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八年前
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デリクがユラーデンに訪れたのはおよそ八年前。魔法の使用による孤児の大量殺人が発生したことによる。ユラーデンはそれまで魔法を使用する者の情報はなく、その時も最初はユラーデンは一方的に被害を受けた側だと思われていた。遺体に残された魔法の残滓を追うと、別の国の方向を指していたことも相まって、そんな結論に至ったのだが。
デリクの調査により、それらは王家と敵対するある勢力が仕組んだことになったが、実際には王家の関与もあったのである。
わかりやすい敵を発見し、彼らの罪を暴いたところでトカゲの尻尾切りが生じる。デリクは王家に連なる一族の関与を言い当て、それが全てだと思い込んでいた。
デリクが手を離した後で、それを引き継いだ者達がしたことといえば。彼が見落とした真の悪人達の為に証拠を改竄し、真相は闇に葬ること。一部の被害者達を悪人に仕立て上げて。
彼らが施設内で行ったことは、魔法による魔力の剥奪を行える者を作ること。度重なる戦により、孤児が増えたことをこれ幸いと利用し、彼らを実験体にした。
魔力量が少なく、魔法が使えないユラーデンが考えそうなこと。無いなら奪ってしまえば良い。
そこに、「アイラールの愚息」エドワードの精神魔法が合わさって、都合の悪いことには全て記憶を消してしまう、と言う大雑把でどうしようもない悪事が横行してしまった。
エドワードの目的は、自分の精神魔法で国を支配すること。それには王太子と王女が邪魔だった。
「彼の魔力ではただの絵空事だと断言できるが、彼は気づいたんだ。王女の治癒魔法が貴女の身体を通した後、国全体を覆うほどの規模に膨れ上がったことに。
彼はそこから、貴女の可能性に賭けることにした。」
ユラーデンはユラーデンで、こちらに目をつけていた。同盟を謳ってはいるが、実は見下していた国。王太子、王女ともにまだ若く、魔法を扱える能力は世界中を探してもトップクラス。力さえ奪えば、うちが優位に立てるのに、と。
王太子は人が良く、魔法に関することなら敵なしだが、そうでなければ恐れるに足りず、実際あっさりと罠に嵌まった。彼が身につけていた精神魔法から逃れる道具を回収出来なかったのは痛かったが、聖女と言う名目で、作った実験体を送ることが出来た。
ユラーデンにとっては幸運なことに、聖女はそこで様々な魔法を覚えていった。神殿の内部は、エドワードに与した勢力が幅を利かせている為に毎日呪詛のように聖女に言い聞かせて、王家を簒奪する力を手に入れようとした。
エドワードは自身と同じ二つ名をつけられた甥を利用しようとした。あわよくば彼を使って王女を籠絡しようとしたが、それは早々に諦めた。
王女の行った政策や粛正をただの我儘だと捉える男に、そんな高度な駆け引きは無理だ。考えうる方法といえば実にわかりやすく愚かな方法だった。
聖女の姿を誤認させたのである。本来の聖女はまだ幼く、子供といっても差し支えない十三歳。施設から出たのが僅か五歳でそれからの処遇を考えれば、年齢より小柄な彼女はどう見たって少女だったが、甥のダミアンには適齢期の女性に見えるようにしたのだ。元々、王女に少なからず淡い恋心を抱いていたダミアンは拒絶され、傷ついていた為に、その隙につけ込んで彼の理想の女性像を聖女に投影したのである。
とはいえ、このような魔法は、魔力が高い人物にはまるで効かない。その為、一部の人間には、子供に懸想する危ない聖騎士と認識される「アイラールの愚息」が出来上がってしまった。
この魔法は認識を阻害するもので、一度でも元の姿を見てしまうと次は中々掛かりにくくなるという欠陥がある。
「精神魔法はシビアな魔法で、魔力量の多い者や、魔法の力が高い者には、掛かりにくくなるという欠点があります。」
だから、ダミアンが聖騎士としてちゃんと鍛錬していたならば、いつかは真相に気づいていただろう。
「それに、貴女もそれには少し加担していましたよね?」
デリクは最初にダミアンに会った時、誰かの魔法の痕跡を、彼の体に纏わりつく洗脳魔法の痕跡を見ている。
それには微量の誰かの魔法と共に強く意志を感じさせるものが二重にかけられていた。
「イザベラのことを悪くいう彼が嫌いで、でも婚約者だから……イザベラを自由にしてあげたかったんです。悪意はありませんが、多分そういうことじゃないんですよね。」
「精神系の魔法は、その性質から使う範囲が厳しく限定されている。例えば強いトラウマで自傷行為が止まらない人や、精神を病んでいる人など、治療行為の範囲でも使用を躊躇う強い魔法なんだ。
だから、意図的に何度も乱発したエドワードは勿論、厳しく裁かれる。貴女も悪気はないからと言って、罪が軽くなることは、……許されない。」
デリクの調査により、それらは王家と敵対するある勢力が仕組んだことになったが、実際には王家の関与もあったのである。
わかりやすい敵を発見し、彼らの罪を暴いたところでトカゲの尻尾切りが生じる。デリクは王家に連なる一族の関与を言い当て、それが全てだと思い込んでいた。
デリクが手を離した後で、それを引き継いだ者達がしたことといえば。彼が見落とした真の悪人達の為に証拠を改竄し、真相は闇に葬ること。一部の被害者達を悪人に仕立て上げて。
彼らが施設内で行ったことは、魔法による魔力の剥奪を行える者を作ること。度重なる戦により、孤児が増えたことをこれ幸いと利用し、彼らを実験体にした。
魔力量が少なく、魔法が使えないユラーデンが考えそうなこと。無いなら奪ってしまえば良い。
そこに、「アイラールの愚息」エドワードの精神魔法が合わさって、都合の悪いことには全て記憶を消してしまう、と言う大雑把でどうしようもない悪事が横行してしまった。
エドワードの目的は、自分の精神魔法で国を支配すること。それには王太子と王女が邪魔だった。
「彼の魔力ではただの絵空事だと断言できるが、彼は気づいたんだ。王女の治癒魔法が貴女の身体を通した後、国全体を覆うほどの規模に膨れ上がったことに。
彼はそこから、貴女の可能性に賭けることにした。」
ユラーデンはユラーデンで、こちらに目をつけていた。同盟を謳ってはいるが、実は見下していた国。王太子、王女ともにまだ若く、魔法を扱える能力は世界中を探してもトップクラス。力さえ奪えば、うちが優位に立てるのに、と。
王太子は人が良く、魔法に関することなら敵なしだが、そうでなければ恐れるに足りず、実際あっさりと罠に嵌まった。彼が身につけていた精神魔法から逃れる道具を回収出来なかったのは痛かったが、聖女と言う名目で、作った実験体を送ることが出来た。
ユラーデンにとっては幸運なことに、聖女はそこで様々な魔法を覚えていった。神殿の内部は、エドワードに与した勢力が幅を利かせている為に毎日呪詛のように聖女に言い聞かせて、王家を簒奪する力を手に入れようとした。
エドワードは自身と同じ二つ名をつけられた甥を利用しようとした。あわよくば彼を使って王女を籠絡しようとしたが、それは早々に諦めた。
王女の行った政策や粛正をただの我儘だと捉える男に、そんな高度な駆け引きは無理だ。考えうる方法といえば実にわかりやすく愚かな方法だった。
聖女の姿を誤認させたのである。本来の聖女はまだ幼く、子供といっても差し支えない十三歳。施設から出たのが僅か五歳でそれからの処遇を考えれば、年齢より小柄な彼女はどう見たって少女だったが、甥のダミアンには適齢期の女性に見えるようにしたのだ。元々、王女に少なからず淡い恋心を抱いていたダミアンは拒絶され、傷ついていた為に、その隙につけ込んで彼の理想の女性像を聖女に投影したのである。
とはいえ、このような魔法は、魔力が高い人物にはまるで効かない。その為、一部の人間には、子供に懸想する危ない聖騎士と認識される「アイラールの愚息」が出来上がってしまった。
この魔法は認識を阻害するもので、一度でも元の姿を見てしまうと次は中々掛かりにくくなるという欠陥がある。
「精神魔法はシビアな魔法で、魔力量の多い者や、魔法の力が高い者には、掛かりにくくなるという欠点があります。」
だから、ダミアンが聖騎士としてちゃんと鍛錬していたならば、いつかは真相に気づいていただろう。
「それに、貴女もそれには少し加担していましたよね?」
デリクは最初にダミアンに会った時、誰かの魔法の痕跡を、彼の体に纏わりつく洗脳魔法の痕跡を見ている。
それには微量の誰かの魔法と共に強く意志を感じさせるものが二重にかけられていた。
「イザベラのことを悪くいう彼が嫌いで、でも婚約者だから……イザベラを自由にしてあげたかったんです。悪意はありませんが、多分そういうことじゃないんですよね。」
「精神系の魔法は、その性質から使う範囲が厳しく限定されている。例えば強いトラウマで自傷行為が止まらない人や、精神を病んでいる人など、治療行為の範囲でも使用を躊躇う強い魔法なんだ。
だから、意図的に何度も乱発したエドワードは勿論、厳しく裁かれる。貴女も悪気はないからと言って、罪が軽くなることは、……許されない。」
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