【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定

文字の大きさ
67 / 106
本編

67

しおりを挟む
 午前中の選定会議後、私はバルト伯爵と面会した。

「このたびは本当に申し訳なかった」
「バルト伯爵。謝罪はもう何度もしていただきました。これ以上私なぞに頭をおさげにならないでください」
「いや、何度謝っても足りぬとわかっているのだ。カイエンのユーファミア嬢に対する振る舞いも、忠誠を誓うべき殿下への裏切りも、何もかも到底許されることではない。私はもっと早く王妃様の筆頭事務官の職を辞すべきだったのを、今日までひっぱってしまったことも本当に申し訳なく……」
「バルト卿、それはもういい。そなたがユーファミアの養父となることを了承してくれたからこそ、今日の会議でも後ろ盾についてとやかく言われずにすんだんだ」
「少しでもお役に立てたのなら本望ですが……しかしながら殿下、本当によろしかったのですか? 我が家以外にもユーファミア嬢の後見となりうる家は探そうと思えば不可能ではありません。我が家にはカイエンを養子にしたという汚点もあります。やはり養子を解いて放逐するくらいのことはしなければ……」

 カイエン様はバルト伯爵の遠縁で、その能力の高さを買われて養子となり、殿下の側付きとして召し抱えられた。はじめから殿下に仕える目的で連れてきたのが、結果として殿下を裏切ることになってしまった。バルト家には後継となる伯爵の実子が既におり、王都にいる父に代わって、領地ですでに采配をふるっている。この先カイエン様がどうなるのか、その点は私も気になっていた。

「カイエンの養子縁組は解かなくていい。そのまま伯爵家に籍を置いておいてくれ。そうでなければ意味がない」
「意味とは……」
「ユーファミアと兄妹になることに意味があるんだ。戸籍上そうなってしまえば、あいつがユーファミアにこれ以上執着することもできないだろう」
「なるほど」

 納得するバルト卿と殿下を前に、私は意味がよくわからず目を瞬かせた。気づいた殿下が「まだ詳しく説明してなかったな」と私の頬に触れた。

「バルト卿の養子になる必要があることは理解してくれるな?」
「はい、もちろんです。ですが私を受け入れるということは、マクレガー家と対立することになりますから、伯爵にとっては不利ではないのですか?」
「ユーファミア嬢、私のことは気にしなくてよい。カイエンがしでかしたことの罪滅ぼしとなるなら喜んであなたを受け入れよう。もちろん、ご実家にも承諾の旨はいただいている。近いうちにあなたの母君と弟君がこちらに来てくださることになっているよ」
「まぁ、そうなのですか」
「というわけで、そなたの養子縁組は決定済みだ。問題はカイエンの始末なんだが……私はあいつをバルト家に籍を置いたまま、領地で過ごさせるという提案をバルト卿に進言した。卿はそれでは生ぬるいと言ったのだが、それが最善だろう。表立って罪を犯したわけでもないから、名目は病気療養とでもなるがな」

 確かに、カイエン様が裏でメラニア様とつながって私を騙していたことは表沙汰にはなっていない。学院に入学してから今までずっと殿下に付き従っていた彼が、突然表舞台から姿を消すのは不自然だから、適当な理由がいるだろう。

「カイエン様は、殿下のお側にはもう戻られないのですね」
「戻すわけがないだろう。とてもじゃないがおまえの側にはおけぬ。カイエンの籍を抜かずにおくのもそのためだ。血のつながりはなくとも兄と妹なら、これ以上問題を起こすこともないと踏んでのことだ」
「わかっています」

 殿下の説明は納得できる。だがたった一度の過ちで王都から去らなければならないカイエン様のことを思うと胸が痛んだ。本来なら殿下の側付きとして王国の未来にも関わる立場の人だった。バルト家も彼の力でより繁栄するはずだった。

「ユーファミア、何度も言うが悪いのはおもえじゃない」

 私の思考を読んだ殿下が先回りしてそう告げた。バルト伯爵も同じように強く頷く。

「ユーファミア嬢、カイエンのことはどうか忘れてほしい。余計な憐憫を抱かぬ方があれのためでもある。あなたからの言葉や思いはどんな種類のものであっても、やってはならないことをしでかしてしまったあれの傷を深めるだけだ。どうかこのまま捨て置いてほしい。心優しいあなたには酷なことを言うかもしれないが……私もあれのことは、実の息子と同じくらいには思っていたのでね」

 現在カイエン様はバルト家のタウンハウスにいる。学院の卒業式にも出席せず、頃合いを見て王都を離れ、領地で仕事につくことになりそうだと聞いている。私が彼のためにできることは何もない。

 その後、伯爵から養子縁組についていくつか説明を受けるうちに1日が終わった。部屋に戻りベッドに横になりながら、選定会議のことを思い出す。

 陛下と王妃様は私に票を投じてくださる。院長先生も私へと表明くださった。この時点で3票集まるから、たとえ浮動票の内務長官票がメラニア様に入ったとしても3対3。同点の場合は殿下に票を投じる権利が与えられる。だから順当に行けば私の勝ちだ。

 けれど、ここまで票が割れるということは、それだけ私への風当たりが強いということにもなる。そもそも社交界の縮図でもある学院で、私はまるで空気のような存在だった。それが一転、王太子妃候補だ。学院で一緒だった他の貴族たちがそれで納得できるかどうか。

 これがメラニア様なら、皆が納得できただろうと思う。彼女の姿はいつだって完璧だった。今日の会議でも、彼女は実にたくみにまるで殿下が突然心変わりしたかと思わせるように場の空気を操っていた。そしてそんな殿下の言葉に傷つきながらも従う令嬢という姿を見せていた。殿下はメラニア様のことを嘘つき呼ばわりしていたが、もしあれがメラニア様の本心だとしたならーーー私はいったい全体どうやって彼女に対峙できるだろう。

 殿下のことを信じると決めた。自分も強くなると決めた。

 だけどーーー。

(私に王太子妃が務まるの?)

 瞼を閉じればあの完璧なメラニア様の姿ばかりが浮かんで、私は猛烈な不安に襲われた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

幸せな政略結婚のススメ【本編完結】

ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」 「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」 家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。 お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが? スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに? ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ・11/21ヒーローのタグを変更しました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

処理中です...