【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定

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「カイエン様」
「こちらでしたか。迎えにきました」
「私を、でございますか? あの、今しがた伝令魔法を飛ばしたのですが」

 届かなかったでしょうかと問うと、彼は小さく息を吐いた。

「受け取って殿下にお伝えしましたが、その殿下が昼食は一緒にとるようにと仰せです。代わりに私が迎えにきました」
「そうでしたか。わざわざ申し訳ありません」
「いえ、これも職務のうちです」

 昼食をスキップしよう作戦はあっけなく頓挫してしまった。片付けをしながら、そもそもカイエン様が迎えにくる必要はなく、私に伝令魔法を飛ばせばよかったのではと思い直す。

「何か?」

 私の疑問が顔に出ていたようだ。誤魔化そうかと思ったが、そういった小細工はこの人には通用しない。通用しないというより、殿下に害なすものを排除する役割も担うこの人の前で、私は隠し事など許されない。

「伝令魔法で呼んでいただければと思っただけです」
「私が迎えにくることが不満でしたか」
「いいえ! そういうことではございません! ただ、大事なお役目をお持ちのカイエン様が私などの迎えにお時間をとられることを申し訳なく思ったのです」
「わかっているなら勝手なことはしないように。本当に、あなたは未だに稚拙な選択しかできないのですね」
「申し訳ありません」

 薄青の瞳に浮かぶのは呆れか蔑みか。もう慣れたことだし、そう見られるのは当然だから、致し方ない。

 カイエン様についてテラスへと向かう。お天気の日はここで昼食をとるのが日課だ。

「ユーファミア様、いらっしゃったのね」

 メラニア様が笑顔で迎え、空いている隣の席を示した。

「ユーファミア様は試験勉強のために大事な時期なのだから、お誘いするのは遠慮した方がいいと申し上げたのだけれど……」

 呆れたような目線を隣に座る殿下に投げる。殿下の前にはすでに食事が用意されていたが、まだ手付かずのようだった。

「私の傍にいるのが仕事のくせに、離れるのがいけないのだ。職務怠慢も甚だしい」

 私が小さくなりながら謝罪し、末席についたのを確認した殿下は、食事を始めた。殿下の向かい側にはカイエン様が座る。私はメラニア様の隣、お向かいはシャロン様だ。私がここに現れた途端、シャロン様の隣のマーガレット様と2人して、私に鋭い視線を投げつけてこられた。朝のお2人の忠告があったにもかかわらずのこの様だ。呆れられるのも無理はない。

 私はいつもどおり、無言で食事を流し込んだ。ここでの食事はまったく楽しくない。まだ王宮で無言の殿下と朝晩の食事を共にする方がずっと嬉しい。そしてなぜそう思うのかを考えてまた深く落ち込むのだ。

(私が、殿下を独占したいと思っているだなんて……)

 誰かに知られようものなら、打擲されてもおかしくない重罪だ。ぶるりと肩を震わせ、目の前の食事に没頭する。砂を噛むようなその味を、自身への罰と思いながら。

 メラニア様が次から次へとかわいらしいお声で話題を振り撒き、殿下がそれに相槌を打たれる。カイエン様も時折笑顔を見せながら参加する。マーガレット様とシャロン様がメラニア様に感嘆の言葉を送る。そんないつもの昼食が始まって、そして終わった。



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