だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう

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わたくし、波乱を見届けますわ

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 夕刻、大勢の方々が大広間にいらっしゃいました。わたくしはぼんやりと、ユーシス様のお誕生日に開かれたパーティのことを思い出していました。
 わたくしが断罪されお城から追放されたことを、今では懐かしく思います。

 アリエッタ様が動いたのは、ユーシス様が同伴していたご令嬢に顔を近づけ、親密な恋人然と、何かを囁き合った瞬間でした。堪忍袋の緒が切れた、ということなのでしょう。
 天井にまで響き渡るほどのどすの効いた大声で、アリエッタ様は叫びました。

「ユーシス様! わたくし、今日という今日はあなたを許しませんわ! わたくしという者がありながら、また別の女性に子供を産ませるおつもりですか!」

 音楽隊は驚き曲を奏でるのを止め、踊っていた皆様も、驚いて足を止めました。
 わたくしの側にいたお兄様が、疑惑の目をこちらに向けたのが分かりました。

「お前、また何か余計なことをしたんじゃないだろうな」

 すぐに妹のことを疑うお兄様です。わたくしは口元に人差し指を持っていって、黙れのポーズを返しました。

 アリエッタ様はユーシス様の元へとつかつか歩み寄ると、言いました。

「ユーシス様、このことについてご説明願います!」

 彼女の手には、わたくしが授けた手帳がございます。ユーシス様のお金が流れた先の家の名が書かれたページを広げておられました。
 国王陛下も王妃様も、突然のことに目を丸くして、驚愕のままアリエッタ様を見つめておいでです。
 招待客たちが好奇心を隠せずに、目の前で繰り広げられている寸劇の成り行きを見守っております。

「な、なんだそんな家! 私は知らないぞ!」

 ユーシス様が大量の汗をかきながらそう言いましたが、アリエッタ様は逃しません。

「親切な友人がわたくしにこの手帳をくださいました。そうして半日で、調べられるところまで調べましたわ。ユーシス様、あなたはこの家の娘たちと恋仲になり、そうして子供が産まれているでしょう! ですからこの家に口止めのため、莫大な年金を送金しているのでしょう!」

 それはまさしく、わたくしが突き止めた事実と相違ないものでした。ユーシス様は女性たちと浮名を流し、そのうちの数人を妊娠させておりました。ですが何よりも清廉を愛する両陛下にそれがバレてしまってはならないと、送金をし続けることで隠そうとしていたのでした。
 いつか何かあったときに使おうと大切に取っておいたユーシス様の弱味でございました。

 会場は束の間静まり返りました。
 しかしやがて、ざわめきがさざ波の如く広がりました。

「次期王の子となれば、私生児が王になる可能性もあるのか?」

「金銭を渡していたのなら、認知していたも同然だ」

「王子の子を産んだ家はいずれ王位を主張するぞ。正当な子よりも前に生まれているのだから」

 会場の盛り上がりは最高潮に達しました。皆、言葉にしないまでも、この断罪を愉快に思っているのです。建国祭のパーティなんかよりも、遥かに娯楽の高いものでしたから。

「なんということなの――!」

 王妃様が悲鳴を上げ、その場に倒れ込むのを、慌てて国王陛下と護衛たちが受け止めます。ご自分のご子息のやんちゃを、今の今まで知らなかったということでしょう。

「どういうことだユーシス!」国王陛下がユーシス様に詰め寄りました。

「わ、私は知りません! なにかの間違いだ!」

 冷や汗まみれのユーシス様がいくら弁明をしたところで、事実だと認めているようなものです。
 陛下の怒りは、その横にいた宮廷魔法使いのハリー・ホール様にも向かわれました。

「ハリー・ホール! そなたには金遣いの荒いユーシスの金庫番を命じていただろう! 一体どいうことなのだ! 知っていたのか!」

「い、いいえまさか! 私もたった今知りました!」

 その言葉に怒ったのはユーシス様自身でございました。腹心のホール様の胸ぐらを掴むと激しく揺さぶります。

「何を言う! 貴様が金を払えと言い出したのだろう!」

「し、しかしあれらの家をどうにか黙らせろとユーシス様が命じたのではないですか!」

「なんだと、貴様にも娘を数人くれてやったではないか!」

 二人の男性は顔を真赤にして言い合います。

 ひどい騒ぎでありました。
 困惑極まった表情でレティシアがやってきて、そっとわたくしに囁きます。

「ねえ、何がどうなってるの? メイベルは知っていたの? なぜこんなことになっているの?」

「さあ、さっぱり……」

 わたくしは当然知っていたことではありましたが、首をひねって知らないふりに徹しました。
 けれどもあまりに騒がしく、誰もが興奮し収集が着かなくなりそうでありましたので、長い時間がかかってしまったら、ウィルに会うのが遅くなると思い、思わず考えていた結論を言ってしまいました。

「次期王の私生児の相続権が問題ならば、もうお一人が王になればよろしいのでは?」

 誰かがさっさとこの結論に達していれば、わたくしの出番もございませんでしたのに。

 それほど大きな声を出した覚えはなかったのですけれど、わたくしの放った言葉は思いの外、広間に響き渡りました。
 皆が黙り、突然口を挟んだわたくしを見つめております。意を決してわたくしは言いました。

「両陛下がユーシス様のご教育に失敗されたのは残念ですが――」

 慌てた様子のお兄様が、わたくしの口をふさぐように手で覆ってきました。

「も、申し訳ありません。妹は頭が少しアレでして――! 思ってもないことを時折口走ってしまうのです!」

 けれども手を振り払い続けます。

「ですが両陛下には、素晴らしい王女様がいらっしゃるではありませんか。強く賢く清らかで、人を率いるのにこれ以上ない相応しい方が」

 そうしてわたくしはその少女に目をやりました。
 広間の隅で、成り行きを興味深げに見つめていたセレナ様は、ご自分が呼ばれたことに気が付ついたようです。

 賢そうな瞳でわたくしを一度見つめ返した後、ほんの小さく、大人びた笑みを見せました。
 手を真っ直ぐ上に掲げて、涼しげな、凛とした声で言ったのです。

「お父様、お母様。そうしてご会場にお集まりの皆様。どうかご安心くださいまし。この国にはもう一人、王の子供がおりますわ!
 わたくしが王になります! それはそれは良き王になります! 配偶者ももう決めております! ジャスティン・インターレイク様です!」

 などと言うものですから、青ざめたお兄様は遂にその場に卒倒しました。
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