元カレの今カノは聖女様

abang

文字の大きさ
5 / 56

いざ、領地へ!!

しおりを挟む


「私の可愛い娘イブよ……、本当に領地へ戻るのか?」



「ええ、お兄様もそろそろ首都で活躍しなければなりませんし、丁度私も領地の管理をできる程の教育は受け終えていますもの」



「向こうから望んで結んだ縁談だというのに……すまないなイブ……」



「いいのです、誰が殿下の恋心を予想出来たでしょう」


「とは言っても、私が断っていれば……」



「いいの、お父様。私は領地もお父様もお兄様も大好きですもの」



「イブ……、困った事があったらすぐに言うんだよ」


「ありがとう、お父様……では、行って参ります」


「ああ、いってらっしゃい」



ピンク色の美しい湖が恋人達の愛を祝福すると有名な観光地でもあるアフェットは資源豊かなバロウズ公爵領でその土地も広大である。


首都からそう遠くないこともあり年中観光で人が溢れていて賑やかだ。


淡い桃色の外壁が印象的なバロウズの領地にある公爵城は流石公爵家というところか、装飾が繊細で美しい。



馬車で半日ほどで到着すると、既に運び込まれている荷物はもう綺麗に整理整頓されていた。


急いだのか、少し息を乱した兄カミルが優しい表情で出迎えてくれた。



「お兄様、ただいま戻りました」


「イブリア!おかえり……疲れただろ?今日はもう休め」


「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて……」



温かくイブリアを迎えてくれたバロウズ公爵城の皆は久方ぶりに見る、立派な令嬢となったイブリアを見て涙ぐみながら喜んだ。



彼女の為に丁寧に散りばめられたバラの湯船に浸かりながら、イブリアはルシアンと国を良くしようと約束した幼い頃を思い出す。


ルシアンからイブリアへの恋愛感情を感じたことは無かったが、彼とは深い信頼関係を築けていると思っていた。


イブリアの一方通行の愛だとしても、ただ彼からの信頼を貰えるだけで彼を支え、彼に人生を捧げられると思えるほどに愛していた。



(アカデミーに入ってからかしら……)



いつからだったのか、聖女とルシアンの噂を知った時にはもう愛しい人の視線は聖女に釘付けだった。


次々に、友人達も聖女セリエにあっさりと陥落し自由人であまり人に執着しないテディまでもが彼女に度々構っているようだった。



「……ほんと、十五歳より後はいい事が一つも無いわ」



閉じていた目を開いて、うんざりしたように独り言を呟いたイブリアは辛い恋を思い出している内に、今感じている解放感に気付いた。



肩の荷が降りた様な、もう傷つかなくてもよいという安心感。

やってみたい事や、もう二度とやりたくない事が沢山浮かんだ。



「もう、未来の王太子妃ではないのね。ここは皆温かいし……やりたい事だって好きに出来るのね!」



考えれば考えるほどに、今の状況はイブリアにとって衝撃だった。


今までの人生で自分の自由に一日を使えた事など一度も無かったから。


いつも冷静で、王太子妃になるべくして恥ずかしくない行動をと慎ましやかなイブリアが珍しく鼻歌を歌って、ご機嫌な様子で湯浴みから帰ると侍女達は驚きながらも嬉しそうにした。


「イブリアお嬢様、何かいい事がおありでしたか?」

「お嬢様のそのようなお顔は久々に見ましたわ」



侍女のアメリアは三つほど歳上のとある没落貴族の令嬢で、孤児になった彼女とイブリアが出会った事でバロウズ公爵家で引き取ってからの付き合いだ。



もう一人の侍女、メアリもまた家門の経済難から若くして富豪の老貴族に売られる所を偶々イブリアに出会った事で免れた者だった。


二人はイブリアの堂々とした振る舞いへの尊敬や、イブリアに対する恩義、そしてクールだが温かい心のイブリアを家族のように愛した。




「あなた達まで領地に連れてきてしまっておいてこんな事を言うのは気が引けるけれど……開放感に浸っていたのよ」


「そうでしたか、私達は何処であろと貴女が居られる所が居場所ですよ」


「そうです!だから、そう仰らないで下さい!」



「けれど……恋人や、友人がいたのではないの?」



「いいえ!メアリはお嬢様だけが大切な人です!」


愛らしい赤毛を二つに束ねた彼女は凄い魔法の才に恵まれながら、父親のギャンブル癖の所為で売られ、侍女などをしている。


イブリアは二人の幸せを願っており、メアリに「いつかはメアリの恋人を見たいわ」と困ったように微笑んだ。


少し考えてから冷静に「居るには居ますが……」と言葉を濁したアメリアの恋人が領地の料理人であるマスタフであった事に話は盛り上がり、

まるで普通の令嬢のように恋の話で盛り上がった。


こんなにも穏やかで、楽しい夜更かしは初めてだった。


しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」 謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。 けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。 なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。 そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。 恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。

パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。 全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

処理中です...