王子の婚約者の決定が、候補者によるジャンケンの結果であることを王子は知らない

mios

文字の大きさ
3 / 13

何も知らない王子殿下②

しおりを挟む
ヨハンはコリーナに会う前に、どうしても会いたい人物がいた。今回は選ばれなかったが、自分が望めばどうにでもなる、とヨハンはまだ諦めていなかった。

「まずはエリザベス嬢に会って、互いの愛を確認しなければ。」

運が良ければそこで既成事実すら作れるかもしれない、と下心満載で、意気揚々と公爵家に向かうヨハン。

サプライズと称して、いつもと同じように先触れも出さずに向かったのだが、それがよくなかったのか、エリザベスは不在だった。

「戻ってくるまで待たせて貰おう。」

公爵家の使用人は、ヨハンの訪問に困惑しているようだった。いつもなら優秀な彼女の侍従が相手をしてくれるはずだが今日は姿が見えない。

出されたお茶と菓子を食べ、彼女の帰りを待つが一向に帰ってくる気配はない。そろそろ帰らねばと立ち上がるタイミングで運良く待ち人が帰って来た。

愛らしい笑い声が響いたと思ったら、いつもとは異なる格好の侍従と、エリザベス嬢が恋人のように手を繋いで笑っている。

エリザベス嬢にヨハンの訪れを報告した使用人に、彼女は、嫌そうな顔を見せる。

「また来たの、あの方。先触れもなしに?良い加減にしてほしいわ。」

まあまあ、と侍従に宥められ、ヨハンの前に来る頃には、上手に本音を隠した対応をしている。

ヨハンはさっき見た現実を忘れられずに呆然としていた。

彼女の言うには、彼女は婚約者候補から外れることで、初恋の人と結ばれることができて、嬉しいということだった。


相手は侍従だが、彼はこの度公爵家に婿入りするらしい。エリザベス嬢は、ヨハンの前では見せたことのない柔らかな笑みを浮かべ、侍従を見ていて、いくらヨハンが鈍感でも、その意味は理解できた。碌に話もできないまま、公爵家から出ると、失意のまま、次のご令嬢の家を目指した。

「それならば次は、ライラ嬢だな。彼女なら、男を周りに侍らせたりしないはずだ。彼女はエリザベス嬢のように薄情なこともないだろう。私を諦めるのが早すぎる。これは明らかな不貞だろう。」

エリザベス嬢を選んだのは王家で、そこには彼女の気持ちなんてこれっぽっちも反映されていないのだが、そんなことは最初から知らないヨハンは、女性は皆自分と結婚したいはずだと言う、偏見に満ちていた。

それにより、更なる不幸に見舞われるとは思いもせずに。

ライラ嬢は、王子の婚約者候補に最初からなりたくなかった。その為、候補から外れた後の逃げ足も尋常じゃない速さで行われた。

王子はライラ嬢のいるはずの、公爵家に、先触れを出したが、断られた。

「ライラなる者は、公爵家から除籍した為、おりません。」と、そう言われたのである。

それからも、何人ものご令嬢を訪ねたものの、皆一様に幸せそうで、ヨハンは自分には決められた婚約者しかいないのだと、諦めるしかなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

知らない男に婚約破棄を言い渡された私~マジで誰だよ!?~

京月
恋愛
 それは突然だった。ルーゼス学園の卒業式でいきなり目の前に現れた一人の学生。隣には派手な格好をした女性を侍らしている。「マリー・アーカルテ、君とは婚約破棄だ」→「マジで誰!?」

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

処理中です...