしく、宴会場の前にも大掛かりなフラワーアートが飾られていた。でもなんか派手で仰々し過ぎで、好みじゃなかった。

 だが瑞樹の姿は何処にもなかった。もう作業は終わったらしいな。行き違いか、残念だ。それでも諦め切れずに従業員に尋ねてみた。

「すいません。ここで花の活け込みをしていた先生とアシスタントは何処にいますか」

「あぁお二人で片付けをされた後、エレベーターに乗られて上がられましたよ。もう作業は終わったようですね」

「そうですか、ありがとうございます」

 クソっ行き違いか。

 上の階はロビーがあり出入り口だ。じゃあもう帰ってしまったのか。せっかく同じ場所で仕事をしていたのだから、せめて一目でも会いたかった。

 ポケットに手を突っ込み外に出ようとした時、スマートフォンがブルっと震えた。

 表示は見知らぬ番号だった。

 でも瑞樹からだと思った!

 
感想 88

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。