王子は真実の愛に目覚めたそうです

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兄と弟

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「一応、じゃないな。助かったよ、ありがとう。」

もう兄だとは思っていない人物に、礼を言うのは癪だけど、今回ばかりは、彼がいなければ、どうにも出来なかった。

洗脳魔法は、代々隣国のデーツ公爵家が、秘術として受け継いできた能力で、前王妃も持っていたものだ。

私は知らなかったのだが、王妃より兄上の方がその点では能力が上だったらしい。どうしてそうなったかは憶測にすぎないのだけれど。

「おそらく、私の父上は、向こうの国王ではないのだろう。」

王妃を失ってすぐに、デーツ公爵家を継いだ王妃の兄は、精神を病んでしまった。血を分けた実の娘を操り、国家転覆を狙うぐらいには。

「母上は子の私から見ても、異常な程、愛が強すぎる女性だ。これが、母上本人ではなくて、一族の特徴なのだとしたら、納得はいく。それを言うなら私は未だに愛とやらに出会ってないことになるが。」

真実の愛、とやらを掲げて自滅したウィルヘルムは苦笑する。確かにあのぶら下がり女とは、王子の立場を失ってからは関係が続かなかった。最初から愛などなかったんだ。

ぶら下がり女は、兄上自身ではなくて、その地位に目をつけたに過ぎず、兄上も彼女自身ではなくて、自由なその存在に憧れただけだ。自分の地位を過剰に信頼し過ぎた結果だ。

「貴方に借りを作ったまま、会えなくなるのは困ります。貴方の能力も今になると、惜しいです。でも、貴方がジャンヌにしたことも許せない。だから、取引しませんか?あくまで貴方は平民ですが、前より少し生きやすくして差し上げます。仕事をご紹介しましょう。住む場所も格安で提供しましょう。」

「お前の施しなど、と言えれば良かったが。いや、助かる。ありがとう。」

初めて兄上の顔をちゃんと見た気がする。ジャンヌを蔑ろにして、平民にした時の青白い顔ではなくて、本来の少々憎たらしい笑顔だ。

「……ジャンヌに、会われますか。」
「いや、やめとくよ。彼女も望んでいない。私も……どうしていいかわからない。」
「わかりました。」


「では、家にご案内しますね。そこで、仕事の説明もします。」

今は私の部下であり、以前は兄上の側近候補であった男が声をかける。

一瞬泣き笑いのような顔をした兄上が、深くお辞儀をする。

「平民だからな。よろしくお願いします、と言わねば。」

「そこは、よろしくお願いしますだけで、良いのです。」

「そうか。」

積もる話があったのか、柔らかい雰囲気のまま、部屋を出る二人を見送ると、椅子に倒れこむ。

「ジャンヌが足りない。」

兄上が出ていき、ジャンヌが部屋に戻ってくると、私は執務室だと言うのに、ジャンヌを抱きしめた。

彼女はいつもなら、執務室ではイチャイチャさせてくれないのに、今日はされるがままになってくれる。

「今日は、このままジャンヌとのんびりしてたい。」

「そうですね、色々なことが起きましたし。……だからこそ、仕事が溜まっているのですわ。どうされます?今日はやめます?これだけありますが。」

未決済の書類の山を見てしまうと、やめると言う選択肢は封じられてしまう。

「……やる。……やるけど、今日はジャンヌとずっと一緒にいる!いたい!」

「ええ、謹んで、お手伝い致しますわ。」



その後、ようやく膝に乗せることに成功したジャンヌに夢中になって、仕事があまり進まなかったり、ジャンヌの新しい照れ顔を拝めたりして、眠れなくなったのは、また別の話。



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