婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが

ふじよし

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第1章 夜会

(6)ようやく夜会が始まります

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「だが、お前は俺の婚約者として扱われていただろう」


 確かに学院へ入学して留学するまでの一年半は周囲――とくに第一王子派の貴族の令嬢たちから実質婚約者のような扱いを受けたけれど、実際には婚約していなかったのは学院の誰もが知っていたはずだ。

 わたしが筆頭とされていたけれど婚約者候補は他にもいたからだ。


「お前が望み、ラインマイヤー公爵が権力を手にせんがために婚約したのではないのか?」


 わけが分からないという顔をされても、わけが分からないのはわたしの方だ。


「ヘルムート殿、この辺りにしてはどうだ。客観的に見ればどう考えてもパトリツィア嬢にマヌエラ嬢とやらを虐める利はないし、理由もない」

「……」


 ヘルムート殿下がディーデリヒ様を睨み付ける。それを受け流しディーデリヒ様は会場前方の大階段を見上げた。


「それに夜会の始まる刻限も過ぎている」


 段上にある王族専用のテーブルの前にはすでに国王王妃両陛下と王子殿下方、そして先月一歳になった王女殿下を抱いた側妃様が並び立っている。

 本来ならヘルムート殿下もそこに並び、国王陛下の声でディーデリヒ様が迎え入れられる手はずになっていた。


「ディーデリヒ殿、息子が手間を掛けた」

「なぜ私が!」

「ヘルムート、下がりなさい」


 威厳ある国王陛下の声にディーデリヒ様が静かにボウ・アンド・スクレープで応える。
 対してヘルムート殿下は抗議の声を上げたが、陛下は退出を命じた。


「もとはと言えばパトリツィアが……!」

「下がれと言っている」


 その厳しい声に侍従たちがヘルムート殿下へと近づく。
 促されてヘルムート殿下はマヌエラ様を連れて不承不承退出した。会場は静まり返っている。


「ディーデリヒ殿、こちらへ」

 国王陛下に呼ばれディーデリヒ様が大階段を上がる。
 王族の揃う段上の一段下でディーデリヒ様が立礼を取った。さらに促されて段上へ上がるとディーデリヒ様が会場へと向き直る。


「では、みなに紹介しよう。ルセアノ皇国皇太子ディーデリヒ・ラムブレヒト殿だ。このたびの国交回復の立役者でもある」


 会場から拍手が鳴ると国王陛下が頷いてそれを収める。


「そして、ここで喜ばしい発表がある。パトリツィア、こちらへ」


 国王陛下の声がやたらと響いて聞こえた。大階段の近くにいたわたしは後方へ向き直り軽く立礼をする。それからゆっくりと大階段を上がった。

 大階段の三分の二ほどまで上がると階段の奥行きが広くなっている場所がある。先ほどディーデリヒ様が立礼を取った場所だ。

 そこで王族に向かいカーテシーをする。深く頭を下げて二呼吸。ゆっくり頭を上げると、さらに段上へと呼ばれる。
 ディーデリヒ様と並んでわたしも会場へと向き直った。
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