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本編
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そのまま季節は緩やかに過ぎ、中間試験の時期になった。学院には年2回の試験がある。通常は年度末試験が最難関だが、最終学年の中間試験は6年の学生生活の総決算と位置付けられていて、実質の卒業認定試験だ。残りの半年は自領を継ぐ準備や就職活動、登用試験の準備、花嫁修行など、進路による各自の活動にわかれ、学院への出席も最低限の授業だけでよくなる。もちろん学年末試験があるにはあるが、各自の得意分野の論文提出に置き換えられる。
私は実技系の授業にも試験にも参加できないため、試験の順位はつかない。そのことをマーガレット様とシャロン様にちくりと言われた。
「いいわよね、ユーファミア様は。ひとりだけ楽できるのだから」
「そうよ。それで卒業まで認定されるなんて、ズル以外の何物でもないわ」
「……申し訳ありません」
こればかりは本当のことだからなんとも言えない。私も実技系各種試験は別科目に置き換えられるので決して楽ではないのだが、実技がないだけマシなのだろう。
「まぁでも、ユーファミア様の卒業認定は王家の力によるものだってみんなわかってるのだし」
「確かにそうね。私たちは卒業生としてどこに出ても恥ずかしくない身分だけれど、ユーファミア様を同じ学院卒と見なす人はひとりもいないわね」
「逆に特別扱いだって皆にバレている方が恥ずかしいわ。私だったらお嫁にいけない」
「私も。あ、でもユーファミア様は元よりお嫁に行けるような立場ではないわね」
笑いながら2人が共有しているのは私のノートだ。ただいま来るべき中間試験に向けて図書館で自習中である。お2人は勉強に躓きがちな私のノートをチェックしてくださるそうで、それぞれ教科書や自分のノートと見比べては、自身のノートに色々書き込まれている。先ほどまで一緒だったカイエン様は少し席を外されていた。
そして私たちの2つ先のテーブルで殿下とメラニア様が勉強されていた。教科書をぱらぱらめくる殿下にメラニア様が何か質問されている。冷え込んだ午後の日差しが窓から差し込みやや逆光になっている2人の姿は、一対の影絵のように美しかった。午後の授業が休校になり、図書館で勉強しましょうというメラニア様の提案を受け、ここに移ってきたのが半刻前。さりげなくカイエン様が2人を窓際に座らせ、私たちはそこへ近づくことを無言の圧で制止された。
マーガレット様やシャロン様に異存があるはずもなく。その瞳は間違いなく私へ向けられた圧だった。
「殿下と未来の妃殿下の仲を邪魔せぬようーーー。後期ともなれば学院への出席も減り、お2人が顔を合わせることも少なくなります」
年度始めに強く言われた言葉。殿下の魔力暴走はすっかり落ち着き、ひと月に1度起こるかどうかにまで減っていた。殿下の体調管理もお役目のひとつとして担っておられるカイエン様は、だからなのか学院内で私と殿下の距離をこうしてとることが少しずつ増えていた。
それは殿下との契約が終わるときへのカウントダウン。月日は残酷なまでにあっという間に過ぎる。
「そういえばシャロン、あなた、侯爵家の次男との話はどうなったのよ」
マーガレット様が話を向けると、シャロン様がほんのり頬を染めた。
「この間、ルーク様が我が家に手紙をくださったの。後期になったら家族で顔合わせをしようかって話しているの」
「本当に? それじゃぁ婚約も秒読みってこと?」
「たぶん。もちろん卒業した後よ。メラニア様より先に発表するわけにはいかないでしょう」
「確かにね」
「それに今発表するよりも、“未来の王太子妃殿下の学友”って発表できた方があちらにもアピールできるでしょう? うちより格上のお相手を婿として迎えるのだから」
「ずる賢いわね。まぁでもわかるわ。私も今はまだ婚約の申し込みを保留にしてもらっているの。メラニア様が殿下とご結婚されたら半年くらい女官として雇っていただこうと思って。そうすれば“妃殿下の覚えめでたき女官”って肩書きがつくじゃない? 求婚者の格もずっとあがるわ」
「あなたの方がよっぽどずる賢いわよ!」
すっかり手元が止まった2人はくすくすと笑いあう。その会話は、近くまできている未来そのもので、胸が蓋がる思いがした。
「どうしたの、ユーファミア様? なぁに、私たちが羨ましい?」
「しょうがないわよね。子爵令嬢と私たちじゃ、格が違うもの」
「あらそれはすべての子爵令嬢に失礼よ。少なくとも皆さん、家格は低くても魔力をお持ちだわ。幸せな結婚は無理でも、成績次第では官僚になれる女性もいるはずよ」
「そうね。失言だったわ。ユーファミア様がしょうがないのは魔力なしだからだわ」
生まれてからずっと、何度も聞かされた“魔力なし”の言葉。そのこと自体を、もう残念に思う気持ちはとっくに枯渇していて。
「そういえばユーファミア様は卒業後はどうされるの?」
「え?」
「働くにしても魔力なしじゃ、どこも雇ってくれないでしょう? 結婚も無理でしょうし」
「おうちは弟君がいらっしゃるのよね。家に帰るのも迷惑よね」
「王家との契約も切れたら……やだ、あなたったら本当に役立たずね」
「なんだったら私の家で雇ってあげましょうか? 下働きのメイドがなかなかいつかなくて困ってたの」
「あら、それいいわね、私の家でもかまわないわよ。あなたどんくさいけど、便利なときもあるし」
「なんの話をしているのです?」
割って入ってきたのは席を外していたカイエン様だった。
私は実技系の授業にも試験にも参加できないため、試験の順位はつかない。そのことをマーガレット様とシャロン様にちくりと言われた。
「いいわよね、ユーファミア様は。ひとりだけ楽できるのだから」
「そうよ。それで卒業まで認定されるなんて、ズル以外の何物でもないわ」
「……申し訳ありません」
こればかりは本当のことだからなんとも言えない。私も実技系各種試験は別科目に置き換えられるので決して楽ではないのだが、実技がないだけマシなのだろう。
「まぁでも、ユーファミア様の卒業認定は王家の力によるものだってみんなわかってるのだし」
「確かにそうね。私たちは卒業生としてどこに出ても恥ずかしくない身分だけれど、ユーファミア様を同じ学院卒と見なす人はひとりもいないわね」
「逆に特別扱いだって皆にバレている方が恥ずかしいわ。私だったらお嫁にいけない」
「私も。あ、でもユーファミア様は元よりお嫁に行けるような立場ではないわね」
笑いながら2人が共有しているのは私のノートだ。ただいま来るべき中間試験に向けて図書館で自習中である。お2人は勉強に躓きがちな私のノートをチェックしてくださるそうで、それぞれ教科書や自分のノートと見比べては、自身のノートに色々書き込まれている。先ほどまで一緒だったカイエン様は少し席を外されていた。
そして私たちの2つ先のテーブルで殿下とメラニア様が勉強されていた。教科書をぱらぱらめくる殿下にメラニア様が何か質問されている。冷え込んだ午後の日差しが窓から差し込みやや逆光になっている2人の姿は、一対の影絵のように美しかった。午後の授業が休校になり、図書館で勉強しましょうというメラニア様の提案を受け、ここに移ってきたのが半刻前。さりげなくカイエン様が2人を窓際に座らせ、私たちはそこへ近づくことを無言の圧で制止された。
マーガレット様やシャロン様に異存があるはずもなく。その瞳は間違いなく私へ向けられた圧だった。
「殿下と未来の妃殿下の仲を邪魔せぬようーーー。後期ともなれば学院への出席も減り、お2人が顔を合わせることも少なくなります」
年度始めに強く言われた言葉。殿下の魔力暴走はすっかり落ち着き、ひと月に1度起こるかどうかにまで減っていた。殿下の体調管理もお役目のひとつとして担っておられるカイエン様は、だからなのか学院内で私と殿下の距離をこうしてとることが少しずつ増えていた。
それは殿下との契約が終わるときへのカウントダウン。月日は残酷なまでにあっという間に過ぎる。
「そういえばシャロン、あなた、侯爵家の次男との話はどうなったのよ」
マーガレット様が話を向けると、シャロン様がほんのり頬を染めた。
「この間、ルーク様が我が家に手紙をくださったの。後期になったら家族で顔合わせをしようかって話しているの」
「本当に? それじゃぁ婚約も秒読みってこと?」
「たぶん。もちろん卒業した後よ。メラニア様より先に発表するわけにはいかないでしょう」
「確かにね」
「それに今発表するよりも、“未来の王太子妃殿下の学友”って発表できた方があちらにもアピールできるでしょう? うちより格上のお相手を婿として迎えるのだから」
「ずる賢いわね。まぁでもわかるわ。私も今はまだ婚約の申し込みを保留にしてもらっているの。メラニア様が殿下とご結婚されたら半年くらい女官として雇っていただこうと思って。そうすれば“妃殿下の覚えめでたき女官”って肩書きがつくじゃない? 求婚者の格もずっとあがるわ」
「あなたの方がよっぽどずる賢いわよ!」
すっかり手元が止まった2人はくすくすと笑いあう。その会話は、近くまできている未来そのもので、胸が蓋がる思いがした。
「どうしたの、ユーファミア様? なぁに、私たちが羨ましい?」
「しょうがないわよね。子爵令嬢と私たちじゃ、格が違うもの」
「あらそれはすべての子爵令嬢に失礼よ。少なくとも皆さん、家格は低くても魔力をお持ちだわ。幸せな結婚は無理でも、成績次第では官僚になれる女性もいるはずよ」
「そうね。失言だったわ。ユーファミア様がしょうがないのは魔力なしだからだわ」
生まれてからずっと、何度も聞かされた“魔力なし”の言葉。そのこと自体を、もう残念に思う気持ちはとっくに枯渇していて。
「そういえばユーファミア様は卒業後はどうされるの?」
「え?」
「働くにしても魔力なしじゃ、どこも雇ってくれないでしょう? 結婚も無理でしょうし」
「おうちは弟君がいらっしゃるのよね。家に帰るのも迷惑よね」
「王家との契約も切れたら……やだ、あなたったら本当に役立たずね」
「なんだったら私の家で雇ってあげましょうか? 下働きのメイドがなかなかいつかなくて困ってたの」
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