【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定

文字の大きさ
25 / 106
本編

25

しおりを挟む
 気がつけば離宮の自室のベッドの上だった。はっと外を見遣ると夕暮れの色に染まる稜線が見える。

 すでに背中やお尻の痛みはなく、ただ動かし辛い足を見れば丁寧に包帯が巻かれていた。着替えもなされたようで、柔らかな夜着に着替えさせられている。

 そのままベッドから足を下ろし、そっと立ってみる。陛下はもうお戻りだろうか。せっかくの家族水入らずの余暇を邪魔してしまったのだと思うと背筋がぞっとした。謝罪に伺わなければと気ばかりが焦ってしまう。

 けれど固定された足は想像以上に動かせず、そのまま前のめりに倒れてしまった。サイドボードに置いてあった水差しが音をたてて落ちる。

「ユーファミア!? どうした、入るぞ」

 音に気づいたのか、私に与えられた客間の方から聞こえてきたのは思わぬ声だった。

「殿下!?」
「おまえはっ、何をしているんだ!」

 大股で私のベッドに近づいたかと思うと、倒れた私の腰を抱えた。そのまま抱きあげるように殿下の胸に押し当てられる。

「勝手に動くんじゃない。必要なものがあるなら持ってこさせるから、ベッドで大人しくしてろ!」

 吐き捨てるように言いながらまたしてもベッドに戻される。怒りの殿下の形相に、私はただただ小さくなるしかなかった。

「本当に申し訳ないことを……あの、陛下にもお詫びを申し上げたく」
「気にしなくていい。父上はあの後も十分楽しまれた。獲物も持ち帰られてご機嫌だ」
「それなら、殿下に対して申し訳なく……せっかくの余暇でしたのに」
「かまわない。狩りなどいつでもできる」
「ですが……」

 私はシーツの下の足を見つめた。捻挫が治るのに少なくとも1週間はかかるだろう。ご一家が離宮で過ごすのはあと10日ほど。私が出歩けないなら、殿下もどこにも行けないことになる。

「あの、私、歩くのは無理でも馬には乗れると思うのです。馬の背に押し上げていただくか……そうだわ、近衛の方が一緒に乗せていただければ!」

 今日殿下が乗せて戻ってきてくれたように、誰かに抱き抱えてもらえれば乗れないことはない。そうすれば殿下の行動にも付き合える。

 名案と思われた私の意見に、殿下は大きく唸った。

「……何を言っている。こんな目にあった人間を馬に乗せられるわけがないだろう」
「ですが、そうすれば殿下もまた狩りでも遠乗りでもお出かけになれます」
「必要ない。しかも近衛と一緒に乗るなどもってのほかだ。とにかくおまえはここで大人しくしてろ」

 噛み付くような鋭い視線を見せたかと思えば、不意にふっと目を逸らす。そのまま客間の方で控えていたメイドを呼び寄せ、落としてしまった水差しの片付けを命じた。

「夕食はこちらに運ばせる。とにかく今は休め」

 そう言い置いて、殿下は寝室から立ち去った。







「ユーファミア様、大丈夫ですか」

 放心していた私に声をかけたのは、片付けを終えた侍女だった。王宮でも私の担当ルーティーンに入っている人だ。毎年離宮にも同行してくれている。

「えぇ、大丈夫です。お仕事を増やしてしまって申し訳ありません」
「いえ、そんなことはお気になさらないでください。それよりも、殿下のお達しもありますから、あまり無理はなさらないでください」
「はい、ごめんなさい」
「あの、私どもに謝る必要はございません。王太子殿下もとても心配しておられました。ユーファミア様がお目覚めになるのを、客間の方でずっと待っておられましたよ」
「殿下が、ずっと隣にいらしたのですか?」

 離宮では主寝室を陛下ご夫妻が使われており、お子様方はそれぞれ客間を利用されている。客間の造りは居室部分と寝室が続き部屋になっている。その居室側に、殿下はずっといたらしい。やけにタイミングよく寝室に入ってこられたと思ったらそういう事情だったのか。

 ゆっくり自室で休むこともできず、かといって王妃様方に混ざることもできず、という状況だったのだと思うと、殿下には本当に申し訳ないことをしてしまった。何度詫びても詫びたりないし、詫びたところで殿下の不自由がなくなるわけでもない。

(私にとっては最後の離宮滞在だというのに、苦い思い出になってしまいそうだわ)

 たっぷり眠ってしまったためか目も冴えてしまい、湖の奥に聳える山々に沈む夕日を眺めるともなく見つめるしかなかった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

幸せな政略結婚のススメ【本編完結】

ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」 「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」 家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。 お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが? スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに? ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ・11/21ヒーローのタグを変更しました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

処理中です...