25 / 45
兄と弟
しおりを挟む
「一応、じゃないな。助かったよ、ありがとう。」
もう兄だとは思っていない人物に、礼を言うのは癪だけど、今回ばかりは、彼がいなければ、どうにも出来なかった。
洗脳魔法は、代々隣国のデーツ公爵家が、秘術として受け継いできた能力で、前王妃も持っていたものだ。
私は知らなかったのだが、王妃より兄上の方がその点では能力が上だったらしい。どうしてそうなったかは憶測にすぎないのだけれど。
「おそらく、私の父上は、向こうの国王ではないのだろう。」
王妃を失ってすぐに、デーツ公爵家を継いだ王妃の兄は、精神を病んでしまった。血を分けた実の娘を操り、国家転覆を狙うぐらいには。
「母上は子の私から見ても、異常な程、愛が強すぎる女性だ。これが、母上本人ではなくて、一族の特徴なのだとしたら、納得はいく。それを言うなら私は未だに愛とやらに出会ってないことになるが。」
真実の愛、とやらを掲げて自滅したウィルヘルムは苦笑する。確かにあのぶら下がり女とは、王子の立場を失ってからは関係が続かなかった。最初から愛などなかったんだ。
ぶら下がり女は、兄上自身ではなくて、その地位に目をつけたに過ぎず、兄上も彼女自身ではなくて、自由なその存在に憧れただけだ。自分の地位を過剰に信頼し過ぎた結果だ。
「貴方に借りを作ったまま、会えなくなるのは困ります。貴方の能力も今になると、惜しいです。でも、貴方がジャンヌにしたことも許せない。だから、取引しませんか?あくまで貴方は平民ですが、前より少し生きやすくして差し上げます。仕事をご紹介しましょう。住む場所も格安で提供しましょう。」
「お前の施しなど、と言えれば良かったが。いや、助かる。ありがとう。」
初めて兄上の顔をちゃんと見た気がする。ジャンヌを蔑ろにして、平民にした時の青白い顔ではなくて、本来の少々憎たらしい笑顔だ。
「……ジャンヌに、会われますか。」
「いや、やめとくよ。彼女も望んでいない。私も……どうしていいかわからない。」
「わかりました。」
「では、家にご案内しますね。そこで、仕事の説明もします。」
今は私の部下であり、以前は兄上の側近候補であった男が声をかける。
一瞬泣き笑いのような顔をした兄上が、深くお辞儀をする。
「平民だからな。よろしくお願いします、と言わねば。」
「そこは、よろしくお願いしますだけで、良いのです。」
「そうか。」
積もる話があったのか、柔らかい雰囲気のまま、部屋を出る二人を見送ると、椅子に倒れこむ。
「ジャンヌが足りない。」
兄上が出ていき、ジャンヌが部屋に戻ってくると、私は執務室だと言うのに、ジャンヌを抱きしめた。
彼女はいつもなら、執務室ではイチャイチャさせてくれないのに、今日はされるがままになってくれる。
「今日は、このままジャンヌとのんびりしてたい。」
「そうですね、色々なことが起きましたし。……だからこそ、仕事が溜まっているのですわ。どうされます?今日はやめます?これだけありますが。」
未決済の書類の山を見てしまうと、やめると言う選択肢は封じられてしまう。
「……やる。……やるけど、今日はジャンヌとずっと一緒にいる!いたい!」
「ええ、謹んで、お手伝い致しますわ。」
その後、ようやく膝に乗せることに成功したジャンヌに夢中になって、仕事があまり進まなかったり、ジャンヌの新しい照れ顔を拝めたりして、眠れなくなったのは、また別の話。
もう兄だとは思っていない人物に、礼を言うのは癪だけど、今回ばかりは、彼がいなければ、どうにも出来なかった。
洗脳魔法は、代々隣国のデーツ公爵家が、秘術として受け継いできた能力で、前王妃も持っていたものだ。
私は知らなかったのだが、王妃より兄上の方がその点では能力が上だったらしい。どうしてそうなったかは憶測にすぎないのだけれど。
「おそらく、私の父上は、向こうの国王ではないのだろう。」
王妃を失ってすぐに、デーツ公爵家を継いだ王妃の兄は、精神を病んでしまった。血を分けた実の娘を操り、国家転覆を狙うぐらいには。
「母上は子の私から見ても、異常な程、愛が強すぎる女性だ。これが、母上本人ではなくて、一族の特徴なのだとしたら、納得はいく。それを言うなら私は未だに愛とやらに出会ってないことになるが。」
真実の愛、とやらを掲げて自滅したウィルヘルムは苦笑する。確かにあのぶら下がり女とは、王子の立場を失ってからは関係が続かなかった。最初から愛などなかったんだ。
ぶら下がり女は、兄上自身ではなくて、その地位に目をつけたに過ぎず、兄上も彼女自身ではなくて、自由なその存在に憧れただけだ。自分の地位を過剰に信頼し過ぎた結果だ。
「貴方に借りを作ったまま、会えなくなるのは困ります。貴方の能力も今になると、惜しいです。でも、貴方がジャンヌにしたことも許せない。だから、取引しませんか?あくまで貴方は平民ですが、前より少し生きやすくして差し上げます。仕事をご紹介しましょう。住む場所も格安で提供しましょう。」
「お前の施しなど、と言えれば良かったが。いや、助かる。ありがとう。」
初めて兄上の顔をちゃんと見た気がする。ジャンヌを蔑ろにして、平民にした時の青白い顔ではなくて、本来の少々憎たらしい笑顔だ。
「……ジャンヌに、会われますか。」
「いや、やめとくよ。彼女も望んでいない。私も……どうしていいかわからない。」
「わかりました。」
「では、家にご案内しますね。そこで、仕事の説明もします。」
今は私の部下であり、以前は兄上の側近候補であった男が声をかける。
一瞬泣き笑いのような顔をした兄上が、深くお辞儀をする。
「平民だからな。よろしくお願いします、と言わねば。」
「そこは、よろしくお願いしますだけで、良いのです。」
「そうか。」
積もる話があったのか、柔らかい雰囲気のまま、部屋を出る二人を見送ると、椅子に倒れこむ。
「ジャンヌが足りない。」
兄上が出ていき、ジャンヌが部屋に戻ってくると、私は執務室だと言うのに、ジャンヌを抱きしめた。
彼女はいつもなら、執務室ではイチャイチャさせてくれないのに、今日はされるがままになってくれる。
「今日は、このままジャンヌとのんびりしてたい。」
「そうですね、色々なことが起きましたし。……だからこそ、仕事が溜まっているのですわ。どうされます?今日はやめます?これだけありますが。」
未決済の書類の山を見てしまうと、やめると言う選択肢は封じられてしまう。
「……やる。……やるけど、今日はジャンヌとずっと一緒にいる!いたい!」
「ええ、謹んで、お手伝い致しますわ。」
その後、ようやく膝に乗せることに成功したジャンヌに夢中になって、仕事があまり進まなかったり、ジャンヌの新しい照れ顔を拝めたりして、眠れなくなったのは、また別の話。
17
あなたにおすすめの小説
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
何度時間を戻しても婚約破棄を言い渡す婚約者の愛を諦めて最後に時間を戻したら、何故か溺愛されました
海咲雪
恋愛
「ロイド様、今回も愛しては下さらないのですね」
「聖女」と呼ばれている私の妹リアーナ・フィオールの能力は、「モノの時間を戻せる」というもの。
姉の私ティアナ・フィオールには、何の能力もない・・・そう皆に思われている。
しかし、実際は違う。
私の能力は、「自身の記憶を保持したまま、世界の時間を戻せる」。
つまり、過去にのみタイムリープ出来るのだ。
その能力を振り絞って、最後に10年前に戻った。
今度は婚約者の愛を求めずに、自分自身の幸せを掴むために。
「ティアナ、何度も言うが私は君の妹には興味がない。私が興味があるのは、君だけだ」
「ティアナ、いつまでも愛しているよ」
「君は私の秘密など知らなくていい」
何故、急に私を愛するのですか?
【登場人物】
ティアナ・フィオール・・・フィオール公爵家の長女。リアーナの姉。「自身の記憶を保持したまま、世界の時間を戻せる」能力を持つが六回目のタイムリープで全ての力を使い切る。
ロイド・エルホルム・・・ヴィルナード国の第一王子。能力は「---------------」。
リアーナ・フィオール・・・フィオール公爵家の次女。ティアナの妹。「モノの時間を戻せる」能力を持つが力が弱く、数時間程しか戻せない。
ヴィーク・アルレイド・・・アルレイド公爵家の長男。ティアナに自身の能力を明かす。しかし、実の能力は・・・?
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
大嫌いな従兄と結婚するぐらいなら…
みみぢあん
恋愛
子供の頃、両親を亡くしたベレニスは伯父のロンヴィル侯爵に引き取られた。 隣国の宣戦布告で戦争が始まり、伯父の頼みでベレニスは病弱な従妹のかわりに、側妃候補とは名ばかりの人質として、後宮へ入ることになった。 戦争が終わりベレニスが人質生活から解放されたら、伯父は後継者の従兄ジャコブと結婚させると約束する。 だがベレニスはジャコブが大嫌いなうえ、密かに思いを寄せる騎士フェルナンがいた。
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
お母様!その方はわたくしの婚約者です
バオバブの実
恋愛
マーガレット・フリーマン侯爵夫人は齢42歳にして初めて恋をした。それはなんと一人娘ダリアの婚約者ロベルト・グリーンウッド侯爵令息
その事で平和だったフリーマン侯爵家はたいへんな騒ぎとなるが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる