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貿易船テハード
しおりを挟む「グレン、お休みの日にごめんなさい」
「いいえ。シエラ様からのお誘いでしたらいつでも参ります」
「ありがとう。今から向かうテハードの主人は女性でかなりのやり手よ、気に入らない者とは仕事をしないわ」
「シエラ様ならきっと大丈夫でしょう」
「私の噂を知っているでしょう?上手くいくといいのだけれど…‥.とりあえず約束は取り付けたわ」
「俺も尽力致します!」
「ええ、じゃあ行きましょう。馬車はリンゼイとモンドに任せたわ。一応二人とも顔を隠しておいてね」
「「はい!」」
モンドもリンゼイとミンリィのスパルタ訓練によってかなり武術の腕を上げたようだが元々高い背のおかげで剣を扱うのが合っているようで馬丁でありながら騎士顔負けの能力を培っていった。
テハード船はかなり大きな船で、到着するなり強面の男がシエラ達を威嚇するように待ち構えており、奥まで案内した。
「思ったより早く来たようだね、お嬢ちゃん」
「シエラ様に無礼………」
「いいのグレン。少し早すぎたようで申し訳ありません」
「ほう、無能で我儘、傲慢な娘だと聞いていたが……礼儀正しい上に賢そうにみえるね」
「それは光栄です。此方は仲間のグレンです」
「部下じゃないのかい?」
「ええ、彼は仲間よ」
「あっはっは!!」
「?」
「お偉い皇女様がまさか、仲間なんて言うとは思わなかったよ!」
「何かおかしいのでしょうか?」
「いや、気に入った!傲慢なだけの貴族達や王族とは違うらしい。話してみな!」
(何だか分からないけれど良かったわ……)
「ウェヌス本店、簡単にいうと拠点をとある場所に移したいのです。そして表向きは無関係な支店をこの場所に置いておきます。テハード商船には引越しの協力と、本店と支店を貿易で繋ぐ役割を専属でお願いしたいのです」
「ほう……あんた高飛びでもすんのかい?」
「……今はまだ何も話せまんが受けて下されば、かなりの利益はお約束します。こちらが支店で得たいものは利益ではなく情報とこちらの仲間たちの安全ですので」
「私も仲間を危険には晒せないよ」
「移転先より護衛がつきます。海と向こうでの安全性は保証しましょう」
「どう信用しろと?」
「でしたら、引っ越しの際には俺が同行します」
「グレン!」
「仲間……だなんて言われたら信頼するしかないでしょう」
「っつい本音が出ただけよ!……あっ」
「「ぶっ!!」」
「いいだろう!とりあえずウェヌス本店の移転については引き受けよう。その後の取引については商いの状況を調べてからだね」
「いいわ、では打ち合わせは安全の為に二回のみ今日を含めて三回きりです」
「まかせな、うちはテハードだよ。申し遅れたね……あたしはマリアンヌ・テハード。マリアかテハード好きに呼んでくれてかまわないよ」
「こちらこそ、申し遅れました。ティアラ・ヒペリュアンです。私がウェヌスのオーナーだという事はどうか秘密にしておいて下さい」
「こちらも、取引先への守秘義務があるからね安心していいよ」
「信じます。いくらかの注意事項とおおよその計画を本日お話します、それについて問題点や無理があれば次回練り直しましょう」
「そうだね、じゃあ……シエラ様と……」
「グレン・クレマンです。ご挨拶が遅れて大変ご無礼を致しました」
「いいんだよ、貴族なんてものは堅いねぇ!もう同じ船に乗った仲だ、よろしく頼むよグレン様!」
「俺に敬称はいりません」
「そうかい?じゃあグレンしっかりと船の中をみておきな。二人とも、会議室に案内するよ……」
三人は数人のテハードの者達を交えて話し合った。
思いの外スムーズに話し合いは進み、何度かの出航に分けてウェヌスを移転させる方法に話がまとまった。
「商船であるテハードならば何度も国を往復した所で疑われる事もないだろう、あたしがいる限りここでの商売は自由にできる約束だからね」
「助かるわ…….、あとは協力者の話なのだけどこれは向こうの意向でもあって最期まで伏せさせて貰いたいの。絶対に害はないと約束するわ」
話は簡単だった。
こちらの領海を出た所にある海の真ん中にあるどの国にも属さない孤島。
セボン島に停泊するとある船に荷物を移すだけの作業だった。
「まぁ、あたしらに害がなけりゃその辺は問題ないさ。この船だったら大体三往復で住むだろうだけどあまりに時間が足りないねぇ」
「ウェヌスの整理にはもう取り掛かっているから安心して、数日以内で三回分に分けるわ」
「グレンも支度をしておきな、遠くないとはいえ船旅は過酷だよ」
「分かりました」
シエラの宣言どおり、表向きは通常通り営業しているように見えるウェヌスの内部がすっかりと空っぽになるのはあっという間だった。
裏のウェヌス邸ごと売った事にして、自ら買い戻したシエラはウェヌスではなく「ボンズ」と名づけすっかりと増えたウェヌスの一員の中でこちらに残る者達だけを残した新しい店としてすっかりと商品と店の雰囲気を変えた。
表向きのオーナーはグレンで、あくまでウェヌスが解体される際に独立したのだという設定だった。
帰り道、グレンはあと何度並んで歩けるのだろうとシエラを盗み見た。
家門にとっても、自分にとっても恩人であるシエラが何故国を出たいのかは知らなかったが引き止めてはいけないような気がした。
「シエラ様」
「なに、グレン」
「たまにはこっそり会いにいっても?」
「気が早いわよ、まだまだ先の話でしょう」
「理由は……聞かない事にします」
「いつか、あなた達には話すわ」
(さあ、退路は出来た。もう今は一人じゃないし繋がれてもいない自由よ)
(だから、きっと運命から逃げ切ってみせるわ)
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