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番外編
その後の三人『さらに……初々しい日々』4
芽生くんをお母さんの家に送り届けるために、少し早く家を出た。3月も下旬……うららかな春の朝日を浴びると、新鮮な気持ちが増してきた。
「瑞樹、今日は少し遅くなるが、君は?」
「今日は内勤ですので、そう遅くはならないです」
「よかった。空港から送った荷物を受け取ってくれるか」
「あ、はい!」
「洗濯物には要注意だぞ」
「くすっ、了解です」
今朝は朝からティッシュの屑にまみれて大変だったな。いつもならしないミスをしてしまったが、結果……まぁ良かったのか。
あの手紙……あぁいうカタチで消滅したのが一番良かったと思えるから。なるようになるだな……手紙を持って迷っていた。ずっと僕が持っているのも何かが違う気がして。
「母さん、おはよう!」
「おばあちゃん、おはよう!」
「お母さん、おはようございます」
三人で声をそろえて朝の挨拶をすると、白い割烹着姿のお母さんも笑顔で迎えてくれた。
朝から何か作っていたのかな。出汁のいい匂いがしてくる。
「お帰りなさい、三人とも元気に帰ってきたわね」
「うん、すごくたのしい旅行だったよ~」
「良かったわね。芽生」
芽生くんはもう靴を脱いで、廊下に上がっていた。
その時点でお母さんへのお土産まで荷物に入れて送ってしまったことに、気付いた。
「あの……お土産は、明日持ってきます。実はすごい荷物になったので、空港から送ったので」
「ふふ、ということは……憲吾に会えたのね」
「あ、はい! あ……お母さんが僕の実家を教えて下さったのですね」
「憲吾はちゃんと顔を出したようね」
「はい! 兄も喜んでいました」
「良かったわ。私もまた落ち着いたら遊びに行きたいわ。お兄さんの所にも、赤ちゃんがもうすぐやってくるのよね。憲吾の所と一ヶ月違いなんて、瑞樹も忙しくなるわね」
「はい、どちらも、とても楽しみです」
なんだか不思議だ。こんな風に当たり前のように、僕の函館の家族のことが話題に上るなんて。宗吾さんとは家族ぐるみで付き合っているのだなと改めて実感してしまうよ。
「さぁさぁ、いってらっしゃい。あ、これ持って行きなさい」
お母さんに手渡されたのは、お弁当だった。
「え?」
「旅行帰りで疲れているでしょう。今日はお弁当を持っていきなさい」
「えっ、いいんですか」
「当たり前よ。さぁどうぞ」
「ありがとうございます」
『お母さん』と呼べる人から……お弁当を作ってもらうのは、いつぶりだろう。まだ少しあたたかくて、お母さんの愛情をじわっと感じた。
「宗吾も外食ばかりじゃ身体に悪いから、ほら」
「わ、俺にもあるのか。サンキュ!」
宗吾さんと駅に向かって歩いていると、桜の枝に蕾が膨らんでいた。
「こっちもそろそろ咲きそうだな」
「本当だ。今年も例年より早そうですね」
「去年も早かったな。そうか、ちょうど今頃か……俺が大沼に君を迎えに行ったのは」
目を閉じれば、今でもあのシーンが色鮮やかに蘇る。
白銀の世界から飛び立つ白鳥。
それと引き換えのように動くようになった僕の指。
思わず歩きながら自分の指を見つめてしまった。
結局……傷跡はうっすら残ってしまったが、この傷は勲章だ。
僕が僕を守った証し。
「嬉しかったです。あの日……あの場所で再会出来て」
「うん」
「今も嬉しいです」
「うん?」
「こうやって二人で歩くだけも、幸せです」
何気なく告げた一言に、宗吾さんの顔が赤くなった。そしてその場で立ち止まり、僕の髪にそっと触れてきた。
「あ、あの……」
こんな朝から? こんな場所で? ドキドキしてしまったら、宗吾さんに笑われた。
「はは、何を期待した? ほら、これがついていたぞ」
「あっ」
指に摘ままれたのは、舞い上がったティッシュの屑だった。あの日は空からちらちらと舞い降りてくる雪が髪についたが、今は……
「くすっ、もう、ムードないですね」
「そうか。これはこれで最高だぞ。一緒に暮らしてる証だ」
「そうですね」
「俺さ……ずっと前から君に憧れていた」
宗吾さんが照れくさそうに朝日を拝むように顔をあげた。
「幼稚園のバス停で、いつも見ていたんだ。君と彼氏がニコニコ話しながら坂を下っているのを。生まれ変わったら瑞樹みたいな恋人と出会いたいって思っていた」
びっくりした。一馬と付き合っている時には、全然気付かなかった宗吾さんの視線。そんな風に思ってくれていたなんて……泣けてくる。
「生まれ変わらなくても、出会えましたね」
「あぁ……だから君のこと、本当に大切なんだ」
「僕も……僕もです。宗吾さんがあの公園で声をかけてくれた時から、僕の人生は大きく変わりました。何もかもが開けて……」
お互い顔を見合わせて、微笑んだ。
「朝から、俺たちアチチだな。だが、今日はなんだか無性に君に伝えたい気分だった」
「分かります。僕も同じ気分です」
「おっと、遅刻するぞ。ちょっと急ごう!」
僕たちは走り出す。
今日という日を――
この先……宗吾さんと過ごす日は、きっとありふれた日常の積み重ねになっていく。毎日がドラマチックでなくていい。僕が欲しかったのは、家族そろって笑顔で迎える明日だったから、それが嬉しい。
「なぁ、瑞樹……君と一緒に暮らすようになって、まだ1年未満だなんて信じられないな。ということは、まだまだ新婚だぞ」
電車を待つホームで、アナウンスに紛れて届く熱い言葉。
宗吾さんのまっすぐに想いをぶつけてくれるところが、とても好きだ。
「僕の方こそ……不思議ですね……今日は朝からドキドキしっぱなしです。きっと『幸せな復讐』を終えて……全部、宗吾さんで染まったからかな」
「何よりだ。とても嬉しいよ!」
「だから、今晩もよろしくな」
「あ……、もう?」
「駄目か」
「くすっ、いいですよ、少しなら」
僕たち……本当にアチチ過ぎる。
火照る頬を隠しながら、満員電車に乗り込んだ。
「瑞樹、今日は少し遅くなるが、君は?」
「今日は内勤ですので、そう遅くはならないです」
「よかった。空港から送った荷物を受け取ってくれるか」
「あ、はい!」
「洗濯物には要注意だぞ」
「くすっ、了解です」
今朝は朝からティッシュの屑にまみれて大変だったな。いつもならしないミスをしてしまったが、結果……まぁ良かったのか。
あの手紙……あぁいうカタチで消滅したのが一番良かったと思えるから。なるようになるだな……手紙を持って迷っていた。ずっと僕が持っているのも何かが違う気がして。
「母さん、おはよう!」
「おばあちゃん、おはよう!」
「お母さん、おはようございます」
三人で声をそろえて朝の挨拶をすると、白い割烹着姿のお母さんも笑顔で迎えてくれた。
朝から何か作っていたのかな。出汁のいい匂いがしてくる。
「お帰りなさい、三人とも元気に帰ってきたわね」
「うん、すごくたのしい旅行だったよ~」
「良かったわね。芽生」
芽生くんはもう靴を脱いで、廊下に上がっていた。
その時点でお母さんへのお土産まで荷物に入れて送ってしまったことに、気付いた。
「あの……お土産は、明日持ってきます。実はすごい荷物になったので、空港から送ったので」
「ふふ、ということは……憲吾に会えたのね」
「あ、はい! あ……お母さんが僕の実家を教えて下さったのですね」
「憲吾はちゃんと顔を出したようね」
「はい! 兄も喜んでいました」
「良かったわ。私もまた落ち着いたら遊びに行きたいわ。お兄さんの所にも、赤ちゃんがもうすぐやってくるのよね。憲吾の所と一ヶ月違いなんて、瑞樹も忙しくなるわね」
「はい、どちらも、とても楽しみです」
なんだか不思議だ。こんな風に当たり前のように、僕の函館の家族のことが話題に上るなんて。宗吾さんとは家族ぐるみで付き合っているのだなと改めて実感してしまうよ。
