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仕掛け罠
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「デリク・ヒューストン」その名は、ビアンカが元いた国では、とても有名だ。特に王宮内では毎日声高らかに、王族達が愚か者の意味で使用していた。
彼を見た瞬間、そんなことを思い出したビアンカは、無意識で、イザベラとの約束を破り、力を使って、彼を拘束した。
焦ったのは、ガーランドだけ。リカルドは落ち着いていた。どころか、ビアンカの援護をするかのように、魔法を被せて来たのだ。
彼の魔法は、優しかった。イザベラと似たとても温かい魔力に、何故かずっと昔から知っているような懐かしさを感じて、ビアンカは彼に全てを委ねそうになる。だが、頭の中にいるイザベラに、「ダメ」と言われた気がして、行使を躊躇ったビアンカに、彼は憐れむような蔑んだような目を向けた。
「やはり、紛い物では難しいか。」と。
その声に、ビアンカは震えを抑えきれない。昔、これと同じ声を聞いたことがある。
あれは、王宮ではない。侍女やあのロクデナシばかりの王族からではない。施設にいた家族からでもない。施設の人間ではない。
あれは?
考えるまでもない、聖女の力の暴走は、目の前の男によって仕掛けられたものだ。何故?何の為に?
混乱したビアンカはそれでも、ガーランドがすぐさま男を拘束したことに安堵して、体の緊張を解いた。
「トビアス、そのままだ。」
そう言ったのは、デリク・ヒューストンの側にいた長身の男で、よく見ると彼はリカルドと同じような声をしていた。
「驚きましたよ。彼と共にいらっしゃるなら教えてくださいよ。」
「いやまあ、突然決まったことだから。」
ガーランド卿の聞いたこともない声に悪びれる様子もなくからからと笑っている男。ビアンカの表情を見てとると、フッと笑って、自身の名を名乗る。
「申し訳ない。挨拶がまだでしたね。私はリカルド・ザイールと申します。先程のは私の偽物で、本名は、エドワード・アイラール。ダミアンの叔父に当たる一代目の「アイラール公爵家の愚息」だね。ダミアンは二代目になるんだ。不名誉な二つ名だが、その通りだから仕方ない。彼らは神聖力も魔力も持たないながら、愚かにも神殿を利用して王家を簒奪しようと目論んでいたんだよ。君のいた国ユラーデンと結託してね。」
話を聞いているビアンカの側で、デリク・ヒューストンが膝をついた。
「まずは一つ謝らせて欲しい。私は昔ある事件を担当した。中途半端に関わって、解決したからと、さっさと手を引いてしまい、最後まで結末を確認しなかった。そのせいで、弱き者を助けた筈が、より酷い状況に被害者を追いやってしまった。特に王宮内で保護されると聞いていた貴女には大変な思いをさせてしまった。謝って済む問題ではないが、謝りたい。申し訳なかった。」
デリクをそのままに、本物のリカルドが補足をする。
「貴女の侍女だったアリー嬢がね、色々私に教えてくれていたんだ。前にある人から青い魔石を貰っただろう?あれはね、魔法を使われて、理不尽なことに巻き込まれるのを防ぐためのものなんだ。あれが、君を暴走させようとした彼らの悪意から君を守ったんだよ。」
「イザベラはずっと調べていたんだ。誰もが幸せになる方法を。当初は、デリクのやらかしを責めてこいつを人柱にするつもりだったようだが。それだと、アイラール家は滅びない。だから、敢えて情報を流して、イザベラを国から出して油断させ、一網打尽にすることにしたんだ。デリクが来たのは意趣返しみたいなものだ。自分の罪をどうにか自覚しろ、とね。」
「まさか最初から名指しだったとは。知らない内に驕っていたんでしょうね。若きエースだとかチヤホヤされて。」
自嘲した笑いを浮かべるも、誰も否定はしてくれない。デリクは諦めて再度ビアンカに向き直った。
彼を見た瞬間、そんなことを思い出したビアンカは、無意識で、イザベラとの約束を破り、力を使って、彼を拘束した。
焦ったのは、ガーランドだけ。リカルドは落ち着いていた。どころか、ビアンカの援護をするかのように、魔法を被せて来たのだ。
彼の魔法は、優しかった。イザベラと似たとても温かい魔力に、何故かずっと昔から知っているような懐かしさを感じて、ビアンカは彼に全てを委ねそうになる。だが、頭の中にいるイザベラに、「ダメ」と言われた気がして、行使を躊躇ったビアンカに、彼は憐れむような蔑んだような目を向けた。
「やはり、紛い物では難しいか。」と。
その声に、ビアンカは震えを抑えきれない。昔、これと同じ声を聞いたことがある。
あれは、王宮ではない。侍女やあのロクデナシばかりの王族からではない。施設にいた家族からでもない。施設の人間ではない。
あれは?
考えるまでもない、聖女の力の暴走は、目の前の男によって仕掛けられたものだ。何故?何の為に?
混乱したビアンカはそれでも、ガーランドがすぐさま男を拘束したことに安堵して、体の緊張を解いた。
「トビアス、そのままだ。」
そう言ったのは、デリク・ヒューストンの側にいた長身の男で、よく見ると彼はリカルドと同じような声をしていた。
「驚きましたよ。彼と共にいらっしゃるなら教えてくださいよ。」
「いやまあ、突然決まったことだから。」
ガーランド卿の聞いたこともない声に悪びれる様子もなくからからと笑っている男。ビアンカの表情を見てとると、フッと笑って、自身の名を名乗る。
「申し訳ない。挨拶がまだでしたね。私はリカルド・ザイールと申します。先程のは私の偽物で、本名は、エドワード・アイラール。ダミアンの叔父に当たる一代目の「アイラール公爵家の愚息」だね。ダミアンは二代目になるんだ。不名誉な二つ名だが、その通りだから仕方ない。彼らは神聖力も魔力も持たないながら、愚かにも神殿を利用して王家を簒奪しようと目論んでいたんだよ。君のいた国ユラーデンと結託してね。」
話を聞いているビアンカの側で、デリク・ヒューストンが膝をついた。
「まずは一つ謝らせて欲しい。私は昔ある事件を担当した。中途半端に関わって、解決したからと、さっさと手を引いてしまい、最後まで結末を確認しなかった。そのせいで、弱き者を助けた筈が、より酷い状況に被害者を追いやってしまった。特に王宮内で保護されると聞いていた貴女には大変な思いをさせてしまった。謝って済む問題ではないが、謝りたい。申し訳なかった。」
デリクをそのままに、本物のリカルドが補足をする。
「貴女の侍女だったアリー嬢がね、色々私に教えてくれていたんだ。前にある人から青い魔石を貰っただろう?あれはね、魔法を使われて、理不尽なことに巻き込まれるのを防ぐためのものなんだ。あれが、君を暴走させようとした彼らの悪意から君を守ったんだよ。」
「イザベラはずっと調べていたんだ。誰もが幸せになる方法を。当初は、デリクのやらかしを責めてこいつを人柱にするつもりだったようだが。それだと、アイラール家は滅びない。だから、敢えて情報を流して、イザベラを国から出して油断させ、一網打尽にすることにしたんだ。デリクが来たのは意趣返しみたいなものだ。自分の罪をどうにか自覚しろ、とね。」
「まさか最初から名指しだったとは。知らない内に驕っていたんでしょうね。若きエースだとかチヤホヤされて。」
自嘲した笑いを浮かべるも、誰も否定はしてくれない。デリクは諦めて再度ビアンカに向き直った。
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