12 / 69
マッケンゼン公爵の作戦
しおりを挟む(一体何なんだ、ジェレミア殿下は恋愛感情でシエラを…?)
眉間に皺を寄せ、悶々と考え込むリヒトをマッケンゼン公爵邸の者達は少し恐れながら遠巻きに見ていた。
「シュタイン。」
「は、はい!公爵閣下。」
「シエラ皇女と合法的に会える方法は?」
「えっ?」
「なんだ?」
「い、いえ…」
(あんなに嫌っておられたのに…)
「早急に探してくれ。」
「で、でしたら図書館に行かれるのはどうでしょう?」
「ほう….」
「毎週、皇立図書館へ行かれると有名ですので…」
「…俺も丁度調べ物がある。公爵以上のみが立入れる特別棟の鍵を、たまたま同じ日に申請しておいてくれ。」
リヒトの側近であるシュタインは顔を真っ青にして、初めてみるリヒトの様子に困惑したような表情のまま返事をしたのだった。
「は、はい。ですか閣下は皇女を…」
シュタインは続きを紡ぐのをやめた。
リヒトの瞳が此方を鋭く捉えたからであった。
「女性と、」
「?」
「婚約者と仲直りする方法は…、」
シュタインはまた驚愕した。
耳まで真っ赤になって、まるで初心な少年のように言うのだから。
目の前のリヒトは果たして本当に長年仕えているリヒトなのかと目と耳を疑った。
シュタインにとっては短い、リヒトにとっては長い数日が過ぎふたりは皇立図書館までの道程を馬車に揺られていた。
「長いな。」
「そうですか?いつも通りですが…あ、着いたようですね。」
「館内を好きに過ごせ。」
「いいんですか?」
「ああ、特別棟には公爵位をもつ本人しか入れないからな。」
「分かりました。なるべく近くにおりますので。」
「ああ、ありがとう。」
特別棟というには、それほど大きくないその場所は限られた者のみが入れる場所であり、普通では読めない重要な文献までもが保管されている。
噂によるとシエラは毎週ここを訪れているようだ。
そして、彼女はすぐに見つかった。
「シエラ皇女…」
「…?」
ゆっくりと顔を上げたシエラは相変わらず美しく、リヒトにとってその瞬間はスローモーションのようにも見えた。
「マッケンゼン公爵…、ご機嫌よう。」
「……。」
「私は行きますので、ごゆっくりどうぞ。」
実際は見惚れているのだが、反応の無いリヒトにシエラは気まずいのだと思い、気を利かせて席を立った。
シエラがすれ違う際に慌てて我に帰ったリヒトはシエラの手首を思わず掴んでしまって、すぐに離した。
「…っ申し訳ない。」
「いえ、何か?」
「邪魔ではありません。…どうかここに居て下さい。」
シエラは硬直し、少し驚いたような表情をした。
リヒトの表情はまるで置いていかないでと甘える子犬のようで、シエラはまるで、目の前に黒い大型犬にでも懐かれたような錯覚を覚えた。
「…ええ。」
(なぜ、隣に座るの…?」
椅子を引いてシエラをエスコートすると自らも隣に座ったリヒトに、シエラは訝しげな表情をした。
「ご迷惑でなければ、ご一緒しても?」
「迷惑ではないけれど…他にも席は空いていますが?」
「たまたまこうして会えたのですから、これも何かの縁でしょう。」
シエラの怪しむような視線に咳払いをして、適当に取ってきた本を開いた。
(たまたま?私が来る時は必ず避ける人なのに、なにか理由があるんだわ。)
「何か、理由があるの?」
「へっ?」
「会いに来たのでしょう。」
以前のシエラなら甘くはにかんで「会えて嬉しいわ。」と言ったはずだが、何も感じ取れない表情で言うシエラは本当にリヒトへの想いを断ち切ってしまったのだろうと感じ、リヒトはギュッと自らの手を握りしめた。
「何も、理由がないと言ったら?」
「貴方に限ってはありえないでしょう。」
「…っ」
「今は二人です、ここで良ければ聞くわ。」
リヒトは本を置いてシエラに向かい合った。
本を閉じたシエラの手にそっと自らの手を添えて指先を軽く絡めた。
縋るように、眉尻を下げてシエラを見つめる。
解消したいとはいえ、シエラにとって最も愛した人。
熱を持つ瞳で見つめられ、心臓が大きく波打つ。
動きを止められたかのように動けなくなりただリヒトを見るのが精一杯だった。
(どうしたらいいの…、罵られるのは慣れていてもこういう展開は意図が分からなくて不安だわ…それに、なんだか……)
指先を絡め取ったまま、椅子から降りてシエラの足元に跪いたリヒトは愛おしげにシエラの指先に何度も触れるだけのキスをした。
くすぐったいような、甘く優しい刺激にシエラは目を泳がせながらも頑張って平静を装ったがそんな姿が愛らしく、リヒトは薬指にキスするとシエラをまるで世界で一番愛しているかのような表情で見上げた。
「ただ、貴女に会いたかっただけです。」
「…っ、」
「信じて貰えないなら、ここで証明しますが。幸い今は二人ですので。」
「…わかったわ、だから離して。」
「ご理解頂けて良かった。」
そう言って手を離したリヒトはいつもの笑顔で、何事もなかったかのように隣に座って本を読み始めるのであった。
「妙に椅子が近くないかしら?」
「そうですか?俺にはわかりませんが。」
(害意が無いなら良いわ…、もう)
28
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。
愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。
ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。
ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。
二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。
時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し……
全ては、愛する人と幸せになるために。
他サイトと重複投稿しています。
全面改稿して投稿中です。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?
神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。
(私って一体何なの)
朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。
そして――
「ここにいたのか」
目の前には記憶より若い伴侶の姿。
(……もしかして巻き戻った?)
今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!!
だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。
学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。
そして居るはずのない人物がもう一人。
……帝国の第二王子殿下?
彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。
一体何が起こっているの!?
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
売られた先は潔癖侯爵とその弟でした
しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ルビーナの元に縁談が来た。
潔癖で有名な25歳の侯爵である。
多額の援助と引き換えに嫁ぐことになった。
お飾りの嫁になる覚悟のもと、嫁いだ先でのありえない生活に流されて順応するお話です。
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる