悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

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触れてはいけない優しさ

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貴女は知らなすぎる、そう言って私の前に膝をついた彼は愛おしい人でも見るかのように甘く切ない表情で私の頬に触れた。


前回の人生ではありえない展開に、心臓はバクバクと音を立てて、息はうまく出来ない。


婚約を解消して欲しいと言ってはいるものの、前回の人生からあれ程に愛した人を突然嫌いになれる訳がなく、ただ、命の方が大切だと言う消去法なのだ。



「ま、マッケンゼン公爵…?」


「例えば…」



リヒトはそのままシエラの美しい手を取って指先に口付ける、



「貴女の美しい身体に口付けをできるのも、…」



そのまま唇でなぞるように腕から肩に、肩から鎖骨、首元へと口付ける。

段々と近くなる距離に抱かれた腰。


顔から火が出るのではないかと思うほどの距離。




「貴女の唇を奪うのも、」


唇に触れるか触れないかの距離でそう囁くリヒト。


ぴたりとひっついて固定された腕は流石戦では最強と言われる男、シエラでは全く動かない。


もう一生分を使い果たす程に心臓は早く鳴り、不思議と危険を感じない優しく切ない瞳に呑み込まれそうになる。

まるで、求められているかのように。



「貴女が触れるのも、ぜんぶ…貴女が愛した人にしかしてはいけない。」




「…それは、どう言う意味?」



「もう、俺を愛していませんか?」


「……。」


シエラは思わず返事が出来なかった。

前回の人生でのリヒトを恨んではいないものの、もう一度愛せる勇気など持ち合わせていない。


だが今のリヒトはまだ知らないのだ。


そして、シエラが変わったようにまたリヒトも変わっている…


シエラは混乱した。


触れそうな唇が熱くて、ドキドキとうるさい胸は苦しい。

思わず瞳が潤い、言葉にならない頼りない声だけがあがる。



「ゃ…リヒト、離れて下さい。」


「やっと、名前を呼んでくれましたね。」


「あ、ちが…っ」



「普通、弟とはこう言う事はしません。女性が身体を許すのは生涯愛する男一人のみです。」


「えっ…、」


前も今も、ジェレミア以外に触れられた事も、触れた事もなかった。

近頃のリヒトは様子がおかしく、よく構ってきたが、




「まさか、これを伝える為に…?」




「それだけではありませんが。…頬が赤く涙で目が潤んでいる。こういう事はの愛情表現としてしません。」


「あ、リヒ…んっ!」


深くシエラに口付けたリヒト、必死で酸素を求めるシエラはリヒトにしがみついていた。



「…っじゃあ!貴方もだめよ!!!」


「殿下はだが、俺は貴女の婚約者です。」

「そんなっ…解消すると…」


「黙って。…ここも、…ここもジェレミア殿下に?」




「…っ、」


「図星のようだな。…今後はだめだ。貴女はもっと大切にされるべき人なんだから。」



シエラの身体をなぞるリヒトの指の感触は優しくて、恐怖心などは感じないが何故か植え付けられた意識がジェレミアに申し訳なくさせる。



「だめ…ジェレミーに叱られるわ。」


「!?…相当根深いようだな。」



リヒトはシエラを救うには愛が必要なのだと悟った。


常識を知り、愛を知ればシエラはジェレミアから解放されるだろうと。




「シエラ皇女…、やはり俺とちゃんと、」



息があがり、抜け落ちた力で必死にリヒトにしがみつくシエラに甘く、懇願するような声でリヒトが何かを伝えようとすると、


バタバタと慌てて走る足音と同時に扉が開け放たれ、悲鳴が響いた。




「何やってるの、リヒト!!!!!!」




そこに立っていたのは、前回の人生の最後に見たリヒトの隣に居た、黒髪に緑の瞳の可愛らしい令嬢が怒りの表情でこちらを見つめていた。



「…!…メリー、取り込み中だ。出てってくれ。」



「なっ!なんてふしだらな!に手を出すなんて!!!!!」




その言葉はシエラの心を抉りとるようだった。


ソファに押し倒され、リヒトの下で乱れたドレスから白い脚を覗かせる姿はまるで絵画のような美しさで、


熱っぽくも、切なく愛おしげな瞳でシエラを見つめるリヒトの乱れたシャツから覗く鍛え抜かれた身体もまた絵画のようであった。



メリーと呼ばれた女性は思わず見惚れてしまうものの、すぐに怒りを取り戻してリヒトのシャツの背中を思い切り引っ張って引き剥がそうとする。





先程までシエラの大切な所に甘い快感を与えていた指先がテラテラと光り、まるで浮気現場に乗り込まれたかのような背徳心に駆られた。


「あっ…、」


「メリー、いい加減にしろ。」



「リヒトの馬鹿!皇女様を愛して居ないと言っていたじゃない!」


「何を…っ!」



「マッケンゼン公爵…、退いてください。」



「シエラ…、」


急いでシエラに上着を被せたリヒトがシエラから退くと、シエラは身なりを適当に整えて俯いたまま上着を返す。


(そうよね、あまりに無知だから同情されただけ。選択を間違える所だった…優先事項は国を出る事、彼の愛を求めてはいけないわ。)



「お返しします。…どうかしていたわ、けれどご忠告は身に染みました。」


「…シエラ皇女、!」


「協力関係は続けましょう。今日は帰ります、リンゼイを…」





「皇女殿下、リヒトは少し魔がさしたようですが普段はとても良い人なんです!だから…気分を害さないであげて下さい…」





「えっと、メリーさん?…安心して下さい。私も、マッケンゼン公爵を愛していませんから。」



「シエラ皇女…っ!」



そう言って恐ろしい程美しか微笑んだシエラはリヒトの引き止める声を無視してロビーへと足を進めた。




(邸どころか、部屋に自由に出入りする仲…もうこの時点からそのような仲だったのなら過去の私は元々ただの邪魔者だったはずね。)



(今回は失敗しないわ。きっと逃げて生き残ってみせる。)



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