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新たな火種
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その日の夜、執務室に現れたのは王女その人だった。昼間の印象通り、儚げで、可憐な少女。あの時も思ったが、護衛と侍女はいるにはいるが、一国の王女としては、少なすぎる。
「もう一陣来るのですか?」思わず聞いてしまった。
「いいえ、これが全てですわ。」ニッコリ笑って返されたけれど。
人数が、多いからと言って、良いというものではないけれど、少なすぎると、心配になる。隣国の王族だけに、何かあったら怖い。
王女は、あの礼儀知らずの侯爵令嬢とは違い、品の良い雰囲気で存在している。話すたびに、顔の周りに花が開いて、良い香りを撒き散らしている。まあ、実際にはそんなことはないのだが、そんな印象を与えるほどに可憐な美少女だ。
ただそれは、あくまでも外面だったらしい。
話をしようと言う段階で、すっと、表情をなくしたからだ。
その瞬間、さっきまで、咲き誇っていた花びらが、一気に存在を消してしまった。
どうやら、こちらが素らしい。
「あら、お好みには合いませんでしたか?」
こちらの反応は予想外だったのか、無表情で見つめられる。
「いいや、胡散臭い笑顔よりは数倍マシだ。」
「微笑んで、生きていられる世の中ではないのです。」
「まあ、どこの王族も違わないさ。わかるよ。あんな可憐な美少女が素なら、すぐに殺されてしまうよ。」
ニコリともしないで、紅茶を一口飲むと、強い眼差しでこちらを見つめた。
「お願いがあって参りました。遅くに申し訳ありません。彼らを振り切るのに、時間がかかりまして。……私を亡命させてくださいませ。」
こちらの反応を確認しながら冷静に話を進める。
「私、命を狙われておりますの。私は王位継承権などに興味はありません。ですが、いくらそう言っても、信じない者がいるのですわ。
私、国を捨てたいのです。」
「王位継承で、揉めているとのことでしたが。」
「ええ、お恥ずかしいのですが、今の国王陛下は盛りのついた猿以下なのです。真実の愛だと口に出しさえすれば良いと思って、身分関係なく手を出すのです。母の後ろ盾がないことも影響して、側妃の実家の侯爵家が、我が物顔で、大手を振って歩いているのです。」
「侯爵家ですか。失礼ながら、王妃様にも一度お会いしたか、ぐらいの印象でして…」
「ええ、知らなくても大丈夫ですわ。側妃ですから、勿論公には出てきません。王妃である母も、出てないのは問題ではあるのですが。」
「亡命はお一人で?それとも、どなたかご一緒ですか?」
一緒に来た二人は、どうなるのだろうか。
「私と侍女とを亡命させていただきたいのです。護衛も後から合流する予定ですが、それはこちらで致しますので。」
王女は真剣な顔をして、私に頭を下げる。
「あの二人は貴女の敵ですか。」
「ええ、ダミアンの後ろ盾についているのが、側妃の侯爵家です。」
ああ、なるほど。
「貴女を助けたら、何か見返りはあるのでしょうか。」
私が口にすると、待ち構えていたかのように、護衛に指示をすると、封筒を一通取り出した。
「開けても良いのですか?」
頷いたのを横目で確認して、封を開けると、私は頷いた。
「何か策はあるのですよね。」
「ええ、準備はできております。」
この部屋に入り、はじめての笑顔を見せた王女だったが、その笑顔からは、殺意が軽く滲み出ていて、正直関わりたくはなかった。
「もう一陣来るのですか?」思わず聞いてしまった。
「いいえ、これが全てですわ。」ニッコリ笑って返されたけれど。
人数が、多いからと言って、良いというものではないけれど、少なすぎると、心配になる。隣国の王族だけに、何かあったら怖い。
王女は、あの礼儀知らずの侯爵令嬢とは違い、品の良い雰囲気で存在している。話すたびに、顔の周りに花が開いて、良い香りを撒き散らしている。まあ、実際にはそんなことはないのだが、そんな印象を与えるほどに可憐な美少女だ。
ただそれは、あくまでも外面だったらしい。
話をしようと言う段階で、すっと、表情をなくしたからだ。
その瞬間、さっきまで、咲き誇っていた花びらが、一気に存在を消してしまった。
どうやら、こちらが素らしい。
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「いいや、胡散臭い笑顔よりは数倍マシだ。」
「微笑んで、生きていられる世の中ではないのです。」
「まあ、どこの王族も違わないさ。わかるよ。あんな可憐な美少女が素なら、すぐに殺されてしまうよ。」
ニコリともしないで、紅茶を一口飲むと、強い眼差しでこちらを見つめた。
「お願いがあって参りました。遅くに申し訳ありません。彼らを振り切るのに、時間がかかりまして。……私を亡命させてくださいませ。」
こちらの反応を確認しながら冷静に話を進める。
「私、命を狙われておりますの。私は王位継承権などに興味はありません。ですが、いくらそう言っても、信じない者がいるのですわ。
私、国を捨てたいのです。」
「王位継承で、揉めているとのことでしたが。」
「ええ、お恥ずかしいのですが、今の国王陛下は盛りのついた猿以下なのです。真実の愛だと口に出しさえすれば良いと思って、身分関係なく手を出すのです。母の後ろ盾がないことも影響して、側妃の実家の侯爵家が、我が物顔で、大手を振って歩いているのです。」
「侯爵家ですか。失礼ながら、王妃様にも一度お会いしたか、ぐらいの印象でして…」
「ええ、知らなくても大丈夫ですわ。側妃ですから、勿論公には出てきません。王妃である母も、出てないのは問題ではあるのですが。」
「亡命はお一人で?それとも、どなたかご一緒ですか?」
一緒に来た二人は、どうなるのだろうか。
「私と侍女とを亡命させていただきたいのです。護衛も後から合流する予定ですが、それはこちらで致しますので。」
王女は真剣な顔をして、私に頭を下げる。
「あの二人は貴女の敵ですか。」
「ええ、ダミアンの後ろ盾についているのが、側妃の侯爵家です。」
ああ、なるほど。
「貴女を助けたら、何か見返りはあるのでしょうか。」
私が口にすると、待ち構えていたかのように、護衛に指示をすると、封筒を一通取り出した。
「開けても良いのですか?」
頷いたのを横目で確認して、封を開けると、私は頷いた。
「何か策はあるのですよね。」
「ええ、準備はできております。」
この部屋に入り、はじめての笑顔を見せた王女だったが、その笑顔からは、殺意が軽く滲み出ていて、正直関わりたくはなかった。
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