11 / 45
捨て駒としての人生
しおりを挟む
クロエは、昔から兄が大好きだった。血は繋がっていないものの、兄はきちんと妹として、接してくれた。
叔母にとっては、いつでも捨てられる駒でしかなく、私自身を見てくれる人はいない。そんな中、兄ダミアンだけが、私を人間として見てくれた。
私は兄が大好きで、許されるならずっと一緒に生きていきたかった。
兄が、王女と婚約した時は、見える景色が色を無くした。私の大好きな兄が、私以外の人に優しく微笑みかけるのを見ることはできない、と思った。
叔母は言った。
「あれは保険よ。」と。
第一王子に何かあって、王女が生き残ってしまった場合の保険。
王女が女王になり、兄が王配になる未来。兄は私よりずっと頭が良いのに、表には出られないなんて、間違っている。
そう思っていたのに、兄はそれを望んでいなかった。
また、こちらはこんなにたくさんの犠牲を払っていると言うのに、叔母の息子である王子は、婚約者を放って平民の女に入れ込んでいた。さすが、猿以下の国王の息子だ。
公爵家を蔑ろにして、侯爵家を袖にして、幸せになれるなんて思わない方が良い。最悪、平民は殺されて王子は、幽閉されてしまう。幽閉ならまだしも、傀儡として、実権を侯爵家に握られたまま、人間として扱われないまま一生を終える。
国を大事に思うなら、絶対に許してはいけない。それだけはわかっている。
王女の暗殺も、叔母は考えていたみたいだが、私に命令が下されることはなかった。足がつかないように、どうにか工作を張り巡らせているのだろう。私が失敗したら、下手したら叔母の失脚に繋がってしまう。
王位継承権第三位は、伯爵家の後ろ盾を持つ側妃の第二王子。私の幼馴染で天敵だ。彼は私が叔母にさせられていることを知っていて、甘い言葉で、やめさせようとしてくる。私が逆らったと誤解されて、私が殺されても痛くも痒くもないからこそなのか、彼は善人の皮を被った獣だと思う。
彼は、優しい言葉を掛けてくるが、何も出来ない人だ。王位継承のゴタゴタが落ち着いたところで、トドメを刺したいタイプ。
漁夫の利を狙っている。だからこそ、私に構うし、優しい言葉を掛けてくるし、甘やかせてくれるのだ。そこに、浮ついた感情はない。
私だって同じ、標的に恋なんかしない。
真実の愛は、手段であり、餌でしかない。溺れて絡め取られて、どうする。
ふと、第二王子の、幼馴染の、顔を思い出して泣きそうになった。
「泣きたい時は泣いていいんだよ。クロエは人間なんだから。」
私が泣けるのは兄ダミアンと、幼馴染の前だけだ。
「居ないのに、泣けない。」
呟いた言葉は、空中に浮かんで、静かに闇に溶けていった。
叔母にとっては、いつでも捨てられる駒でしかなく、私自身を見てくれる人はいない。そんな中、兄ダミアンだけが、私を人間として見てくれた。
私は兄が大好きで、許されるならずっと一緒に生きていきたかった。
兄が、王女と婚約した時は、見える景色が色を無くした。私の大好きな兄が、私以外の人に優しく微笑みかけるのを見ることはできない、と思った。
叔母は言った。
「あれは保険よ。」と。
第一王子に何かあって、王女が生き残ってしまった場合の保険。
王女が女王になり、兄が王配になる未来。兄は私よりずっと頭が良いのに、表には出られないなんて、間違っている。
そう思っていたのに、兄はそれを望んでいなかった。
また、こちらはこんなにたくさんの犠牲を払っていると言うのに、叔母の息子である王子は、婚約者を放って平民の女に入れ込んでいた。さすが、猿以下の国王の息子だ。
公爵家を蔑ろにして、侯爵家を袖にして、幸せになれるなんて思わない方が良い。最悪、平民は殺されて王子は、幽閉されてしまう。幽閉ならまだしも、傀儡として、実権を侯爵家に握られたまま、人間として扱われないまま一生を終える。
国を大事に思うなら、絶対に許してはいけない。それだけはわかっている。
王女の暗殺も、叔母は考えていたみたいだが、私に命令が下されることはなかった。足がつかないように、どうにか工作を張り巡らせているのだろう。私が失敗したら、下手したら叔母の失脚に繋がってしまう。
