4 / 21
第1章 夜会
(4)「なぜ」とはこちらが聞きたいです
しおりを挟む
「そうですね、確かに情報収集に穴があったようでございます。ですが昨秋のこととなると、やはりお会いすることは無理があります」
「なぜだ」
「なぜもなにも、わたしは昨年の春から隣国北部セトレア共和国に留学をしておりました」
なぜ、とはこちらが聞きたい。
なぜ、仮にも将来結婚する可能性の高い婚約者候補の筆頭だったわたしが留学するのを知らなかったのか。
なぜ、わたしが国を空けていることに気づかないのか。
学院に所属する貴族子女について情報に抜かりがあったのはわたしの落ち度だけれど、ヘルムート殿下のそれとは比べ物にならないはずだ。
「ヘルムート殿下、ご納得いただけましたか?」
「俺は知らなかった! 留学の証拠はあるのか!? お前はマヌエラが嘘をついたと言うのか!?」
今度こそため息がもれる。
ヘルムート殿下は昔から思い込みの激しい性格だった。この様子ではわたしがなにを言っても納得されないだろう。
どうしたものかと考えていると、そっと肩に手を置かれる。振り向くと深いスミレ色の直毛を一つ結びに肩に垂らし、柔らかな蓮のような薄赤の瞳を細めた男性、ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒト様が立っていた。
ご入場はまだのはずなのに、なぜここにいるのだろう。
「ディーデリヒ様」
「大変だねぇ」
口角がむずりと動く。表情を引き締めるとディーデリヒ様はヘルムート殿下に相対するようにわたしの前に立った。
「ヘルムート殿、お初にお目にかかる。ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒトだ。貴方のお噂は色々と聞いているよ。よろしく」
「ああ、俺はティリシス王国第一王子ヘルムート・ビシュケンスだ」
前半、敬語ではないことに気分を害した様子を見せたがディーデリヒ様が隣国の皇太子と知ってヘルムート殿下は一応の挨拶をした。
「パトリツィア嬢が北部セトレアに留学していたことは僕がルセアノ皇国の皇太子として証言しよう。なんせ北部セトレアで共に学んだ仲だからね」
まあ、このティリシス王国の高位貴族でパトリツィア嬢の留学を知らない人間の方が少ないだろうけど。
そう言い添えてディーデリヒ様は一歩下がった。
「申し訳ございません。せっかくの歓迎の場ですのに、主賓である貴方のお手を煩わせてしまって」
「いいよ、面白い見せ物とでも思うから。まあ、ヘルムート殿が王位を継ぐようなら今後の国交については考えなければいけないけどね」
ディーデリヒ様の言葉に周囲の貴族たちがさざめく。
三十年近く断絶していた国交がようやく回復しようとしているのに、そんな貴族たちの心の声が聞こえそうだ。
このままでは国交回復に尽力した人々の努力が水の泡になり、これからの貿易で富を得ようとしていた人々の目算も外れることになだろう、と考えているのかもしれない。
「なぜだ」
「なぜもなにも、わたしは昨年の春から隣国北部セトレア共和国に留学をしておりました」
なぜ、とはこちらが聞きたい。
なぜ、仮にも将来結婚する可能性の高い婚約者候補の筆頭だったわたしが留学するのを知らなかったのか。
なぜ、わたしが国を空けていることに気づかないのか。
学院に所属する貴族子女について情報に抜かりがあったのはわたしの落ち度だけれど、ヘルムート殿下のそれとは比べ物にならないはずだ。
「ヘルムート殿下、ご納得いただけましたか?」
「俺は知らなかった! 留学の証拠はあるのか!? お前はマヌエラが嘘をついたと言うのか!?」
今度こそため息がもれる。
ヘルムート殿下は昔から思い込みの激しい性格だった。この様子ではわたしがなにを言っても納得されないだろう。
どうしたものかと考えていると、そっと肩に手を置かれる。振り向くと深いスミレ色の直毛を一つ結びに肩に垂らし、柔らかな蓮のような薄赤の瞳を細めた男性、ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒト様が立っていた。
ご入場はまだのはずなのに、なぜここにいるのだろう。
「ディーデリヒ様」
「大変だねぇ」
口角がむずりと動く。表情を引き締めるとディーデリヒ様はヘルムート殿下に相対するようにわたしの前に立った。
「ヘルムート殿、お初にお目にかかる。ルセアノ皇国の皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒトだ。貴方のお噂は色々と聞いているよ。よろしく」
「ああ、俺はティリシス王国第一王子ヘルムート・ビシュケンスだ」
前半、敬語ではないことに気分を害した様子を見せたがディーデリヒ様が隣国の皇太子と知ってヘルムート殿下は一応の挨拶をした。
「パトリツィア嬢が北部セトレアに留学していたことは僕がルセアノ皇国の皇太子として証言しよう。なんせ北部セトレアで共に学んだ仲だからね」
まあ、このティリシス王国の高位貴族でパトリツィア嬢の留学を知らない人間の方が少ないだろうけど。
そう言い添えてディーデリヒ様は一歩下がった。
「申し訳ございません。せっかくの歓迎の場ですのに、主賓である貴方のお手を煩わせてしまって」
「いいよ、面白い見せ物とでも思うから。まあ、ヘルムート殿が王位を継ぐようなら今後の国交については考えなければいけないけどね」
ディーデリヒ様の言葉に周囲の貴族たちがさざめく。
三十年近く断絶していた国交がようやく回復しようとしているのに、そんな貴族たちの心の声が聞こえそうだ。
このままでは国交回復に尽力した人々の努力が水の泡になり、これからの貿易で富を得ようとしていた人々の目算も外れることになだろう、と考えているのかもしれない。
376
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?
ミィタソ
恋愛
「みんな聞いてくれ! 今日をもって、エルザ・ローグアシュタルとの婚約を破棄する! そして、その妹——アイリス・ローグアシュタルと正式に婚約することを決めた! 今日という祝いの日に、みんなに伝えることができ、嬉しく思う……」
ローグアシュタル公爵家の長女――エルザは、マクーン・ザルカンド王子の誕生日記念パーティーで婚約破棄を言い渡される。
それどころか、王子の横には舌を出して笑うエルザの妹――アイリスの姿が。
傷心を癒すため、父親の勧めで隣国へ行くのだが……
婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~
黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる