王子の婚約者の決定が、候補者によるジャンケンの結果であることを王子は知らない

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ジャンケンしなくていいのですか?

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王子殿下は、漸くコリーナ嬢と会う決心がついた。婚約者に折角決まったが、自分には愛する人がいる為、断ろう。と思っていた。幸い未だに王子妃教育はそこまで進んでいないという。

最初の挨拶もそこそこに、コリーナ嬢を訪ねると、他の婚約者候補の屋敷に赴いた時のような微妙な雰囲気に包まれた。その原因が今回も出さなかった先触れにあると護衛は気がついていたが、何も言わなかった。

コリーナ嬢は何かの作業中で忙しくしていたが、ヨハンの突然の登場に手を止め対応に当たっていた。

「まあ、本日はどう言ったご用事で?」

コリーナ嬢はヨハンより三センチ程身長が高い令嬢で、気を遣っているのか、ヒールのあまりない靴を履いていた。

そう言ったところは健気で可愛い気はするが、残念ながらヨハンは真実に愛する人を見つけてしまったのだ。

コリーナ嬢はヨハンと一緒にいるマリアを見て、不思議な顔をしているが、マリアはマリアでコリーナがしていた作業中の何かに目を奪われている。平民のマリアが貴族令嬢に話しかけることは流石に躊躇うのか、目線がフラフラしていると、気づいたコリーナ嬢が話しかける。

「何か気になりますか?」
「あの、これは、パンですか?」
「マリアはパン屋で働いているんだ。」
「パン屋で?」
綺麗なドレス姿のマリアを、まさか平民だとは思わなかったようでコリーナ嬢は驚いた声を出す。ヨハンはマリアを庇うように立つが、心配は杞憂に終わった。

「あの、これはパンなんですが、どうやっても美味しくならなくて。何か案はありませんか?」

パンを一口食べたマリアは不思議な食感のパンに正直な感想を口にした。

「え、美味しい。え、いけますよ、これ。あ、でも貴族の方には美味しくないのかな。平民には絶対に売れますよ。何か不思議な味。」少し苦い薬草を入れたせいで美味しくないと思っていたそれは意外にも好評価を貰えてしまった。

「でも、苦くないですか。」
「それなら、中に甘いジャムなどを仕込むのはどうですか。それなら苦いと甘いを両方楽しめるので良いと思います。」
「成る程。勉強になります。」

ヨハンそっちのけで話は続いていく。ヨハンの咳払いで二人とも我にかえるも正直まだ話し足りない様子にヨハン以外の人間は複雑な表情を浮かべていた。

「あ、すみません。話に夢中になってしまって。」ヨハンに主導権を戻すと、彼は意外なことを口にした。

「私はこのマリアを婚約者に推したいので貴女とは婚約できない。折角決まったことなのに申し訳ないが、婚約者を辞退してもらえないだろうか。」

ヨハンはコリーナからの罵詈雑言を受けるつもりで来たが、コリーナの反応は全く違った。

「えっ、そんな……良いんですか?えっと、ジャンケンしなくても?」
マリアが驚いて言葉を返すも、ヨハンの入り込む余地もないほどテンポよく話が進んでいく。
「何で貴族令嬢がジャンケンなんて知ってるんですか?」
「ジャンケンは何かを決める時に使うものだからと、婚約者の決定に使いましょうって。」
「まさか、ジャンケンで決めたんですか?」
「ええ、私負けてしまって……」
「あ、なら、別にヨハン様には何の恋愛感情もないと?」
「勿論です。何ならなりたくなかったので。」
そこまで話して、コリーナ嬢はヨハンがその場にいたことを思い出した。
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