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番外編
その後の三人『さらに……初々しい日々』3
しおりを挟む平日の朝は忙しい。特に旅行帰りは、洗濯物が山のようで大変だ。
「瑞樹、俺が洗濯物を取ってくるから、芽生をそろそろ起こしてくれ」
「はい! 干すのは手伝います」
「ありがとう」
男二人でワタワタするが、こうやって手分けして、なんとかこなしているのさ。脱衣所に置いてある洗濯機から洗濯物を取り出していると、ポロポロと白い屑が衣類にくっついている。
「ん? これは……まさか」
案の定、芽生の小さなズボンをはたくと、大量の白い塵が空に舞った。雪みたいに綺麗だなと一瞬見蕩れたが、違う違う! と頭をブンブン横に振った。
「うぉ……またヤラレタ!」
犯人はティッシュだな。そうか……昨日羊を忘れて空港で芽生がべそをかいた時、鼻水が出て……瑞樹がティッシュを渡していたな。それをポケットに入れたままだったのか。
ううう……瑞樹も俺も抜かった!
いつもなら洗濯前に、几帳面な瑞樹がポケットの中を確かめているのに、昨日は相当疲れていたのだろう。朝は朝で、明け方見た夢に震え、どこかぼんやりしていたしな。
やれやれ……これは朝から掃除機をかけないとならないレベルだ。しかも濡れた洗濯物にこびりついたティッシュはどうすんだ? 俺の黒いズボンなんて目も当てられないぞ。
床にしゃがんで大きな屑を拾おうとして、手がぴたりと止まった。
「これは何だ? ティッシュじゃないみたいだ」
手に取ったらボロボロに崩れそうな四つ折りの……小さなメモだった。
「手紙?」
うっすら読めてしまった文字に、ハッとした。
『瑞樹は水を忘れるな』
『どうか幸せになって欲しい』
これは……瑞樹の前の彼氏からの手紙?
水に滲んで辛うじて読み取れたのは、この二行だけだったが、そう察した。
そうか……君は2年前彼氏との別れ際に、こんな手紙をもらっていたのか。そして返事をしようと、この手紙を由布院に持って行ったのか。
結局渡すことも捨てることも出来ず、また持って帰ってきたなんて、瑞樹らしいな。
「宗吾さん? これは一体……」
そのタイミングで芽生と手を繋いだ瑞樹が、脱衣所にやってきた。
「わー、パパ、すごいね! 雪がふったの?」
「芽生~! コラッ、昨日ティッシュをまたポケットに入れっぱなしにしたな?」
「あ! わっーごめんなさい」
「掃除機をかけるぞ。それと瑞樹もだぞ」
「あ!」
瑞樹がハッとした表情を浮かべた。
「あ……僕も、もしかして入れっぱなしに?」
「あぁ、これは持ち上げたらボロボロになって崩れてしまうだろう。どうする?」
「あ、あの……宗吾さん……それは……あの日の置き手紙です。返そうとも捨てようとも思ったのに結局持ち帰ってしまいました。す、すみません」
「謝ることじゃない。だが、それより良かったのか。もう読めなくなるが」
俺の質問に……瑞樹はもう完璧に吹っ切れているようで、切ない顔ではなく、優しい笑みを浮かべていた。
「宗吾さん……いい機会でした。僕から捨てることも出来なかったけれども、こうやって無くなるのなら、悔いはないですね。あ、あの……不謹慎かもしれませんが芽生くんのティッシュにまみれて、雪に包まれてるみたいで綺麗だなと……だから、このまま浄化されたら……と思います」
確かに、俺もそう思ったよ。
「パパ、おこってる?」
「芽生! もうしちゃ駄目だぞ。床も洗濯物も大惨事だからな」
「うう、ごめんなさい」
「僕も、ごめんなさい!」
瑞樹も一緒になって謝る様子に、俺もくくっと笑ってしまった。
「お前たちは、そんなところも似てきたな」
「え、そうですか」
「おにいちゃんといっしょならいいかな」
俺の言葉は二人を喜ばせたようだ。うーむ、旅館でジュースを同時にこぼしたりと、失敗する箇所が似ていると指摘するのは、やめておいた方がいいか。
「宗吾さん、洗濯物どうしましょう?」
「まぁ……もう時間切れだ。今日は帰ってからするか。そろそろ朝飯を食べないと遅刻するぞ」
「そうですね。じゃあ掃除機だけでも」
「あぁ、飯の準備してくるから、ここは任せた。芽生はおばあちゃんちに行くから着替えろ!」
****
あの日冷蔵庫に張ってあった手紙を一馬に返そうと、旅行に持って行った。
しかし最初は話す機会もなかったし……結局ちゃんと別れを言い合ってお互いの幸せを認め合ったから、今更渡さなくても全部通じていると感じ、最後はシャツの胸ポケットに入れたままだった。
まさかこの2年間大切に持っていた手紙を、こんな風に洗濯してしまうなんて……でも、僕の心はスッキリしている。
僕にはもう必要のない手紙だし、返事は直接伝えられたのだから必要ないという意味なのかな。
手に取ると、予想通りボロボロと崩れて雪と同化してしまった。
だから心を決めて、ティッシュと一緒に掃除機で吸い込んだ。
僕と付き合っていた一馬とは、本当にさよならだな。これからは違うスタイルになろう。これであいつが残した物は、全部消えてしまった。
床が綺麗になると、僕の心もスッキリしていた。
窓の外の青空のように、澄み渡っていた。
これも新しい1日に相応しい出来事だ。
「瑞樹、おーい、目玉焼きが焼けたぞ」
「はい! 今行きます!」
さぁ始めよう!
もう宗吾さんで一色の、僕の今日を――!
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