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11 願うモノ
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(ヒカリ)
何度突き放しても態度が変わらない変な異世界人【イシ】
外見も中身も特に何も突出したものを持っていないし、中年だし、うっとおしいし、騒がしいし、いいところが一つもない。
『可哀想』
最初神に召喚された時に思ったのはこれくらい。
でも別に同情心とかはなくて、ただ生きていくのに辛い存在に対してのただの感想だ。
俺は差し出されたイシの料理を淡々と口に入れながら、なんとなく昔の事について考えていた。
物心ついたときから俺は、人々の神様。
『勇者』という宿命を背負い、世界の苦しむ人達を救うのが役目なのだそうだ。
そのための『力』は自分の中にあり、なんでも願えば叶える事ができた。
それを見て誰もが俺を褒め称え、拝める。
『何故できないの??』
他人に対してそう思う事はそれくらいで、でも次第にその理由も理解していった。
『自分は選ばれし勇者で凄い存在だからそれが当たり前なんだ。自分は凄い!だから誰もが俺を崇める!』
モンスターを倒すなど自分にとっては呼吸をするくらい簡単な事なのに、皆はあっさりと殺されてしまう。
弱くて可哀想。
力を持たない事は、酷く残念な事。
そう思っていたのだが……ある日、突然自分の前に一本の境界線がある事に気づいた。
なんだろう……この線は?
その下を走る線をジッと見下ろすと、突然その線の向こう側に沢山の人達が現れる。
顔を上げれば、自分を尊敬の眼差しで見つめる王様や神官達、騎士達や今まで助けてきた国民達、そして熱がこもった目で見てくる沢山の女達であった事が分かった。
『勇者様がいれば安泰だ。全ておまかせしよう!』
『世界を救う聖なる存在が勇者です。弱気を助け勇気を与える存在に────……。』
『なんて素敵なんでしょう。是非隣に立つ存在になりたい。
私ならあなたの全てを理解し一緒に歩んでいけますわ。』
いつも通りの皆から投げられる想い達は、俺ではなくただこちら側へと投げつけられるだけで、俺がそれを返そうと思っても、次から次へと投げ込まれてしまう。
────そっか、俺からの答えは貰うつもりがないんだ。
それに気づくと、俺の身体は2つに分裂してしまった。
一つは皆の方を向いて、置いておくだけの『理想』の飾り物の俺。
そして、そんな皆方へ背を向けて何もない場所をただ見つめているだけの俺。
皆は偽物の理想の俺に向かってずっと想いを投げ続け、理想の俺はそれを見ながら立っているだけ。
一方にしか向かない想いは、客観的にみれば酷く歪な関係性だと思った。
そして────俺にはそれしか与えられないことに気づくと、自分の手には何もない事に気付いてしまう。
誰も彼もが俺を求めているのに、何で俺の手には何もないんだろう?
その時一番に思い出したのは俺の両親の事だ。
『自分をこの世に産みだしてくれた人達は、きっと自分に何かを与えてくれるはず。』
そう思って、初めて俺は自分の足で両親に会いに行った。
するとそこには……自分以外で完成された家族がいた。
両親や初めて会った俺の弟と妹達は泣いて喜び、そのまま俺に向かって拝む。
『神の選びし勇者様、出会えた事に感謝を。』
『どうかこれからも我々家族を見守り下さい。』
そう俺に祈りを捧げる『家族』を見て、もう『家族』でない俺には────何も与えられないのだと理解した。
それからはただ一方的に投げられる想いを、拾う事も受け取る事もせずに放置したまま時が過ぎていく。
そんな日々の中、各地では発生するモンスター被害が増加の一途を辿り、とうとう『勇者がその原因でもあるユニークモンスター討伐の旅に出よ』という神託が突然空から舞い降りた。
空に向かって跪く人々を尻目になんとなく……。
『神を消せば何か変わるだろうか……?』
そう思ったが、続けてこんな神託が神から告げられる。
『明日の明朝、王宮の王の間で勇者への贈り物を授けよう。
それは勇者の願うモノを与える存在である。』────と。
この時はもう既に自分が望むモノなど忘れてしまっていたが、少し興味が湧いたため、その場は大人しくする事にした。
そして次の日の明朝、王の間に王や神官達、総出で集合してその時を待つ。
神官や王、騎士たちも全員が俺に視線をチラチラと送り、緊張している事が分かっていた。
その瞳に映るのは、尊敬、憧れ、そして────恐怖だ。
自分達では倒せぬモンスターを一撃。
更に無感情で戦う俺の姿は恐怖を感じるモノの様で、誰もが俺を怒らせない様に……そしてあわよくば気に入られたい、その恩恵を得たいという浅ましい欲望も感じる。
以前はそんな様々な欲望が一致し、王から志願があった女性たちを集めて王宮の一角にそれ専用の城を建てないか?と申し出もあったが……俺はアッサリとそれに答えた。
『そんなゴミみたいなモノを贈られても困る。』と。
すると王は慌てて謝罪を申してきたが、俺は黙ったままその場を立ち去った。
そんな俺に『願うモノ』を与えてくれるというのだ。
一体何を俺に与えてくれるのか?
