【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@アンジェリカ書籍化決定

文字の大きさ
34 / 106
本編

34

 そのまま季節は緩やかに過ぎ、中間試験の時期になった。学院には年2回の試験がある。通常は年度末試験が最難関だが、最終学年の中間試験は6年の学生生活の総決算と位置付けられていて、実質の卒業認定試験だ。残りの半年は自領を継ぐ準備や就職活動、登用試験の準備、花嫁修行など、進路による各自の活動にわかれ、学院への出席も最低限の授業だけでよくなる。もちろん学年末試験があるにはあるが、各自の得意分野の論文提出に置き換えられる。

 私は実技系の授業にも試験にも参加できないため、試験の順位はつかない。そのことをマーガレット様とシャロン様にちくりと言われた。

「いいわよね、ユーファミア様は。ひとりだけ楽できるのだから」
「そうよ。それで卒業まで認定されるなんて、ズル以外の何物でもないわ」
「……申し訳ありません」

 こればかりは本当のことだからなんとも言えない。私も実技系各種試験は別科目に置き換えられるので決して楽ではないのだが、実技がないだけマシなのだろう。

「まぁでも、ユーファミア様の卒業認定は王家の力によるものだってみんなわかってるのだし」
「確かにそうね。私たちは卒業生としてどこに出ても恥ずかしくない身分だけれど、ユーファミア様を同じ学院卒と見なす人はひとりもいないわね」
「逆に特別扱いだって皆にバレている方が恥ずかしいわ。私だったらお嫁にいけない」
「私も。あ、でもユーファミア様は元よりお嫁に行けるような立場ではないわね」

 笑いながら2人が共有しているのは私のノートだ。ただいま来るべき中間試験に向けて図書館で自習中である。お2人は勉強に躓きがちな私のノートをチェックしてくださるそうで、それぞれ教科書や自分のノートと見比べては、自身のノートに色々書き込まれている。先ほどまで一緒だったカイエン様は少し席を外されていた。

 そして私たちの2つ先のテーブルで殿下とメラニア様が勉強されていた。教科書をぱらぱらめくる殿下にメラニア様が何か質問されている。冷え込んだ午後の日差しが窓から差し込みやや逆光になっている2人の姿は、一対の影絵のように美しかった。午後の授業が休校になり、図書館で勉強しましょうというメラニア様の提案を受け、ここに移ってきたのが半刻前。さりげなくカイエン様が2人を窓際に座らせ、私たちはそこへ近づくことを無言の圧で制止された。

 マーガレット様やシャロン様に異存があるはずもなく。その瞳は間違いなく私へ向けられた圧だった。

「殿下と未来の妃殿下の仲を邪魔せぬようーーー。後期ともなれば学院への出席も減り、お2人が顔を合わせることも少なくなります」

 年度始めに強く言われた言葉。殿下の魔力暴走はすっかり落ち着き、ひと月に1度起こるかどうかにまで減っていた。殿下の体調管理もお役目のひとつとして担っておられるカイエン様は、だからなのか学院内で私と殿下の距離をこうしてとることが少しずつ増えていた。

 それは殿下との契約が終わるときへのカウントダウン。月日は残酷なまでにあっという間に過ぎる。

「そういえばシャロン、あなた、侯爵家の次男との話はどうなったのよ」

 マーガレット様が話を向けると、シャロン様がほんのり頬を染めた。

「この間、ルーク様が我が家に手紙をくださったの。後期になったら家族で顔合わせをしようかって話しているの」
「本当に? それじゃぁ婚約も秒読みってこと?」
「たぶん。もちろん卒業した後よ。メラニア様より先に発表するわけにはいかないでしょう」
「確かにね」
「それに今発表するよりも、“未来の王太子妃殿下の学友”って発表できた方があちらにもアピールできるでしょう? うちより格上のお相手を婿として迎えるのだから」
「ずる賢いわね。まぁでもわかるわ。私も今はまだ婚約の申し込みを保留にしてもらっているの。メラニア様が殿下とご結婚されたら半年くらい女官として雇っていただこうと思って。そうすれば“妃殿下の覚えめでたき女官”って肩書きがつくじゃない? 求婚者の格もずっとあがるわ」
「あなたの方がよっぽどずる賢いわよ!」

 すっかり手元が止まった2人はくすくすと笑いあう。その会話は、近くまできている未来そのもので、胸が蓋がる思いがした。

「どうしたの、ユーファミア様? なぁに、私たちが羨ましい?」
「しょうがないわよね。子爵令嬢と私たちじゃ、格が違うもの」
「あらそれはすべての子爵令嬢に失礼よ。少なくとも皆さん、家格は低くても魔力をお持ちだわ。幸せな結婚は無理でも、成績次第では官僚になれる女性もいるはずよ」
「そうね。失言だったわ。ユーファミア様がしょうがないのは魔力なしだからだわ」

 生まれてからずっと、何度も聞かされた“魔力なし”の言葉。そのこと自体を、もう残念に思う気持ちはとっくに枯渇していて。

「そういえばユーファミア様は卒業後はどうされるの?」
「え?」
「働くにしても魔力なしじゃ、どこも雇ってくれないでしょう? 結婚も無理でしょうし」
「おうちは弟君がいらっしゃるのよね。家に帰るのも迷惑よね」
「王家との契約も切れたら……やだ、あなたったら本当に役立たずね」
「なんだったら私の家で雇ってあげましょうか? 下働きのメイドがなかなかいつかなくて困ってたの」
「あら、それいいわね、私の家でもかまわないわよ。あなたどんくさいけど、便利なときもあるし」
「なんの話をしているのです?」

 割って入ってきたのは席を外していたカイエン様だった。





感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。