王位継承権第三位は、伯爵家の後ろ盾を持つ側妃の第二王子。私の幼馴染で天敵だ。彼は私が叔母にさせられていることを知っていて、甘い言葉で、やめさせようとしてくる。私が逆らったと誤解されて、私が殺されても痛くも痒くもないからこそなのか、彼は善人の皮を被った獣だと思う。
彼は、優しい言葉を掛けてくるが、何も出来ない人だ。王位継承のゴタゴタが落ち着いたところで、トドメを刺したいタイプ。
漁夫の利を狙っている。だからこそ、私に構うし、優しい言葉を掛けてくるし、甘やかせてくれるのだ。そこに、浮ついた感情はない。
私だって同じ、標的に恋なんかしない。
真実の愛は、手段であり、餌でしかない。溺れて絡め取られて、どうする。
ふと、第二王子の、幼馴染の、顔を思い出して泣きそうになった。
「泣きたい時は泣いていいんだよ。クロエは人間なんだから。」
私が泣けるのは兄ダミアンと、幼馴染の前だけだ。
「居ないのに、泣けない。」
呟いた言葉は、空中に浮かんで、静かに闇に溶けていった。
38
あなたにおすすめの小説
婚約者を奪われるのは運命ですか?
ぽんぽこ狸
恋愛
転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。
そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。
終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。
自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。
頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。
そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。
こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
あなた方には後悔してもらいます!
風見ゆうみ
恋愛
私、リサ・ミノワーズは小国ではありますが、ミドノワール国の第2王女です。
私の国では代々、王の子供であれば、性別や生まれの早い遅いは関係なく、成人近くになると王となるべき人の胸元に国花が浮き出ると言われていました。
国花は今まで、長男や長女にしか現れなかったそうですので、次女である私は、姉に比べて母からはとても冷遇されておりました。
それは私が17歳の誕生日を迎えた日の事、パーティー会場の外で姉の婚約者と私の婚約者が姉を取り合い、喧嘩をしていたのです。
婚約破棄を受け入れ、部屋に戻り1人で泣いていると、私の胸元に国花が浮き出てしまったじゃないですか!
お父様にその事を知らせに行くと、そこには隣国の国王陛下もいらっしゃいました。
事情を知った陛下が息子である第2王子を婚約者兼協力者として私に紹介して下さる事に!
彼と一緒に元婚約者達を後悔させてやろうと思います!
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、話の中での色々な設定は話の都合、展開の為のご都合主義、ゆるい設定ですので、そんな世界なのだとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※話が合わない場合は閉じていただきますよう、お願い致します。
【完結】謀られた令嬢は、真実の愛を知る
白雨 音
恋愛
男爵令嬢のミシェルは、十九歳。
伯爵子息ナゼールとの結婚を二月後に控えていたが、落馬し、怪我を負ってしまう。
「怪我が治っても歩く事は難しい」と聞いた伯爵家からは、婚約破棄を言い渡され、
その上、ナゼールが自分の代わりに、親友のエリーゼと結婚すると知り、打ちのめされる。
失意のミシェルに、逃げ場を与えてくれたのは、母の弟、叔父のグエンだった。
グエンの事は幼い頃から実の兄の様に慕っていたが、彼が伯爵を継いでからは疎遠になっていた。
あの頃の様に、戻れたら…、ミシェルは癒しを求め、グエンの館で世話になる事を決めた___
異世界恋愛:短編☆(全13話)
※魔法要素はありません。 ※叔姪婚の認められた世界です。 《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる