姑が勝手に連れてきた第二夫人が身籠ったようですが、夫は恐らく……

泉花ゆき

文字の大きさ
90 / 105

90

しおりを挟む
彼女は倒れ込んだ夫人を見ても、何の感慨も抱いておらず。
まだこれからとでも言いたげに手元へと次の資料を整え始めました。

そう、これで終わりではありません。
彼女からの訴えは、もう一つあるのです。


持参金返還の件は、もはや決着がついていました。
凌家の夫人は散々ごねていましたが、動かぬ証拠を次々と突きつけられ、ついにはがっくりと膝を落としました。

その姿は、栄華を誇った名家の夫人としての威厳など微塵もなく、ただ現実を突きつけられた老婆のように見えました。

しかし、凌家が失うものは財だけではありませんでした。
原告である蘭珠ランジュが申し立てていた、もうひとつの訴えが残っています。

「婚姻期間中接触もないまま、子が出来ないと責められた上に不当に家を追い出されたこと」

それについての審議が始まろうとしていました。
これは金銭の問題ではなく、蘭珠ランジュの名誉、そして女性としての尊厳に関わる極めてデリケートな問題です。

会場の空気は、先ほどの金銭問題の時とはまた違った、湿り気を帯びたものへと変わりました。
裁判官が手元の書状を読み上げます。

「訴えによりますと、ご令嬢は被告人である涼珩リャンハンと、男女の仲になる一時を与えられぬまま、不当に追いやられ……」

その言葉が読み上げられた途端です。
ずっと黙り込んでいた涼珩リャンハンが、突然椅子を蹴るようにして立ち上がり、わめきました。

「ばかな!その女……蘭珠ランジュが『僕と男女の深い仲になったことがない』なんて、そんなの嘘に決まってる!」

鋭い声が広間に響き渡りました。
傍聴席がざわつきます。
金銭の横領だけでなく、生活についてまで法廷で争うのかと、好奇の目が彼らに注がれました。

裁判官が不快そうに眉をひそめます。

「被告人は発言の許可を得てから話しなさい、無関係な発言は慎むように。傍聴席も静粛に」

しかし、ざわめきは容易には収まりません。
扇子で口元を隠した婦人たちが、ひそひそと言葉を交わします。

「まあ、あんなにはっきりとおっしゃるなんて」

「でも、第二夫人……今や正妻となっている連花リェンホアでしたか?彼女は確か身重だとか」

「そいつがうまくやったんじゃないのか……」

「顔を見たことがあったが、確かにあの娘は男好きのしそうな……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~

ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された 「理由はどういったことなのでしょうか?」 「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」 悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。 腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。

平手打ちされたので、婚約破棄宣言に拳でお答えしました

Megumi
恋愛
婚約破棄を告げられ、婚約者に平手打ちされた——その瞬間。 伯爵令嬢イヴの拳が炸裂した。 理不尽に耐える淑女の時代は、もう終わり。 これは“我慢しない令嬢”が、これまでの常識を覆す話。

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

処理中です...