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先住人
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ウィルヘルムは王宮を、眺める。以前までは当たり前に歩いていた場所。平民になってから一番帰りたかった、夢にまで見た場所。それに、もう一度別れを告げると言うのに、何の気持ちも起こらない。既に、自分の居場所と言う気持ちはない。
ウィルヘルムは、王宮で最後に滞在した日に、義父母に謝罪した。今までの何もかも、を。その上で、母である王妃に関する話をすると、陛下はきちんと、わかっていた。ただ隣国から押し付けられただけの、うるさい王妃、というだけではなかったらしい。
「彼女がこの国の民になった瞬間から、私の守るべき存在になったんだ。恋愛感情はなくとも、家族に近い愛で、愛していたよ。届いていたかどうかは……怪しいけどな。」
お人好しすぎないか。
側妃様に至っては、母がいなければ、王妃になれたのに、前から特に私には優しくしてくれた。
「ルーカスはあまり顔に出ない子だったし、貴方みたいにわかりやすい子は可愛かったわ。」
懐かしそうに笑いながら、記憶を辿ると、自分でも何故この人達をあれだけ憎んでいたのか不思議に思ってしまう。母は、この人達を憎むことで、見ず知らずの人達の中に放り出された心細さを紛らわせていたのかもしれない。今となっては本人に聞くことは叶わないが。
平和な空気のまま、辞した後、馬車に乗って王宮を後にする。気は合わないものの、最後に弟に対し、ありがたい、と言う気持ちが湧き出てきて、苦笑した。
今更だな。あの弟が用意してくれた家も仕事も生半可なモノじゃないだろう。もしかして、最後にとっておきの爆弾を用意しているんじゃなかろうか。
着いた場所には、見覚えのある背中。馬車の音に振り返るその姿に、驚いた。彼女は、今まで何度も目にした不機嫌そうな顔ではなく、憑き物が落ちたようなスッキリした顔をしていた。
「母上……亡くなったのではなかったのですか。」
「うふふ。内緒にしてくれたのね。陛下達。貴方が平民になったから、もう頑張る必要もないわ、と思って。私ねぇ、ずっとずっと恨んでいたのよ。祖国を。兄を。それでね、死んだことにして、隙を作ったのよ。
ごめんなさいね。貴方を止めなかったのは私よ。貴方が馬鹿なことをして、婚約者を裏切っていた時、私は昔の自分を思い出していたの。暗い気分になって、本当に体を悪くしたぐらい。けれどね、これで終わると思ったの。私がいなくなれば、隣国から誰かがやってくると思ったの。
貴方が助けに入るとは思わなかったけれど。」
「母上は、私を恨んではいないのですか?私さえ生まれなければ、苦しい思いをすることはなかったのに。」
「貴方を、身籠った時、絶望感でいっぱいになったのは本当よ。でも、それ以前に貴方を愛してしまったの。私のたった一人の味方であり、たった一つの宝物だから。」
不意に抱きしめられて、体が強張る。思えば幼い頃から、こんな風に抱きしめられたことはない。
何よりも、いつも不機嫌さを隠そうとしなかった母の笑った顔を見るのは初めてで、まだ頭が追いつかない。
「……あの、……その、格好は?」
「いいでしょ?ドレスって動きにくいのだもの。亡くなってから、メイドとして密かに働いていたのよ。まだまだいけそうでしょ?」
ルーカスが用意してくれた爆弾はこれか。何をどう言えば良いのか、いまだに混乱してしまう。
「ああ、そうそう。ルーカスは、全て自分が解決したと思っていたから、釘はさしておいたわ。あんな甘ちゃんが生意気にも、調子に乗っていたから。頼りないけれど、国のことは彼に任せて、私達は幸せになりましょう。」
私は生まれてはじめて母の愛にふれた気がした。この年になって、マザコンになるなんて、笑えないぞ。
ウィルヘルムは、王宮で最後に滞在した日に、義父母に謝罪した。今までの何もかも、を。その上で、母である王妃に関する話をすると、陛下はきちんと、わかっていた。ただ隣国から押し付けられただけの、うるさい王妃、というだけではなかったらしい。
「彼女がこの国の民になった瞬間から、私の守るべき存在になったんだ。恋愛感情はなくとも、家族に近い愛で、愛していたよ。届いていたかどうかは……怪しいけどな。」
お人好しすぎないか。
側妃様に至っては、母がいなければ、王妃になれたのに、前から特に私には優しくしてくれた。
「ルーカスはあまり顔に出ない子だったし、貴方みたいにわかりやすい子は可愛かったわ。」
懐かしそうに笑いながら、記憶を辿ると、自分でも何故この人達をあれだけ憎んでいたのか不思議に思ってしまう。母は、この人達を憎むことで、見ず知らずの人達の中に放り出された心細さを紛らわせていたのかもしれない。今となっては本人に聞くことは叶わないが。
平和な空気のまま、辞した後、馬車に乗って王宮を後にする。気は合わないものの、最後に弟に対し、ありがたい、と言う気持ちが湧き出てきて、苦笑した。
今更だな。あの弟が用意してくれた家も仕事も生半可なモノじゃないだろう。もしかして、最後にとっておきの爆弾を用意しているんじゃなかろうか。
着いた場所には、見覚えのある背中。馬車の音に振り返るその姿に、驚いた。彼女は、今まで何度も目にした不機嫌そうな顔ではなく、憑き物が落ちたようなスッキリした顔をしていた。
「母上……亡くなったのではなかったのですか。」
「うふふ。内緒にしてくれたのね。陛下達。貴方が平民になったから、もう頑張る必要もないわ、と思って。私ねぇ、ずっとずっと恨んでいたのよ。祖国を。兄を。それでね、死んだことにして、隙を作ったのよ。
ごめんなさいね。貴方を止めなかったのは私よ。貴方が馬鹿なことをして、婚約者を裏切っていた時、私は昔の自分を思い出していたの。暗い気分になって、本当に体を悪くしたぐらい。けれどね、これで終わると思ったの。私がいなくなれば、隣国から誰かがやってくると思ったの。
貴方が助けに入るとは思わなかったけれど。」
「母上は、私を恨んではいないのですか?私さえ生まれなければ、苦しい思いをすることはなかったのに。」
「貴方を、身籠った時、絶望感でいっぱいになったのは本当よ。でも、それ以前に貴方を愛してしまったの。私のたった一人の味方であり、たった一つの宝物だから。」
不意に抱きしめられて、体が強張る。思えば幼い頃から、こんな風に抱きしめられたことはない。
何よりも、いつも不機嫌さを隠そうとしなかった母の笑った顔を見るのは初めてで、まだ頭が追いつかない。
「……あの、……その、格好は?」
「いいでしょ?ドレスって動きにくいのだもの。亡くなってから、メイドとして密かに働いていたのよ。まだまだいけそうでしょ?」
ルーカスが用意してくれた爆弾はこれか。何をどう言えば良いのか、いまだに混乱してしまう。
「ああ、そうそう。ルーカスは、全て自分が解決したと思っていたから、釘はさしておいたわ。あんな甘ちゃんが生意気にも、調子に乗っていたから。頼りないけれど、国のことは彼に任せて、私達は幸せになりましょう。」
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