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仮の姿
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祖国に帰れば、クララは伯爵令嬢ではなくなる。留学生としての仮の姿を解くと、男爵令息の目が眩しいものを見ているかのように細められる。
「金髪など、見慣れているでしょうに。」
クララがそう言えば、漸くここがどこかを思い出したかのように、彼は動き出す。
「いや、私の知っている金髪と貴女はまるで違うものです。分類を同じくするのも厚かましい。所謂作り物と純正品は違いますから。」
あの男爵令嬢も、元の髪色は焦げ茶に近い色をしていた。コンプレックスでもあったのか、わざわざ髪色を染めていたようだけれど。
祖国では普通の金髪も、彼の国では目立って仕方がないので、留学中はよくある髪色に擬態していた。
国が変われば常識も変わる。生まれ持ったものを変える行為は、祖国ではよくないことと判断される。
クララはこれから自分を偽ることはできない。
「仮の姿は楽だったのだけれど。」
人目を憚らずに行動できるのは、クララにとって経験したことのない素晴らしい生活だったのだが。
「それで?貴方はいつまで仮の姿で居続けるつもり?」
男爵令息は少し驚いた顔を浮かべつつも、余裕のある様子で笑っている。
「流石です、といえば良いのか……私、この姿は見破られないと慢心していたのですが。」
「さっきまでは、気がついていなかったわ。貴方の瞳の色が、珍しい紫色だったから、思い至っただけよ。なんて言ったって、隣国だしね。」
「隣国とは言っても、もうほぼ原型をとどめていない小さな集落みたいな物ですよ、あの国は。
貴女が図書館に入り浸っているのは知っていましたが、なんと。」
「隠したいことなら、カマをかけられたぐらいで、認めちゃ駄目よ。」
余裕の笑みなどどこへやら。顔を掌で覆うと、途端に動かなくなる。
決心がついたのか、顔を上げると、さっきまで垢抜けない男爵令息だった人は、仮の姿ではない、真の素顔をクララに見せた。
「やっぱり綺麗な顔してるわ。」
彼の弟とは似ても似つかない。国を追われ、命を狙われ身を隠していた一国の王子は、ある国で貴族の末端として生き延びていた。
「それで、貴方はユリウス?もしくは、」
「エリアス・ルド・カイン。公国の第二王子だ。」
クララは百八十度態度の変わった彼を不思議には思わない。鬱陶しい前髪をかきあげるのが、仮の姿から真の姿に戻るスイッチなのか、彼は目を見せると共に話し方までさっきとは別人になっている。
クララとて、大人しく伯爵令嬢を演じていた時と今ではまるっきり人が違う。アレクサンドラは、彼女が真の姿を見せた時、あまりの違いに驚いて言葉を無くしていたぐらいだ。
学者肌の風変わりの側妃から生まれた第二王子、エリアスは、その昔クララの婚約者だった。
彼の国が実質上なくなり、王家の存続が危ぶまれた時から、会っていない幻の婚約者。
クララは初めて会う婚約者の姿を目に焼き付ける。
「実はまだあの婚約はそのままになっている。」
「貴方の生死が不明だから、きっと婚約は無くなるだろう、って言われてたわ。」
「ああ。だが、そうはならなかったらしい。どうしてそうなったか、ご褒美と一緒に聞かせてもらいたいが、どうだ?」
「そうね、じゃあ報告がてら、城に寄りましょうか。……とても面倒だけど、兄に会わなくちゃいけないし。」
姿を表してから遠慮のなくなった男と、取り繕わなくなった自分とでは似たもの同士かもしれない。
クララは楽しいことばかりだと思っていた祖国への帰路がとてつもなく面倒なものになりかわったような感覚に陥っていた。
「金髪など、見慣れているでしょうに。」
クララがそう言えば、漸くここがどこかを思い出したかのように、彼は動き出す。
「いや、私の知っている金髪と貴女はまるで違うものです。分類を同じくするのも厚かましい。所謂作り物と純正品は違いますから。」
あの男爵令嬢も、元の髪色は焦げ茶に近い色をしていた。コンプレックスでもあったのか、わざわざ髪色を染めていたようだけれど。
祖国では普通の金髪も、彼の国では目立って仕方がないので、留学中はよくある髪色に擬態していた。
国が変われば常識も変わる。生まれ持ったものを変える行為は、祖国ではよくないことと判断される。
クララはこれから自分を偽ることはできない。
「仮の姿は楽だったのだけれど。」
人目を憚らずに行動できるのは、クララにとって経験したことのない素晴らしい生活だったのだが。
「それで?貴方はいつまで仮の姿で居続けるつもり?」
男爵令息は少し驚いた顔を浮かべつつも、余裕のある様子で笑っている。
「流石です、といえば良いのか……私、この姿は見破られないと慢心していたのですが。」
「さっきまでは、気がついていなかったわ。貴方の瞳の色が、珍しい紫色だったから、思い至っただけよ。なんて言ったって、隣国だしね。」
「隣国とは言っても、もうほぼ原型をとどめていない小さな集落みたいな物ですよ、あの国は。
貴女が図書館に入り浸っているのは知っていましたが、なんと。」
「隠したいことなら、カマをかけられたぐらいで、認めちゃ駄目よ。」
余裕の笑みなどどこへやら。顔を掌で覆うと、途端に動かなくなる。
決心がついたのか、顔を上げると、さっきまで垢抜けない男爵令息だった人は、仮の姿ではない、真の素顔をクララに見せた。
「やっぱり綺麗な顔してるわ。」
彼の弟とは似ても似つかない。国を追われ、命を狙われ身を隠していた一国の王子は、ある国で貴族の末端として生き延びていた。
「それで、貴方はユリウス?もしくは、」
「エリアス・ルド・カイン。公国の第二王子だ。」
クララは百八十度態度の変わった彼を不思議には思わない。鬱陶しい前髪をかきあげるのが、仮の姿から真の姿に戻るスイッチなのか、彼は目を見せると共に話し方までさっきとは別人になっている。
クララとて、大人しく伯爵令嬢を演じていた時と今ではまるっきり人が違う。アレクサンドラは、彼女が真の姿を見せた時、あまりの違いに驚いて言葉を無くしていたぐらいだ。
学者肌の風変わりの側妃から生まれた第二王子、エリアスは、その昔クララの婚約者だった。
彼の国が実質上なくなり、王家の存続が危ぶまれた時から、会っていない幻の婚約者。
クララは初めて会う婚約者の姿を目に焼き付ける。
「実はまだあの婚約はそのままになっている。」
「貴方の生死が不明だから、きっと婚約は無くなるだろう、って言われてたわ。」
「ああ。だが、そうはならなかったらしい。どうしてそうなったか、ご褒美と一緒に聞かせてもらいたいが、どうだ?」
「そうね、じゃあ報告がてら、城に寄りましょうか。……とても面倒だけど、兄に会わなくちゃいけないし。」
姿を表してから遠慮のなくなった男と、取り繕わなくなった自分とでは似たもの同士かもしれない。
クララは楽しいことばかりだと思っていた祖国への帰路がとてつもなく面倒なものになりかわったような感覚に陥っていた。
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