元カレの今カノは聖女様

abang

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再会は偶然のミス

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国王が部屋を出てゲートを開いて帰ろとしたところ、「父上失礼します」と顔を覗かせたのはルシアンだった。



「「「!!!!」」」


「な……イブリア!?」


「はーーっ」と珍しくあからさまに面倒そうに長めの溜息を吐くと顔を嫌そうに歪めた。



「陛下なら居ないわ、早く行って下さい」


「待って、イブリア。王都にいるなら何故姿を見せない?」


「何故、もう婚約者でもない貴方に態々顔を見せる必要があるのでしょう?」


「……それは」



「イブリア、時間だ」

「公爵……、少し時間をくれないか?」

「私でなく娘に聞いて下さい殿下」

「イブリア……頼むよ、君と話したいんだ」

(今さら何を話すというのかしら、可笑しい人ね)



イブリアの苛立ちが分かるのか、ディートリヒはイブリアと目が合うと、肩を抱くように隣に立って「大丈夫ですか?」と心配そうに尋ねる。




「……ディートリヒ」


「ルシアン殿下、お久しぶりでございます」


「いつ戻った?」


「つい最近です、殿下」


「ーっイブリア!少し話そう!」


嫉妬心が隠そうにも隠し切れないルシアンは苛立ちを抑えるように、深く息を吸った。

一方、表情を変えないディートリヒはイブリアを見る時だけ視線が緩まる。




(何故、ディートリヒが側にいるんだ)



「イルザ様、イブリアお嬢様……いつでも開けます」


「そうだな、ディートリヒ。殿下……私共はまだ仕事がありますので失礼致します」


「失礼致します、殿下」


(ディートリヒ、相変わらず無礼な…….ゲート!?)



「イブリア、君のように高貴な女性に似合わないぞ!」



(ルシアンは何を言っているの?ディートのこと?)


「少なくとも、殿下よりは私に誠実ですわ」


「どう言う関係なんだ!?」


「大切な人よ」

「大切な人です」




「イブリア!!!」


ゲートをくぐる三人を追いかける訳にはいかずに、ルシアンはただ呆然とゲートが開いていた場所を眺めた。


「……何をしてるんだ私は」


(でも、別れてすぐにディートリヒを呼び戻すなんて……)



何故だか少しイブリアに裏切られた気がしたルシアンは、自分でも分からない感情に苛まれ、息苦しかった。


いつも自分だけを見つめて、多忙なはずなのに気遣ってくれたイブリア。




"王になれば……貴方の世界はまた変わります"



"なので、今しかできない事を、友との時間を過ごす事を私に否定する事はできません"



"友との関係を、未来に貴方の側にいる信頼できる人との関係を深めることには、私も賛成です"



執務が疎かになりそうだった時、ルシアンの為に補助に努めてくれたイブリア、諌めながらも将来、国王になると言う事を理解し決してルシアンを否定しなかった。




"けれど、執務を疎かにしてはいけませんよ"


"貴方の評価は、貴方が支えなければ……"



次々と思い出すイブリアの言葉、窮屈に思うたびセリエが慰めてくれたがイブリアはいつも、自ら身を粉にしてルシアンを支えながら耐えてくれていたのだと今更になって気付く。



それと同時に、セリエの心優しい言葉が甘美に心に響いた。


"貴方は王になるからと言って、気を張りすぎます"


"少しくらい、休んでもいいのです"


"イブリア様は少し気を張りすぎるから、ルシアンの負担になるのね……"


"皆があの人のように完璧ではありません……気になさらないで"



確かに、なんでも出来たイブリアに自分は劣るのではないかと不安になる事はあった。


けれども、自分の中では王になった自分にはイブリアありきの将来だった。



彼女が何でも完璧に出来た訳ではないのを忘れていた。


血の滲んだヒール、腫れ上がった手の甲に、隠れて泣いた後の腫れた目……



睡眠不足なのか、うっすらとある目の下のクマやたまに貧血気味で倒れそうなのに、立ち止まって我慢し平然を装う強情な所。


扇子を開いて立ち止まるその姿は、辛い筈なのに凛として美しかった。


すべて「もう慣れた」と言わんばかりの今のイブリアでさえも、

王宮に来なくなってから、久々に見た彼女の血色のいい顔色を見るだけで分かる。いまが幸せなのだと。




"ルシアン、平気でしたか?"

"怪我はありませんか?"

"楽しそうで良かったです"



(辛いのは自分のだった筈なのに、イブリア……)




歳を取ってからの子だったからか母はルシアンをひどく溺愛している。

王太子でありながら今までこんなにも自由で快適に暮らせてきたのは


(もしかしたら、その分イブリアが……)



「ルシアン……っ、ここに居ると聞いて、どうしたのですか?」

「セリエ……私は」


考えるのが嫌になった。


今はセリエの顔を見るのも嫌だったが、彼女の慈悲深い瞳と少し冷たい手は心地よかった。


煮えたぎる嫉妬心と自己嫌悪



「ルシアンは充分頑張っているじゃありませんか……お疲れなのですよ」


そう言って暖かい光を放ち、疲労回復の魔法をかけてくれるセリエはまさに憧れていた聖女そのものだったが、



(本当に疲れていたのは私ではなかったのかもしれない)



「貴方はとても素晴らしい人です、そんな所も愛しています……あっ」



「えっ……」


恥ずかしそうに頬を染めるセリエに驚く、何となく好意を感じてはいたがまさかセリエから「愛してる」と告げられるとは不意打ちだった。



美しい銀髪がサラリと揺れて、爽やかな緑目は恥ずかしそうに伏せられている。


淡い桃色の唇が物欲しげに少し開いて、「ルシアンを慕っています」と呟いた。


イブリアをこんなにも手放したくないのに、彼女に惹かれてしまう自分はまるで逃げ道を探しているようだと思った。


けれど、この優しいも深いセリエの愛を受け入れないのは惜しいとも感じた。


「私は……」

「返事はいりません。ずっと待っています。ルシアンを想って……」


そう言って柔らかい唇が触れるか触れないかの距離で微かに合わさると、セリエは「先に行きます」といそいそと部屋を出ていった。



セリエを受け入れれば、イブリアは完璧に手放さねばならない。


聖女の甘美な誘惑に熱くなる体温と、イブリアを失うことを恐れ冷たくなる頭の中は矛盾して、反発し合う。



(疲れた……部屋に戻ろう)




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