「さぁさぁ、いってらっしゃい。あ、これ持って行きなさい」
お母さんに手渡されたのは、お弁当だった。
「え?」
「旅行帰りで疲れているでしょう。今日はお弁当を持っていきなさい」
「えっ、いいんですか」
「当たり前よ。さぁどうぞ」
「ありがとうございます」
『お母さん』と呼べる人から……お弁当を作ってもらうのは、いつぶりだろう。まだ少しあたたかくて、お母さんの愛情をじわっと感じた。
「宗吾も外食ばかりじゃ身体に悪いから、ほら」
「わ、俺にもあるのか。サンキュ!」
宗吾さんと駅に向かって歩いていると、桜の枝に蕾が膨らんでいた。
「こっちもそろそろ咲きそうだな」
「本当だ。今年も例年より早そうですね」
「去年も早かったな。そうか、ちょうど今頃か……俺が大沼に君を迎えに行ったのは」
目を閉じれば、今でもあのシーンが色鮮やかに蘇る。
白銀の世界から飛び立つ白鳥。
それと引き換えのように動くようになった僕の指。
思わず歩きながら自分の指を見つめてしまった。
結局……傷跡はうっすら残ってしまったが、この傷は勲章だ。
僕が僕を守った証し。
「嬉しかったです。あの日……あの場所で再会出来て」
「うん」
「今も嬉しいです」
「うん?」
「こうやって二人で歩くだけも、幸せです」
何気なく告げた一言に、宗吾さんの顔が赤くなった。そしてその場で立ち止まり、僕の髪にそっと触れてきた。
「あ、あの……」
こんな朝から? こんな場所で? ドキドキしてしまったら、宗吾さんに笑われた。
「はは、何を期待した? ほら、これがついていたぞ」
「あっ」
指に摘ままれたのは、舞い上がったティッシュの屑だった。あの日は空からちらちらと舞い降りてくる雪が髪についたが、今は……
「くすっ、もう、ムードないですね」
「そうか。これはこれで最高だぞ。一緒に暮らしてる証だ」
「そうですね」
「俺さ……ずっと前から君に憧れていた」
宗吾さんが照れくさそうに朝日を拝むように顔をあげた。
「幼稚園のバス停で、いつも見ていたんだ。君と彼氏がニコニコ話しながら坂を下っているのを。生まれ変わったら瑞樹みたいな恋人と出会いたいって思っていた」
びっくりした。一馬と付き合っている時には、全然気付かなかった宗吾さんの視線。そんな風に思ってくれていたなんて……泣けてくる。
「生まれ変わらなくても、出会えましたね」
「あぁ……だから君のこと、本当に大切なんだ」
「僕も……僕もです。宗吾さんがあの公園で声をかけてくれた時から、僕の人生は大きく変わりました。何もかもが開けて……」
お互い顔を見合わせて、微笑んだ。
「朝から、俺たちアチチだな。だが、今日はなんだか無性に君に伝えたい気分だった」
「分かります。僕も同じ気分です」
「おっと、遅刻するぞ。ちょっと急ごう!」
僕たちは走り出す。
今日という日を――
この先……宗吾さんと過ごす日は、きっとありふれた日常の積み重ねになっていく。毎日がドラマチックでなくていい。僕が欲しかったのは、家族そろって笑顔で迎える明日だったから、それが嬉しい。
「なぁ、瑞樹……君と一緒に暮らすようになって、まだ1年未満だなんて信じられないな。ということは、まだまだ新婚だぞ」
電車を待つホームで、アナウンスに紛れて届く熱い言葉。
宗吾さんのまっすぐに想いをぶつけてくれるところが、とても好きだ。
「僕の方こそ……不思議ですね……今日は朝からドキドキしっぱなしです。きっと『幸せな復讐』を終えて……全部、宗吾さんで染まったからかな」
「何よりだ。とても嬉しいよ!」
「だから、今晩もよろしくな」
「あ……、もう?」
「駄目か」
「くすっ、いいですよ、少しなら」
僕たち……本当にアチチ過ぎる。
火照る頬を隠しながら、満員電車に乗り込んだ。
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