八年間の恋を捨てて結婚します

abang

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婚約者と元婚約者

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ウィクトル大公家の婚約となれば国にしてみても大事、混乱を避ける為に一ヶ月後の婚約パーティーにテンタシオンとルージュの婚約を発表することが決まった。

一ヶ月……貴族の、それも大公家の婚約式にしたらかなり短い準備期間だと言えるだろう。

その間に二人がすることは山積みだ。


それにも関わらず、テンタシオンは付き合いで顔を出すだけのつもりだった紳士ばかりの社交場でアルベルトに絡まれている。


横目で時間を確認しながら要件を急かすようにアルベルトに尋ねる。


「挨拶は先程聞きましたが?」

「いえ、気になることがありまして」


貼り付けた作り笑顔、苛立ちを隠せていない声色。
少し飲み過ぎたのか赤い顔したアルベルトは目が据わっている。


「気になる事とは?」

ルージュの事なんですが……」

「あぁ!(私の)婚約者のことですね」

「近頃よくお世話になっているようですが、余計な期待を持たせては困ります」

「婚約者といえば……」



テンタシオンの含みのある笑顔にアルベルトは今度はあからさまに眉を寄せた。

成り行きが気になるのか紳士達は二人のやり取りを気にしない素振りだが見守っている。


「私の婚約者がとある店で予約の品を受け取る際に、侯爵の忘れ物を手違いで受け取ったそうなんです」


アルベルトはテンタシオンの意図が分からず首を傾げた。

そもそも彼に婚約者が居ることに周囲は驚き、アルベルトはテンタシオンの従者が持ってきた紙袋を覗き込んで驚愕する。

思わず紙袋を落としたアルベルトは顔面を蒼白にし両手で顔を覆った。


床に落ちた紙袋から覗く毒々しいまでの派手なレースの下着、もちろんルージュのものではないし、何故テンタシオンの婚約者のものだと思われたのかもわからない。



「ブティックの個室で悪さをするのも程々に」


テンタシオンがアルベルトの肩にポンと手を置いて通り過ぎる。
困惑するアルベルトとは違って周囲の者たちは皆気付いているだろう。


二人の言う「婚約者」が同一人物なのだと。


新人の店員が手違いでルージュをアルベルトの婚約者だと思って手渡したのだろう。

大抵、高位貴族の事情に詳しい平民なんて珍しいし、ましてや今は婚約解消もテンタシオンとの婚約についてもまだ表立っていない。


皆がそう気付いている中、よほど察しが悪いのか希望的観測かアルベルトは過ぎ去ろうとするテンタシオンに声をかける。



「婚約者が居るなら……っ、悪戯に弄ばないで下さい」

「おや?侯爵にもまだ婚約者がいるのですか?」

「何を白白しい……」

が得意なのは其方でしょう」


男なら一度くらいはなぁ……とコソコソ話す男たちの胸糞の悪い言葉を聞こえないふりしながらテンタシオンは笑顔を作ってアルベルトを牽制するように見下ろした。


馬鹿な男たちだけではない。

勿論、アルベルトを軽蔑する声も聞こえているし大抵そういう男達は妻を誠実にきちんと愛して、公私共に成功した人格者だ。


アルベルトは顔を真っ赤にして「貴族の男ならこれくらいの事!」と言いかけたがテンタシオンの全ての感情が抜け落ちたような表情を見て言葉を失った。


「たった一人とも誠実に向き合えない人間は信用しません」



アルベルトの言葉にもう耳を傾けることはしなかった。


表面上はプライベートだが此処はビジネスの話をする場所で個人的な話をしに来たわけではない。

けれど此処でを始めたのはアルベルトだ。


それにもうルージュは彼の婚約者ではない。


黙っていられなかった自分も大人気ないなと反省しながら、馬車に乗り込んだあと従者にバレないように溜息をついた。


けれどルージュの顔が浮かんで黙っていられなかった。


きっと新人とは言えあんなミスを犯したのはメーデアの何かしらの嫌がらせだろう。


けれどそれももう少しで全て終わる。

ルージュは弱い人じゃないし、テンタシオンも彼女を誠心誠意大切にすると心に決めている。


「あと、ひと月だ」


きっとアルベルトは現実と向き合うことになるだろう。


「少し目を閉じるよ」

テンタシオンはアルベルトへの苛立ちをかき消すように瞼の裏にルージュの笑顔を思い浮かべた。




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