婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが

ふじよし

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第3章 マヌエラの話

(13)マヌエラの婚約話

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 マヌエラの婚約相手との初顔合わせは、相手方の伯爵のカントリーハウスで行われた。玄関ホールで歓待を受け、応接室でまずは伯爵夫妻と挨拶を交わす。

 レーヴェン家からはマヌエラの両親と四番目の兄が来ていた。四人揃って伯爵のカントリーハウスの豪華さに驚きつつ、なるべくそれは気取られないように気を付ける。

 その日のメインは庭園でのお茶会だった。マヌエラはそこで初めて伯爵の令息と顔を合わせた。


「とりあえず見た目は合格だな」


 それが彼の最初の一言だった。
 その一瞬でマヌエラの四番目の兄は内心怒り狂っていたが、両親からの視線でなんとか平静を保った。けれど、約二十分後には兄だけでなく両親も怒り心頭することになる。


「女のくせに薬草の研究?」


 それはマヌエラの母が娘時代に言われつづけた言葉だった。

 学問をするような女は生意気でいけない。庶民の女とは違うのだから無闇に外に出るな。女主人として使用人を取りまとめ、社交をこなし婚家のために尽くせ。

 それがマヌエラに対する婚約相手の家の総意らしかった。

 マヌエラはこのまま婚約し、この家に嫁いだらどうなるだろうと不安に思ったが、当然のように破談だ。
 四番目の兄から話を聞いた三人の兄たちも怒り狂い、両親は隣接する伯爵領であまりにも古い思想が色濃く残っていることを嘆いた。


 そうして、マヌエラは婚約のために一度は諦めた学院への進学に改めて挑戦することにした。
 ただ学院は原則四年制で十八歳で入学しなければならない。そして十八歳で入学するには十七歳時点で入学試験に合格しなければならなかった。


 伯爵子息との婚約が持ち上がった頃が丁度入学試験の志願をする時期と重なっていた。
 志願の書類とともにこれまで行った学問や研究の骨子をまとめた書類も一緒に提出するのが決まりだ。

 けれどマヌエラは進学を諦めていたのでそれらの書類は作成しておらず、破談が正式になったのは入学試験申し込み締め切りの直後だった。

 だからといって、学院への道が閉ざされたわけではない。通常の入学選考よりも難易度は数倍上がると言われているが編入制度がある。


 編入できるのは一年次と二年次のみ。
 学院の年度末にはそれぞれの学年の修了試験がある。その修了試験より少し難易度の高い筆記試験とこれまでの研究についての論文の提出、その論文について学院の教師たちとの討論会。
 それらを突破すれば学院に進学できる。

 マヌエラは家族にも相談し、じっくりと対策を取るため二年次での編入を目指すことにした。それからは猛勉強の日々だ。


 そしてマヌエラは学院にもう一つの目的を見出だしていた。それは結婚相手を見つけること。
 もちろん、その結婚相手はマヌエラが結婚後も薬草の研究を認めてくれる人でなければならない。

 学院には女性も多く在籍していると聞く。しかも王都という流行の発信される先端の場所でなら、自分を女だからと差別する人は少ないはずだ。
 きっと理想の人を見つけられる。


 そんなちょっとした野望を秘めつつ、マヌエラは無事に学院への編入を果たしたのだった。
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