1 / 21
第1章 夜会
(1)婚約破棄のお申し出ですか
しおりを挟む
それは王宮主催の夜会が始まる直前のことだった。
兄のエスコートで会場に入り友人を見つけたので近寄ろうとする。そこへ一組の男女が近づいてきた。行き交う貴族はみな彼らに道を譲り、頭を垂れた。
その二人はどうやらこちらに向かっているようで、その二人のうち男性を認めてわたしと兄も礼の形を取る。
もう一人は小柄な見知らぬ少女だ。
「私、ティリシス王国第一王子ヘルムート・ビシュケンスはパトリツィア・ラインマイヤーとの婚約を破棄する!」
わたしの目の前で、なにかの舞台俳優のように高らかに宣言したヘルムート殿下。
彼の明るいブロンドヘアがシャンデリアの明かりを反射していた。翠の瞳は自信にあふれ輝いている。
そのかたわらの少女は、ふわりとウェーブした柔らかな蜂蜜色の髪をハーフアップにしていた。ドレスは高級感のあるゴールドのドレスで、胸を強調するようにデコルテが広く開いている。
よく見ればヘルムート殿下はその少女のはしばみ色の瞳と同じ色を礼服の随所に使っていた。
そんな二人をしげしげと眺めつつ、ヘルムート殿下の言葉の意味を考えていた。
婚約破棄をしたい?
どういうことだろうか。
ヘルムート殿下はわたしが状況を理解できていないことに気づかない。
そのまま話を進めようと隣に立つ庇護欲を誘う可憐な少女と目を合わせて頷き合う。そして彼女を守るように肩を抱き寄せた。
「お前は、」
「あの、お待ちください、ヘルムート殿下。確認したいことがございます」
不敬ではあるが、お言葉を遮ってでも確認しなければならない。
この夜会は長らく国交断絶していた西の隣国ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒト殿下を歓迎する場なのだ。
ヘルムート殿下に余計なことを言われて事を大きくしてよい場所ではない。
「確認したいことがございますので、まずは別室へ参りましょう」
「不利を悟ってこの場から逃げる気か? そうはさせない」
不利ってなんのことだろう。ますます意味が分からない。
「お前が嫉妬からマヌエラ・レーヴェンを苛烈に虐めていたことは分かっている」
えぇ……?
まずマヌエラ様とかいう女性とは初対面で素性もよく知らないのですが。まあ、十中八九いま眼前で殿下に肩を抱かれ目を潤ませている少女がマヌエラ様なのでしょうけれど。
マヌエラ様は一見したところ殿下に贈られたものなのかドレスは豪奢で手の掛かったものを着ているが、記憶にないので伯爵以上の家の令嬢ではなさそうだ。
我が家は王家の血を汲む公爵の家で高位貴族たちとばかりの付き合いだ。あとは珍しい特産品を持つ男爵や子爵がいくつか。その中にいなかったのは間違いない。
「学園や寮での悪辣な嫌がらせの数々、忘れたとは言わせない。証拠もあるからな」
兄のエスコートで会場に入り友人を見つけたので近寄ろうとする。そこへ一組の男女が近づいてきた。行き交う貴族はみな彼らに道を譲り、頭を垂れた。
その二人はどうやらこちらに向かっているようで、その二人のうち男性を認めてわたしと兄も礼の形を取る。
もう一人は小柄な見知らぬ少女だ。
「私、ティリシス王国第一王子ヘルムート・ビシュケンスはパトリツィア・ラインマイヤーとの婚約を破棄する!」
わたしの目の前で、なにかの舞台俳優のように高らかに宣言したヘルムート殿下。
彼の明るいブロンドヘアがシャンデリアの明かりを反射していた。翠の瞳は自信にあふれ輝いている。
そのかたわらの少女は、ふわりとウェーブした柔らかな蜂蜜色の髪をハーフアップにしていた。ドレスは高級感のあるゴールドのドレスで、胸を強調するようにデコルテが広く開いている。
よく見ればヘルムート殿下はその少女のはしばみ色の瞳と同じ色を礼服の随所に使っていた。
そんな二人をしげしげと眺めつつ、ヘルムート殿下の言葉の意味を考えていた。
婚約破棄をしたい?
どういうことだろうか。
ヘルムート殿下はわたしが状況を理解できていないことに気づかない。
そのまま話を進めようと隣に立つ庇護欲を誘う可憐な少女と目を合わせて頷き合う。そして彼女を守るように肩を抱き寄せた。
「お前は、」
「あの、お待ちください、ヘルムート殿下。確認したいことがございます」
不敬ではあるが、お言葉を遮ってでも確認しなければならない。
この夜会は長らく国交断絶していた西の隣国ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒト殿下を歓迎する場なのだ。
ヘルムート殿下に余計なことを言われて事を大きくしてよい場所ではない。
「確認したいことがございますので、まずは別室へ参りましょう」
「不利を悟ってこの場から逃げる気か? そうはさせない」
不利ってなんのことだろう。ますます意味が分からない。
「お前が嫉妬からマヌエラ・レーヴェンを苛烈に虐めていたことは分かっている」
えぇ……?
まずマヌエラ様とかいう女性とは初対面で素性もよく知らないのですが。まあ、十中八九いま眼前で殿下に肩を抱かれ目を潤ませている少女がマヌエラ様なのでしょうけれど。
マヌエラ様は一見したところ殿下に贈られたものなのかドレスは豪奢で手の掛かったものを着ているが、記憶にないので伯爵以上の家の令嬢ではなさそうだ。
我が家は王家の血を汲む公爵の家で高位貴族たちとばかりの付き合いだ。あとは珍しい特産品を持つ男爵や子爵がいくつか。その中にいなかったのは間違いない。
「学園や寮での悪辣な嫌がらせの数々、忘れたとは言わせない。証拠もあるからな」
342
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる