99 / 106
サイドストーリー
新緑の森の君へ5
しおりを挟む
いつだってユーファミアと共にいたい。学院の短い昼食の時間ですら、彼女がいないのが不本意だった。だから何かにつけて彼女を呼びつけられるよう、伝令魔法を記した魔法陣を持たせた。彼女からそれが届くたび、まるでラブレターでももらったかのように心が弾んだ。だがすぐにカイエンとメラニア・マクレガーに嗜められ、私宛の情報であるにもかかわらずカイエン宛に送られるようになってしまった。
試験勉強のために、カイエンと居残って自習したいと言い出したときには「なぜ私に頼まない!」と喉元まで出かかった。カイエンも優秀な男だが、私の方が学院での成績は上だ。私ほど個人指導に向いている者がいるはずもない。学院に残らずとも王宮で、私の私室に自由に出入りを許されている彼女なら、なんら遠慮することなく机を並べられるし、メラニア・マクレガーが持ってきた書籍よりもずっといいものが王宮の図書館には揃ってもいる。歯軋りしたくなる勢いで、彼女の自習が終わるのを教室の見える位置で待った。もちろん窓は開けさせた。寒いだろうから温暖の魔法を施しておいたのはたぶんバレていないはずだ。そもそも自習しなければならない状況を作らなければいいのだと、授業に空きができたときは積極的に図書館で勉強するようセッティングもした。その間もメラニア・マクレガーが私のすぐ側にまとわりついていたが、意識はいつだってユーファミアだけを追いかけていた。
私たちが集まって過ごしていれば、一般の生徒たちはおいそれと近づいてはこない。そういう意味ではいろいろ牽制できて良かったのだが、残念ながらそれは生徒のみに効く方法で、学院の教師陣はことあるごとにユーファミアに話しかけていた。特にしつこかったのが水魔法の大家と名高いエンゲルス教授だ。80歳を過ぎても現役、彼を凌ぐ水魔法の実力者は現れないという強者で、好きな魔法研究に打ち込みたいからと、宮仕えの魔道士部の職を蹴り、学院に身を置いているという変わり種だ。彼の魔法理論は凡人には想像もつかない破天荒なものばかりで、それが机上の空論であればただのおかしな人間扱いだが、いくつか世紀の大発見と言われる大魔法を編み出してもいるから厄介だった。
そんなエンゲルス教授の大のお気に入りがユーファミアだ。彼女の研究理論は実技に縛られない分、エンゲルス教授並みにそこそこ斬新だ。近年自分ともっとも話が合う生徒だと、何かにつけてはユーファミアを呼びつけ議論をふっかけたりレポートを課したりしていた。ユーファミアも自身の研究が風魔法選択なのだから断ればいいものを、素直に従ってしまう上に、なぜかちょっと楽しそうだから余計に腹がたつ。そんなことを続けていたら私と過ごす時間がますます減る。ただでさえ早く引退したがっている父が公務の一部を遠慮なく押し付けてきて、下校後も多忙だというのに。おかげで最近は手伝いのカイエンまで王宮に泊まり込むことが増えて、ユーファミアと2人きりの晩餐と朝食すらご無沙汰だ。
これは一度教授に釘を刺さねばならないなと思っていたところに、試験とは関係ないレポートを書くよう言いつけられたと聞いて、ユーファミアが預かっていた論文集とかいう分厚い参考書を叩き返してやったら、「若造に見つかってしまったかの」と無駄に長いヒゲを撫でながら人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。それのみならず、翌週の水魔法の実技講座で絡まれた。
「若造のくせにワシの邪魔をするとは、これはちと本気で殺っておかねばなるまいの」
「今、絶対に不敬な言葉が出ましたね! それ以前に、何勝手に人のものを使役してるんですかね!」
「あの優秀な頭脳も謙虚な姿勢も誰のものかと言えば本人のもので、拡大解釈してご家族のものであろう。ぎりぎり陛下のご意思じゃ。お主のような赤の他人がとやかく言う筋合いはまったくもってないのぉ」
「その減らず口……いつまで達者でいられるか見ものです」
「ふぉっふぉっふぉっ! ケツの青い若造にはまだまだ負けんわ」
私自身、当代一の魔力量と実力を兼ね備えている自負があるが、水魔法その一点だけにおいてはこの化け物ジジィは私と互角だった。教授の防御魔法は鉄壁で、その隙から繰り出す私の反撃魔法が鮮やかにはじかれる。そのまま接戦を繰り広げた実技演習は、2人ともの体力枯渇という結果で終演となった。
「くそっ、あのジジィ! いずれ私が即位したら覚えていろよ」
周囲に被害が出ないよう展開した防音と防御の結界の中で悪態づく。80過ぎの老体のくせに、10代の若者と同等の体力を有している化け物に抱いた殺意は未だ燻り続けていることは、ユーファミアには内緒だ。
試験勉強のために、カイエンと居残って自習したいと言い出したときには「なぜ私に頼まない!」と喉元まで出かかった。カイエンも優秀な男だが、私の方が学院での成績は上だ。私ほど個人指導に向いている者がいるはずもない。学院に残らずとも王宮で、私の私室に自由に出入りを許されている彼女なら、なんら遠慮することなく机を並べられるし、メラニア・マクレガーが持ってきた書籍よりもずっといいものが王宮の図書館には揃ってもいる。歯軋りしたくなる勢いで、彼女の自習が終わるのを教室の見える位置で待った。もちろん窓は開けさせた。寒いだろうから温暖の魔法を施しておいたのはたぶんバレていないはずだ。そもそも自習しなければならない状況を作らなければいいのだと、授業に空きができたときは積極的に図書館で勉強するようセッティングもした。その間もメラニア・マクレガーが私のすぐ側にまとわりついていたが、意識はいつだってユーファミアだけを追いかけていた。
私たちが集まって過ごしていれば、一般の生徒たちはおいそれと近づいてはこない。そういう意味ではいろいろ牽制できて良かったのだが、残念ながらそれは生徒のみに効く方法で、学院の教師陣はことあるごとにユーファミアに話しかけていた。特にしつこかったのが水魔法の大家と名高いエンゲルス教授だ。80歳を過ぎても現役、彼を凌ぐ水魔法の実力者は現れないという強者で、好きな魔法研究に打ち込みたいからと、宮仕えの魔道士部の職を蹴り、学院に身を置いているという変わり種だ。彼の魔法理論は凡人には想像もつかない破天荒なものばかりで、それが机上の空論であればただのおかしな人間扱いだが、いくつか世紀の大発見と言われる大魔法を編み出してもいるから厄介だった。
そんなエンゲルス教授の大のお気に入りがユーファミアだ。彼女の研究理論は実技に縛られない分、エンゲルス教授並みにそこそこ斬新だ。近年自分ともっとも話が合う生徒だと、何かにつけてはユーファミアを呼びつけ議論をふっかけたりレポートを課したりしていた。ユーファミアも自身の研究が風魔法選択なのだから断ればいいものを、素直に従ってしまう上に、なぜかちょっと楽しそうだから余計に腹がたつ。そんなことを続けていたら私と過ごす時間がますます減る。ただでさえ早く引退したがっている父が公務の一部を遠慮なく押し付けてきて、下校後も多忙だというのに。おかげで最近は手伝いのカイエンまで王宮に泊まり込むことが増えて、ユーファミアと2人きりの晩餐と朝食すらご無沙汰だ。
これは一度教授に釘を刺さねばならないなと思っていたところに、試験とは関係ないレポートを書くよう言いつけられたと聞いて、ユーファミアが預かっていた論文集とかいう分厚い参考書を叩き返してやったら、「若造に見つかってしまったかの」と無駄に長いヒゲを撫でながら人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。それのみならず、翌週の水魔法の実技講座で絡まれた。
「若造のくせにワシの邪魔をするとは、これはちと本気で殺っておかねばなるまいの」
「今、絶対に不敬な言葉が出ましたね! それ以前に、何勝手に人のものを使役してるんですかね!」
「あの優秀な頭脳も謙虚な姿勢も誰のものかと言えば本人のもので、拡大解釈してご家族のものであろう。ぎりぎり陛下のご意思じゃ。お主のような赤の他人がとやかく言う筋合いはまったくもってないのぉ」
「その減らず口……いつまで達者でいられるか見ものです」
「ふぉっふぉっふぉっ! ケツの青い若造にはまだまだ負けんわ」
私自身、当代一の魔力量と実力を兼ね備えている自負があるが、水魔法その一点だけにおいてはこの化け物ジジィは私と互角だった。教授の防御魔法は鉄壁で、その隙から繰り出す私の反撃魔法が鮮やかにはじかれる。そのまま接戦を繰り広げた実技演習は、2人ともの体力枯渇という結果で終演となった。
「くそっ、あのジジィ! いずれ私が即位したら覚えていろよ」
周囲に被害が出ないよう展開した防音と防御の結界の中で悪態づく。80過ぎの老体のくせに、10代の若者と同等の体力を有している化け物に抱いた殺意は未だ燻り続けていることは、ユーファミアには内緒だ。
7
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
幸せな政略結婚のススメ【本編完結】
ましろ
恋愛
「爵位と外見に群がってくる女になぞ興味は無い」
「え?だって初対面です。爵位と外見以外に貴方様を判断できるものなどございませんよ?」
家柄と顔が良過ぎて群がる女性に辟易していたユリシーズはとうとう父には勝てず、政略結婚させられることになった。
お相手は6歳年下のご令嬢。初対面でいっそのこと嫌われようと牽制したが?
スペック高めの拗らせ男とマイペースな令嬢の政略結婚までの道程はいかに?
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
・11/21ヒーローのタグを変更しました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる