1 / 14
逃亡の助け
しおりを挟む
「クララ、いよいよだわ。いよいよ。もう少しで私達、自由になれるのよ。」
レニエ公爵家の庭園で、二人の令嬢が優雅にお茶を飲んでいる。話の内容は物騒なものだったが、それを聞いている者や、ましてやそれを咎める者などいない。
クララは親友の言葉に、彼女の本気度を理解した。
少し前から囁かれ始めた、彼女と婚約者である王太子殿下の不仲には、殿下が最近お気に入りの男爵令嬢が関わっている。
正直不仲は最初からだが、わざわざ第三者である男爵令嬢を挟むには、噂を流した者にとって、何らかの思惑があるのだろう。
「クララ、私に力を貸してくれて、ありがとう。貴女がいなければ、私はこの国に使い潰されていたわ。貴族の娘の義務ばかり考えて、我慢して我慢して、私が私でなくなっていた。私に多くの可能性を見せてくれてありがとう。貴女に会えて良かったわ。」
クララは出会った頃の彼女の疲れた表情を思い出す。次期王妃として注目を集めていた彼女は、あまりの周りの無能さに心が荒んでしまっていた。
クララは伯爵令嬢とされているが、この国の貴族ではない。叔母が嫁いだ国に留学してきただけで、卒業後は、祖国へ戻る。
クララは、優秀な彼女の可能性を、わかりやすく伝えただけだ。決意したのも、行動を起こしたのも彼女だ。
彼女の能力があれば、この国を離れても充分生きていける。だからこそ、この国の王家に目をつけられ、搾取されて来た。
留学して初めて気がついた。この国に未来はない。クララばかりでなく、留学生は総じて同じ印象を受けるようだ。
まず、王族があまりにも無能だ。何も考えていないだけではなく、考えるのは自分の仕事ではないとさえ、信じている。ここ数年の王家による政策は、全てアレクサンドラ・レニエが発案し、進めたものだ。国王や王妃、王子は仕事をせずに毎日遊んでいて、顔色の悪い王子の婚約者が忙しく駆け回る。
クララは、彼女に、新しい世界を見せてあげた。何より、クララの尊敬する異母兄が、アレクサンドラを気に入ったので、どうにか策を講じたのだった。
とはいえ、男爵令嬢はクララの仕込みではない。あんなに頭の悪い女性は駒になり得ない。あの頭の悪さは害悪にしかならない。
留学が終わったら、すぐに国を出るから男爵令嬢がどちらを選ぶのか、確かめることは叶わないだろう。
誰よりも身を粉にして働いていた彼女を失ったこの国がどうなろうと、知ったことではない。
クララは、近日中に出国できるように、面倒なことを一気に片付けることにし、その場を後にした。
訪れた先には、先客がいた。クララもよく知る男だ。
「褒美はいつ頃いただけるのでしょうか。」
「全てが終わったら。私が出国して、彼女の安全が確保できたならすぐにでも。」
クララが協力を頼んだのは、頭の悪い男爵令嬢ではなく、その婚約者の男爵令息だ。無論、彼に婚約者に対する情はない。
クララは彼を祖国に連れ帰りたい。彼の商才は大したものだ。
「彼女はやはり私の顔すら覚えていなかったようです。弟が相手でもどうにかなりました。
寧ろ、地味な自分より弟の方がタイプではあったのでしょう。未だにどちらと結婚するか悩んでいる、というのですから。」
クララは彼の言う地味が、何を指しているのかわからない。彼は最初から大層美しい顔を隠して生活していたに過ぎないのだから。
「弟さんにも、褒美は必要かしら。」
「いえ、あいつには、既に王家から褒美は頂いていますので、必要ありませんよ。」
「なら、すぐにでも出られるの?」
「ええ、大丈夫です。今からでも出られますか。」
その日を境に、男爵令息と伯爵令嬢は姿を消した。しかし、そのことに気がついた者は誰もいなかった。
レニエ公爵家の庭園で、二人の令嬢が優雅にお茶を飲んでいる。話の内容は物騒なものだったが、それを聞いている者や、ましてやそれを咎める者などいない。
クララは親友の言葉に、彼女の本気度を理解した。
少し前から囁かれ始めた、彼女と婚約者である王太子殿下の不仲には、殿下が最近お気に入りの男爵令嬢が関わっている。
正直不仲は最初からだが、わざわざ第三者である男爵令嬢を挟むには、噂を流した者にとって、何らかの思惑があるのだろう。
「クララ、私に力を貸してくれて、ありがとう。貴女がいなければ、私はこの国に使い潰されていたわ。貴族の娘の義務ばかり考えて、我慢して我慢して、私が私でなくなっていた。私に多くの可能性を見せてくれてありがとう。貴女に会えて良かったわ。」
クララは出会った頃の彼女の疲れた表情を思い出す。次期王妃として注目を集めていた彼女は、あまりの周りの無能さに心が荒んでしまっていた。
クララは伯爵令嬢とされているが、この国の貴族ではない。叔母が嫁いだ国に留学してきただけで、卒業後は、祖国へ戻る。
クララは、優秀な彼女の可能性を、わかりやすく伝えただけだ。決意したのも、行動を起こしたのも彼女だ。
彼女の能力があれば、この国を離れても充分生きていける。だからこそ、この国の王家に目をつけられ、搾取されて来た。
留学して初めて気がついた。この国に未来はない。クララばかりでなく、留学生は総じて同じ印象を受けるようだ。
まず、王族があまりにも無能だ。何も考えていないだけではなく、考えるのは自分の仕事ではないとさえ、信じている。ここ数年の王家による政策は、全てアレクサンドラ・レニエが発案し、進めたものだ。国王や王妃、王子は仕事をせずに毎日遊んでいて、顔色の悪い王子の婚約者が忙しく駆け回る。
クララは、彼女に、新しい世界を見せてあげた。何より、クララの尊敬する異母兄が、アレクサンドラを気に入ったので、どうにか策を講じたのだった。
とはいえ、男爵令嬢はクララの仕込みではない。あんなに頭の悪い女性は駒になり得ない。あの頭の悪さは害悪にしかならない。
留学が終わったら、すぐに国を出るから男爵令嬢がどちらを選ぶのか、確かめることは叶わないだろう。
誰よりも身を粉にして働いていた彼女を失ったこの国がどうなろうと、知ったことではない。
クララは、近日中に出国できるように、面倒なことを一気に片付けることにし、その場を後にした。
訪れた先には、先客がいた。クララもよく知る男だ。
「褒美はいつ頃いただけるのでしょうか。」
「全てが終わったら。私が出国して、彼女の安全が確保できたならすぐにでも。」
クララが協力を頼んだのは、頭の悪い男爵令嬢ではなく、その婚約者の男爵令息だ。無論、彼に婚約者に対する情はない。
クララは彼を祖国に連れ帰りたい。彼の商才は大したものだ。
「彼女はやはり私の顔すら覚えていなかったようです。弟が相手でもどうにかなりました。
寧ろ、地味な自分より弟の方がタイプではあったのでしょう。未だにどちらと結婚するか悩んでいる、というのですから。」
クララは彼の言う地味が、何を指しているのかわからない。彼は最初から大層美しい顔を隠して生活していたに過ぎないのだから。
「弟さんにも、褒美は必要かしら。」
「いえ、あいつには、既に王家から褒美は頂いていますので、必要ありませんよ。」
「なら、すぐにでも出られるの?」
「ええ、大丈夫です。今からでも出られますか。」
その日を境に、男爵令息と伯爵令嬢は姿を消した。しかし、そのことに気がついた者は誰もいなかった。
54
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』
鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」
王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。
感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、
彼女はただ――王宮を去った。
しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。
外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、
かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。
一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。
帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、
彼女は再び“判断する側”として歩み始める。
やがて明らかになるのは、
王国が失ったのは「婚約者」ではなく、
判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。
謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。
それでも――
選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。
これは、
捨てられた令嬢が声を荒げることなく、
世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。
(完結)(続編)カトレーネ・トマス前々公爵夫人の事件簿その2ーアナスタシヤ伯爵家の姉妹の場合ー婚約破棄を目論む妹
青空一夏
恋愛
アナスタシヤ伯爵家の姉妹は、お互いが、お互いのものをとても欲しがる。まだ、それが、物だったから良かったものの・・・今度はお互いの婚約者をうらやましがるようになって・・・妹は姉に嫉妬し、姉の婚約者を誘惑しようとするが、なかなか、うまくいかず、自分の婚約者と協力して姉を脅し、婚約破棄させようとする。
道を誤った人間に、正しい道を気がつかせるヒューマンドラマ的物語。いろいろな人生が見られます。
ざまぁ、というよりは、迷える子羊を正しい道に導くという感じかもしれません。
運営に問い合わせ済み・・・続編を投稿するにあたっては、内容が独立していれば問題ないとの許可済み。
#カトレーネ・トマス前々公爵夫人シリーズ
さて、今回は、どんな解決へと導くのでしょうか?
10話ほどの予定です。
【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。
まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。
私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。
お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。
けれど、彼に言われましたの。
「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」
そうですか。男に二言はありませんね?
読んでいただけたら嬉しいです。
病弱な従妹を理由に婚約者がデートをドタキャンするので、全力で治療に協力します!
灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
ピルチャー伯爵令嬢カトレアは、アンダーソン伯爵令息リードと二ヶ月前に婚約したばかり。
今日は五回目のデートだが、リードは同居している彼の従妹ミミーの具合が悪いから延期してくれという。
五回のデートで、ドタキャンは五回目。
しかし、カトレアは抗議もせずに心底心配してリードにこう提案した。
「わたくしが全力でミミー様のお身体を治してさしあげますわ!」
だってカトレアは、聖女クラスの治癒魔法術師なのだから!
※10話で終わる予定です。
※タイトル変更しました。
「お前を愛することはない」と言った夫がざまぁされて、イケメンの弟君に変わっていました!?
kieiku
恋愛
「お前を愛することはない。私が愛するのはただひとり、あの女神のようなルシャータだけだ。たとえお前がどんな汚らわしい手段を取ろうと、この私の心も体も、」
「そこまでです、兄上」
「なっ!?」
初夜の場だったはずですが、なんだか演劇のようなことが始まってしまいました。私、いつ演劇場に来たのでしょうか。
契約婚しますか?
翔王(とわ)
恋愛
クリスタ侯爵家の長女ミリアーヌの幼なじみで婚約者でもある彼、サイファ伯爵家の次男エドランには愛してる人がいるらしく彼女と結ばれて暮らしたいらしい。
ならば婿に来るか子爵だけど貰うか考えて頂こうじゃないか。
どちらを選んでも援助等はしませんけどね。
こっちも好きにさせて頂きます。
初投稿ですので読みにくいかもしれませんが、お手柔らかにお願いします(>人<;)
【完結】さっさと婚約破棄してくださいませんか?
凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢のシュレア・セルエリットは、7歳の時にガーナス王国の第2王子、ザーディヌ・フィー・ガーナスの婚約者となった。
はじめは嬉しかったが、成長するにつれてザーディヌが最低王子だったと気付く──
婚約破棄したいシュレアの、奮闘物語。
あなたは一体誰ですか?
らがまふぃん
恋愛
その帝国には四人の皇子と二人の皇女がいる。一番末の第四皇子カダージュは、怠惰、陰気、愚かなど、侮蔑の言葉を向けられる皇子として知られていた。皇族からも見放され、成人後は皇位継承権を返上させられ、通常であれば返上した者が就く大公の位まで下げられようとしている。そんな噂が流れるほど、カダージュの評価は低い。そんなカダージュの婚約者であるメリオラーザに、第一皇子の生誕祭で――。 本編全12話プラス番外編です。 ※ご都合主義ですので、何でも笑って読んでいただける方向けのお話しです。 R5.12/24HOTランキング入りしておりました。たくさんのお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます(泣)読んでくださったみなさまに心から感謝を!素敵なクリスマスプレゼントを、ありがとうございました!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.10/30に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる