7 / 56
お嬢様は悪女なんかじゃない
しおりを挟む王宮とは違って、バロウズ城はとても快適だ。
意地悪をする聖女信者の使用人も居ないし、山のように積まれた書類も、過酷に刻まれた予定もない。
(些細な嫌がらせでも、侮られないように罰さないといけないから此方も心が削られるのよね)
ソファに座るイブリアを囲む侍女とメイド達は、イブリアが退屈しないように領地での出来事や、使用人達の恋の話などをしてくれていたが、
ふと、新聞の「消えた悪女、婚約破棄は!?」と書かれた見出しが目に入るとメアリは我慢できないというように怒りを露わにした。
「に、しても王都の者達は本当に無礼な者ばかりですね!」
「……きっと、お暇な方が多いのでしょう」
口調こそ丁寧なものの、笑顔で新聞を破ってしまったアメリアから何か黒々とした雰囲気を感じてメイド達は顔を青くした。
「ふふふっ!」
「「「「イブリアお嬢様!?」」」」」
珍しく突然笑い出したイブリアの久々に見る無邪気な笑顔に、驚いたもののすぐに皆も笑顔を零した。
「アメリアったら相変わらず辛辣なんだから……でも間違いではないわね。忙しそうに偉ぶってる人ほど暇なのよね」
「ですが!お嬢様はそんな王宮で、王妃殿下や王太子殿下の補佐や国王陛下のお使いまで、アカデミー生の頃からずーっとこなされていたんですよ!」
「イブリアお嬢様は、お一人で頑張ってこられました。あのクズ野郎共などの為に気を揉んで差し上げる必要はありません」
「メアリ、アメリア……そうね、ありがとう皆」
実は、アフェットで仕える者達や領民は王家や他の者達からのイブリアへの不当な扱いに憤慨しており、あえてイブリアの現状を外に漏らさぬよう彼女の生活が平和であるように結託しているのだった。
それは、領主であるイブリアの父とイブリアの兄カミルも了承しており王都からの記者の立ち入りの制限や、ルシアンからの問い合わせを完璧にスルーするという力業は二人の権限で行っている。
「そういえば……もう一人、お嬢様のお帰りを心待ちにしている者がおりますよ!」
メイドのアンが嬉々とした表情でそう言うと、メイド達は何か気づいたようでそわそわと何か言いたげにし始めた。
王都から共に来たアメリアとメアリはイブリア同様、何のことだかわからないようでメイド達にそれはどういう意味かと促すが、メイド達は揃って
「もう少しのお楽しみです!」と嬉しそうに言うだけだった。
イブリアは領地の者達を信頼している上に、ここは王家も手の伸ばせないアフェットである。
特に疑うことでもないだろうと「それじゃあ、楽しみにするわ」と軽く受け流したが、イブリアが考えているよりも遥かに彼女の心を動かす出来事が数日後に起こるのだった。
相変わらず、平和なアフェットでの生活を満喫しているイブリアは、妙に賑やかなバロウズ城を不思議に思っていた。
「アメリア、今日は何かあったかしら?」
「いいえ、何やら皆楽しげですね」
「今日は、カミル様がお戻りになられる日ですよ!」
「そうだったわ……支度しましょう」
「では、メイド達を呼びます」
準備を終えると、兄の到着の知らせが届き出迎えることにしたイブリアは正面玄関でカミルを待った。
(えっ!)
兄カミル同様ソードマスターの資格を持ち、アカデミーでは魔法の天才と呼ばれた彼は王宮の魔法騎士団を断ってバロウズ城に仕えている。
市井で孤児として育った彼の魔法の才を見出し、引き取って育てたイブリアの父への恩義でバロウズを選んだのだろう。
彼はイブリアの護衛騎士になる筈だった、イブリアの良き理解者であり師匠でもあり、彼女が最も信頼のおける人だったがある時、ルシアンの些細な嫉妬から王妃の根回しによって、魔法騎士団への派遣要請という建前で辺境の地へと引き離されたのだ。
「なんで、貴方がいるの……っ?」
幼い頃からずっと兄のように慕っていた。
いつもイブリアを守り、イブリアの傍にいてくれた人だった。
どんな身分の人にも屈せずイブリアだけを信じてくれた。
いつも無条件で味方でいてくれた人だった。
だから、自分の所為で辺境へ送られてしまった事には酷く後悔していた。
彼に頼らずに一人で立っていられる程強い自分だったなら……ルシアンを誤解させる事もなかったのだろうかと。
(私が酷く傷つくたびに、貴方は傍にいてくれたのに私は……)
王妃の理不尽から守ってあげられなかった。
「ルシアンの妻になるなら、変な誤解や噂があっては駄目だ」と高圧的に言った彼女と彼女の権力に抗うことが出来なかった私も兄も、父も……ずっと、いつか呼び戻す為に、其々の努力をしていたのだ。
(婚約破棄によって、王妃殿下の手から離れられたのね……)
「ディート…っ」
忘れる訳がない、私の為に全てを置いていった人
謝っても謝りきれないほど、感謝してもしきれない程に
ずっと私の味方でいてくれた人
黒いサラリとした髪と、あの頃より大人びた整った容姿。
鍛えられた身体は、大人の男性になっているが黒にも見える深い紫色の瞳は星を閉じ込めたような輝きを失っていない。
「イブリアお嬢様……」
少し低くなったが、声もあの時のディートリヒのままだ。
「私の所為で……辛い思いをさせたわ、ごめんなさい」
「いい修行になりましたよ。……ただいま戻りました」
215
あなたにおすすめの小説
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる
冬野月子
恋愛
「私は確かに19歳で死んだの」
謎の声に導かれ馬車の事故から兄弟を守った10歳のヴェロニカは、その時に負った傷痕を理由に王太子から婚約破棄される。
けれど彼女には嫉妬から破滅し短い生涯を終えた前世の記憶があった。
なぜか死に戻ったヴェロニカは前世での過ちを繰り返さないことを望むが、婚約破棄したはずの王太子が積極的に親しくなろうとしてくる。
そして学校で再会した、馬車の事故で助けた少年は、前世で不幸な死に方をした青年だった。
恋や友情すら知らなかったヴェロニカが、前世では関わることのなかった人々との出会いや関わりの中で新たな道を進んでいく中、前世に嫉妬で殺そうとまでしたアリサが入学してきた。
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。
パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。
全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる