33 / 37
わたくし、最後の仕掛けをいたしますわ
叔父様の栄華はあっけなく終了し、伯爵位は近く正式にジャスティンお兄様のものになることになりました。
当然、ウィルは無罪放免です。キースさんとマーガレットさんはとても喜んで、兄との再会を果たしました。わたくしとウィルの仲は誰しもが知ることとなり、皆の公認となりました。
さあ、これで、一件落着――というわけではありませんでした。
そうなのです。まだ解決しなくてはならないことがありました。わたくしの企みは、もう一つあったのですから。
その日は建国祭の当日でありました。昼には式典が、夕方からは親睦のためのパーティがございます。
ウィルとの暮らしを改めて始める前に、わたくしはお城の一室を訪ねました。いらっしゃったのはアリエッタ様です。
窓際に設置された一人がけの椅子に、ぼんやりと座っておられました。わたくしが入ると、けだるげな視線を一度だけこちらに向け、大きなため息を吐かれました。
「メイベル、あなたは随分と上手くやったのね」
お側に立ち、スカートの端を持ち上げて一礼してから、微笑み返しました。
「ええ、わたくし、欲しいものは何が何でも手に入れたくなってしまう質なんですもの」
わたくしの笑みにも、彼女の表情は優れません。わたくしがウィル相手にいざこざやっている間にも、アリエッタ様とユーシス様の間の溝は埋まっていないようでした。
「それで、なんの用なの? 夫と暮らして、ただの一般人になるあなたが、このわたくしに一体、なに?」
不機嫌そうなアリエッタ様に向かい、わたくしはそれを差し出しました。革表紙の、それは手帳でございました。
「なんなの?」
不審そうにしつつも、彼女は興味を引かれたようです。
「わたくし、伊達に何年もユーシス様の婚約者でいたわけではありませんわ。いざというときに備えて、書き溜めていたんですの」
「何を?」
「ユーシス様のお小遣いの中身です」
お小遣い――? と、アリエッタ様はますます眉間に皺を寄せます。
ユーシス様は、あれで意外にも几帳面な一面があり、ご自分のお金の管理を、細かく帳簿に書き残しておりました。もちろんご自分で書かれたのではなく、近しい方に記載いただいているものではありますが。
「ただのお小遣い帳ではございませんわ。ユーシス様の腹心のハリー・ホール様が管理されている、いわば裏帳簿です」
隠し場所を突き止めるのは実に簡単なことでございました。勤勉とは言い難いユーシス様の執務室の本棚に、妙にホコリの溜まっていない本がある一角があり、その奥に、帳簿の原本が隠してありました。
ここぞ、というときに使おうかと思っていたのです。中々機会は巡ってきませんでしたけれど。
アリエッタ様はじっとわたくしの持つ手帳を見つめておられました。
「ユーシス様がお持ちの領地のお金が一部、とある男爵家に定期的に流れているのですわ。他にも、商人の家や外国の貴族まで。妙だと思いませんか? どうして王子様が、彼らにお金を援助しているのでしょうか」
これはわたくしの切り札でした。
「どうしてだというの――?」
「わたくしの調べによりますと、どの家にも美しい女性たちがいて、しかもある期間、地方に下がっていたことが分かりました」
困惑した表情を浮かべていたアリエッタ様ですが、やがてハッしたようにわたくしを見ました。
「まさか! ――そうなの?」
静かに頷き、わたくしは言いました。
「本日の式典には、わたくしも末席に招待されておりますの。パーティにも出席いたしますわ。またお会いしましょう」
未だ唖然とするアリエッタ様に手帳を託し、わたくしは部屋を後にしました。
建国祭の式典は大聖堂で執り行われました。国王陛下がご挨拶をし、我が国の発展を宣誓します。
王家の席にはセレナ様のお姿も、ユーシス様のお姿もありました。けれどレティシアはユーシス様の隣にはおらず、わたくしとお兄様の間にちゃっかりと座っておりました。
婚約者が隣にいないことに、ユーシス様はまるで無頓着のようで、代わりに別の美しい令嬢を伴っておりました。
今日のために賓客として招かれたはずのアリエッタ様のお姿はどこにもありません。パーティには来てくださると良いのですが、いらっしゃらないのならば、お部屋までお迎えにあがりましょう。
けれど心配は杞憂でありました。
その後、お城の大広間で開かれたパーティ会場には、彼女のお姿があったのですから。胸の前で組まれた両手にわたくしの手帳をしっかりと握りしめながら、彼女はユーシス様を睨みつけておりました。
当然、ウィルは無罪放免です。キースさんとマーガレットさんはとても喜んで、兄との再会を果たしました。わたくしとウィルの仲は誰しもが知ることとなり、皆の公認となりました。
さあ、これで、一件落着――というわけではありませんでした。
そうなのです。まだ解決しなくてはならないことがありました。わたくしの企みは、もう一つあったのですから。
その日は建国祭の当日でありました。昼には式典が、夕方からは親睦のためのパーティがございます。
ウィルとの暮らしを改めて始める前に、わたくしはお城の一室を訪ねました。いらっしゃったのはアリエッタ様です。
窓際に設置された一人がけの椅子に、ぼんやりと座っておられました。わたくしが入ると、けだるげな視線を一度だけこちらに向け、大きなため息を吐かれました。
「メイベル、あなたは随分と上手くやったのね」
お側に立ち、スカートの端を持ち上げて一礼してから、微笑み返しました。
「ええ、わたくし、欲しいものは何が何でも手に入れたくなってしまう質なんですもの」
わたくしの笑みにも、彼女の表情は優れません。わたくしがウィル相手にいざこざやっている間にも、アリエッタ様とユーシス様の間の溝は埋まっていないようでした。
「それで、なんの用なの? 夫と暮らして、ただの一般人になるあなたが、このわたくしに一体、なに?」
不機嫌そうなアリエッタ様に向かい、わたくしはそれを差し出しました。革表紙の、それは手帳でございました。
「なんなの?」
不審そうにしつつも、彼女は興味を引かれたようです。
「わたくし、伊達に何年もユーシス様の婚約者でいたわけではありませんわ。いざというときに備えて、書き溜めていたんですの」
「何を?」
「ユーシス様のお小遣いの中身です」
お小遣い――? と、アリエッタ様はますます眉間に皺を寄せます。
ユーシス様は、あれで意外にも几帳面な一面があり、ご自分のお金の管理を、細かく帳簿に書き残しておりました。もちろんご自分で書かれたのではなく、近しい方に記載いただいているものではありますが。
「ただのお小遣い帳ではございませんわ。ユーシス様の腹心のハリー・ホール様が管理されている、いわば裏帳簿です」
隠し場所を突き止めるのは実に簡単なことでございました。勤勉とは言い難いユーシス様の執務室の本棚に、妙にホコリの溜まっていない本がある一角があり、その奥に、帳簿の原本が隠してありました。
ここぞ、というときに使おうかと思っていたのです。中々機会は巡ってきませんでしたけれど。
アリエッタ様はじっとわたくしの持つ手帳を見つめておられました。
「ユーシス様がお持ちの領地のお金が一部、とある男爵家に定期的に流れているのですわ。他にも、商人の家や外国の貴族まで。妙だと思いませんか? どうして王子様が、彼らにお金を援助しているのでしょうか」
これはわたくしの切り札でした。
「どうしてだというの――?」
「わたくしの調べによりますと、どの家にも美しい女性たちがいて、しかもある期間、地方に下がっていたことが分かりました」
困惑した表情を浮かべていたアリエッタ様ですが、やがてハッしたようにわたくしを見ました。
「まさか! ――そうなの?」
静かに頷き、わたくしは言いました。
「本日の式典には、わたくしも末席に招待されておりますの。パーティにも出席いたしますわ。またお会いしましょう」
未だ唖然とするアリエッタ様に手帳を託し、わたくしは部屋を後にしました。
建国祭の式典は大聖堂で執り行われました。国王陛下がご挨拶をし、我が国の発展を宣誓します。
王家の席にはセレナ様のお姿も、ユーシス様のお姿もありました。けれどレティシアはユーシス様の隣にはおらず、わたくしとお兄様の間にちゃっかりと座っておりました。
婚約者が隣にいないことに、ユーシス様はまるで無頓着のようで、代わりに別の美しい令嬢を伴っておりました。
今日のために賓客として招かれたはずのアリエッタ様のお姿はどこにもありません。パーティには来てくださると良いのですが、いらっしゃらないのならば、お部屋までお迎えにあがりましょう。
けれど心配は杞憂でありました。
その後、お城の大広間で開かれたパーティ会場には、彼女のお姿があったのですから。胸の前で組まれた両手にわたくしの手帳をしっかりと握りしめながら、彼女はユーシス様を睨みつけておりました。
あなたにおすすめの小説
完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて
音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。
しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。
一体どういうことかと彼女は震える……
拗れた恋の行方
音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの?
理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。
大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。
彼女は次第に恨むようになっていく。
隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。
しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。
完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます
音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。
調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。
裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」
なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。
後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。
【完結】恋を失くした伯爵令息に、赤い糸を結んで
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢のシュゼットは、舞踏会で初恋の人リアムと再会する。
ずっと会いたかった人…心躍らせるも、抱える秘密により、名乗り出る事は出来無かった。
程なくして、彼に美しい婚約者がいる事を知り、諦めようとするが…
思わぬ事に、彼の婚約者の座が転がり込んで来た。
喜ぶシュゼットとは反対に、彼の心は元婚約者にあった___
※視点:シュゼットのみ一人称(表記の無いものはシュゼット視点です)
異世界、架空の国(※魔法要素はありません)《完結しました》
夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?
里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。
そんな時、夫は陰でこう言った。
「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」
立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。
リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。
男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。
***************************
本編完結済み。番外編を不定期更新中。
【完結】ねぇ、それ、誰の話?
春風由実
恋愛
子爵家の三男であるアシェル・イーガンは幼い頃から美しい子どもとして有名だった。
その美貌により周囲の大人たちからは、誰からも愛されて育つ幸福な子どもとして見られてきたが、その実態は真逆。
美しいが故に父親に利用され。
美しいが故に母親から厭われて。
美しいが故に二人の兄から虐げられた。
誰も知らない苦悩を抱えるアシェルは、家族への期待をやめて、早く家を出たいと望んでいたが。
それが叶う日は、突然にやって来た。
ウォーラー侯爵とその令嬢ソフィアが、アシェルを迎えに現れたのだ。
それは家に居場所のないアシェルの、ちょっとした思い付きから始まった行いが結んだ縁だった。
こうして王都を離れ侯爵領でのびのびと健やかに成長していったアシェルは、自分が美しいことも忘れていたくらいだったから、自身の美貌の余韻が王都の社交界にて壮大な物語を創生していたことに気付けなかった。
仕方なく嫌々ながら戻ってきた王都にて、大事な人を傷付けられて。
アシェルは物語を終わらせるとともに、すっかり忘れ去っていた家族たちとも向き合うことにした。
そして王都に新しい物語が創生する。それは真実に則った愛の物語──。
※2026.1.19 おかげさまで本編完結いたしました。ありがとうございます♡