【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定

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「そろそろ自習時間も終わりですよ。ノートは写せたのですか」
「あ、待ってください、あと少し……」

 マーガレット様が慌てて止まっていた手を動かし出す。シャロン様もそれにつづいた。カイエン様は小さく息を吐いた後、私に向き直った。

「あなたも、勉強は進んだんですか」
「は、はい」

 私のノートはマーガレット様たちに預けていたから、私は参考書を読み直していた。私の試験は教科書以外の範疇からも出題されるので、先生たちに指定された参考書を各科目最低でも3冊ずつは読み込んでおかなければならない。

「カイエン様、終わりましたわ。はい、ユーファミア様。とくに間違いはなかったわよ」

 マーガレット様が私のノートチェックを返してくださる。礼を言って受け取ると、私の机に影が差した。

「治癒魔法の波動に関する論文か? これはなんの授業分だ?」
「殿下……」

 片付けを終えた殿下が私を見下ろす。

「こちらは高等水魔法のエンゲルス先生からの指定で……」
「水魔法? おまえ魔法理論は風魔法が選択じゃなかったのか?」
「はい、そうなんですが、エンゲルス先生がぜひこちらも読んで見解を報告するようにとおっしゃって。風魔法のグレン先生が試験とは関係ない科目だと言ってくださったのですが、だったら水魔法の科目試験も受けたらいいと」
「……いろいろ突っ込みたいところはあるが、そもそもなぜエンゲルス先生は治癒魔法の、それも波動の解析などマニアックな論文をおまえに紹介してきているんだ」
「エンゲルス先生、治癒魔法が使えるようになってみたいそうで、今いろいろ研究中なんだそうです」
「……あの耄碌ジジィ」
「もうろ……?」

 エンゲルス先生は御歳80歳。水魔法の大家でいらっしゃる。治癒魔法は火・土・風・水の4つの要素を生まれ持っていなければ使うことができない。エンゲルス先生は水魔法のほかに火と風の要素はお持ちだが、土がないため治癒魔法が使えない。だが、それを波動を理解することで使えるようにできないかというのが生涯の研究目標なのだという。

「生涯だと? そんなものさっさと閉じればいいものを……。ユーファミア、それは勉強しなくていい。ただでさえ最終学年の中間試験は楽じゃないんだ。余計なものを背負い込むな」
「ですが、エンゲルス先生のほかにも……」
「まだいるのか!?」

 殿下が目を見開いて問いただしてきたので、私は洗いざらい話すよりほかなかった。

「まったくどいつもこいつも許可なく勝手に……ユーファミア!」
「はい!」
「今後は指定科目以外の授業はとるな。試験もだ。おまえの身は王家の預かりだ。おまえが試験に落第でもすれば、国王陛下に顔向けできんだろうが」
「……申し訳ありません」

 殿下のおっしゃる通りだ。ただでさえ要領が悪く、レポート1本、試験ひとつこなすのにぜいぜい言っているのに、あれもこれもと手を伸ばせば肝心の中間試験を落としてしまう可能性もある。そんなことになればここまで支援してくださった両陛下に合わせる顔がない。

 反省する私の隣を殿下はいらいらしながら大股で去っていかれた。後に続くメラニア様がふと私を振り返り、困ったように微笑んだ。

「ユーファミア様。その、先生方のご要望を聞いて少しでも点数稼ぎをしようという努力はわかりますわ。でも、あまり殿下のお手を煩わせない方がよろしいかと。ユーファミア様が王家の庇護を受けられるのはあと半年ですし……そろそろ自立された方がよろしいのではないかしら」

 その方が今後のユーファミア様のためですわと言い置いて、メラニア様は殿下の後を追っていかれた。点数稼ぎのつもりはまったくなかったのだが、その他の指摘はまったくもってその通りで、ひとり残された私は深く落ち込むよりほかなかった。







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