多少の期待を持ってその時を迎えたのだが、何とやってきたのはただの中年男だ。
ソレは俺の願うモノどころか、何一つ持ってない男だったのだ。
何度突き放しても態度が変わらない変な異世界人【イシ】
外見も中身も特に何も突出したものを持っていないし、中年だし、うっとおしいし、騒がしいし、いいところが一つもない。
『可哀想』
最初神に召喚された時に思ったのはこれくらい。
でも別に同情心とかはなくて、ただ生きていくのに辛い存在に対してのただの感想だ。
俺は差し出されたイシの料理を淡々と口に入れながら、なんとなく昔の事について考えていた。
物心ついたときから俺は、人々の神様。
『勇者』という宿命を背負い、世界の苦しむ人達を救うのが役目なのだそうだ。
そのための『力』は自分の中にあり、なんでも願えば叶える事ができた。
それを見て誰もが俺を褒め称え、拝める。
『何故できないの??』
他人に対してそう思う事はそれくらいで、でも次第にその理由も理解していった。
『自分は選ばれし勇者で凄い存在だからそれが当たり前なんだ。自分は凄い!だから誰もが俺を崇める!』
モンスターを倒すなど自分にとっては呼吸をするくらい簡単な事なのに、皆はあっさりと殺されてしまう。
弱くて可哀想。
力を持たない事は、酷く残念な事。
そう思っていたのだが……ある日、突然自分の前に一本の境界線がある事に気づいた。
なんだろう……この線は?
その下を走る線をジッと見下ろすと、突然その線の向こう側に沢山の人達が現れる。
顔を上げれば、自分を尊敬の眼差しで見つめる王様や神官達、騎士達や今まで助けてきた国民達、そして熱がこもった目で見てくる沢山の女達であった事が分かった。
『勇者様がいれば安泰だ。全ておまかせしよう!』
『世界を救う聖なる存在が勇者です。弱気を助け勇気を与える存在に────……。』
『なんて素敵なんでしょう。是非隣に立つ存在になりたい。
私ならあなたの全てを理解し一緒に歩んでいけますわ。』
いつも通りの皆から投げられる想い達は、俺ではなくただこちら側へと投げつけられるだけで、俺がそれを返そうと思っても、次から次へと投げ込まれてしまう。
────そっか、俺からの答えは貰うつもりがないんだ。
それに気づくと、俺の身体は2つに分裂してしまった。
一つは皆の方を向いて、置いておくだけの『理想』の飾り物の俺。
そして、そんな皆方へ背を向けて何もない場所をただ見つめているだけの俺。
皆は偽物の理想の俺に向かってずっと想いを投げ続け、理想の俺はそれを見ながら立っているだけ。
一方にしか向かない想いは、客観的にみれば酷く歪な関係性だと思った。
そして────俺にはそれしか与えられないことに気づくと、自分の手には何もない事に気付いてしまう。
誰も彼もが俺を求めているのに、何で俺の手には何もないんだろう?
その時一番に思い出したのは俺の両親の事だ。
『自分をこの世に産みだしてくれた人達は、きっと自分に何かを与えてくれるはず。』
そう思って、初めて俺は自分の足で両親に会いに行った。
するとそこには……自分以外で完成された家族がいた。
両親や初めて会った俺の弟と妹達は泣いて喜び、そのまま俺に向かって拝む。
『神の選びし勇者様、出会えた事に感謝を。』
『どうかこれからも我々家族を見守り下さい。』
そう俺に祈りを捧げる『家族』を見て、もう『家族』でない俺には────何も与えられないのだと理解した。
それからはただ一方的に投げられる想いを、拾う事も受け取る事もせずに放置したまま時が過ぎていく。
そんな日々の中、各地では発生するモンスター被害が増加の一途を辿り、とうとう『勇者がその原因でもあるユニークモンスター討伐の旅に出よ』という神託が突然空から舞い降りた。
空に向かって跪く人々を尻目になんとなく……。
『神を消せば何か変わるだろうか……?』
そう思ったが、続けてこんな神託が神から告げられる。
『明日の明朝、王宮の王の間で勇者への贈り物を授けよう。
それは勇者の願うモノを与える存在である。』────と。
この時はもう既に自分が望むモノなど忘れてしまっていたが、少し興味が湧いたため、その場は大人しくする事にした。
そして次の日の明朝、王の間に王や神官達、総出で集合してその時を待つ。
神官や王、騎士たちも全員が俺に視線をチラチラと送り、緊張している事が分かっていた。
その瞳に映るのは、尊敬、憧れ、そして────恐怖だ。
自分達では倒せぬモンスターを一撃。
更に無感情で戦う俺の姿は恐怖を感じるモノの様で、誰もが俺を怒らせない様に……そしてあわよくば気に入られたい、その恩恵を得たいという浅ましい欲望も感じる。
以前はそんな様々な欲望が一致し、王から志願があった女性たちを集めて王宮の一角にそれ専用の城を建てないか?と申し出もあったが……俺はアッサリとそれに答えた。
『そんなゴミみたいなモノを贈られても困る。』と。
すると王は慌てて謝罪を申してきたが、俺は黙ったままその場を立ち去った。
そんな俺に『願うモノ』を与えてくれるというのだ。
一体何を俺に与えてくれるのか?
多少の期待を持ってその時を迎えたのだが、何とやってきたのはただの中年男だ。
ソレは俺の願うモノどころか、何一つ持ってない男だったのだ。
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